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アフタヌーンティー・ストーリーその1

突然だが、アフタヌーンティーが好きだ。

どのくらい好きかというと、
オジサン1人でアフタヌーンティーを注文し、周りの目を全く気にせずに1人で完食するという行為を何度も行ってきたくらい好きだ。

アフタヌーンティーは女子数名がワイワイ食べるものだと、誰が決めた? オジサン1人で味わって何の問題が有るというのだ!? と、キレ気味に書いてはみたが、実際は全くキレていない。

とはいえ、ソロアフタヌーンティーばかりではなく、
妻が一緒の時もある。妻は甘いものを食べないので、僕が1人で多種多様なスイーツを次々と平らげていくのを、紅茶をすすりながらただ眺めている。楽しいのか??

ホテルラウンジ、カフェなどあちこちでアフタヌーンティーを堪能してきた。
世間ではヌン活というらしい。
でもおじさんが言うと、「ヌン活」という言葉に伴う、華やかな、映えるようなイメージはなく、とんかつのような響きすら感じる。

そしてどのアフタヌーンティーも良かった。
アフタヌーンティーには夢が詰まっている。
子供のお子様ランチのような存在か。それを言うなら、アフタヌーンティーは大人様おやつだ。

そんなヌン活コレクション写真を数回に渡ってストーリーとともに小出ししていくことにする。

まず第一弾はやはりこれを紹介したい。
アフタヌーンティーにハマったのは、ここがきっかけ、と言っても良い。
今は無き、鳥取・境港の澤井珈琲のアフタヌーンティー。


アフタヌーンティーセット。妻はソフトクリームのみ注文

毎年12月初めに夫婦で山陰温泉旅行に行くことが恒例となり、
境港に立ち寄るときに必ず訪問していた。
寒風吹きっさらしの平坦な土地にある珈琲工場併設のカフェ。
ここで暖を取るようにアフタヌーンティーで一息つく。
当時(10年前ほど)800円程度で、ケーキも6、7種類の中から選べる。
スコーンも好みの硬さ、控えめな甘さで、クリームと紅茶ジャムがつく。
この紅茶ジャム、なかなか他では味わえないものだった。
そしてモカソフトクリームも添えられ、寒い山陰とは言え温かい店内なので、
まずはこれから食べないと溶けてしまう。
本来サンドイッチから頂くのだろうが、そうも言っていられない。

店内は気取りすぎず、近所のシニア層やファミリー層が気軽にやってくる。
珈琲のおかわりができ、居心地も良いので滞在もついつい長くなる。
混雑すると待ち時間が生じてしまう。

近所のおじさんがこれから近くのウインズ米子でひと勝負するのだろう、
競馬新聞を広げてアフタヌーンティーをつまんでいる。
そんな昭和の喫茶店、といった風情も残しつつきれいで広いカフェスペースでのひとときにすっかり魅せられたのだった。

そんな「庶民派」なのに洗練されていたアフタヌーンティーはもう味わえない。

澤井珈琲は東京へ進出し「銀座澤井珈琲」と名前を変えて並木通り近くに店を構えた。
頭の中には吉幾三「おら東京さ行ぐだ」が流れた。
田舎から東京を目指す野心は分かる。
でも、店名の頭に銀座、と名付けるあたり、いや、そもそも銀座を目指すあたり、
何か田舎の成り上がり根性が丸出しのように思えた。
もちろんその田舎感が良かったから鳥取で通ったのだが。

結局、コロナ禍とともに境港やその周辺にいくつかあったカフェは閉鎖し、
コーヒー豆の販売だけの店になってしまった。
まるで地方を捨てて銀座しか見えていないかのように感じた。
ウインズおじさん達はどこで予想をしているのだろうか。
あのコーヒーをすすり、スイーツをつまみながら好き勝手に競馬予想をするという、孤高かつ至福の時間が奪われたことを思うと同業者?として胸が痛む。

コロナだったから、と思ってはいたが、他の飲食店が再開してからも鳥取のカフェは再開せず、
テーブルだけが残されたがらんとした寂しいスペースとなってしまった。

その代わり、というわけではないが、しばらくは銀座店の地下の狭いカフェスペースでアフタヌーンティーが出されていた。

銀座澤井珈琲にて


年末年始の帰省時にはわざわざ寄ったりもして、境港の倍近い価格で出されるあのアフタヌーンティーを郷愁のように味わったりもした。
しかしそこには競馬おじさんは居ない。
いや、そんな客が長居してはいけないような雰囲気の店になってしまった。

挙句の果てに昨年、久しぶりに訪れると、、、
カフェスペースは閉店し、向かいにコーヒー豆を販売するだけの小さな店舗がオープンしていた。

どうか初心に戻って、鳥取のカフェを再開し、地元の人達にもう一度憩いの場所を与えて欲しい。

・・・と、勝手に「地方を捨てて銀座を目指す成り上がりストーリー」を作って書いているが、
これは僕の勝手な想像なのでご容赦を。
特に関係者の方、これを読んでしまったとしたらごめんなさい。

ちなみに鳥取に店があった頃、僕の胃袋もまだまだ若く、
温泉宿で朝食を食べた後、ブランチに澤井珈琲に立ち寄り、昼に寿司店へ行き、また澤井に戻ってきてアフタヌーンティーを、という離れ技もかましていた。
それだけ好きだったんだ、あの境港の店が。