物語に向き合って英語学習を始める その2

「物語に向き合って英語学習を始める」の2回目です。今回は小学4年生・5年生の学習をどのように進めるかについてです。クラス人数は3〜4名  授業時間は週1回 1時間〜1.5時間

フォニクスや会話練習は小学2・3年生と同じように進めます。単語集の取り組みが加わります。一つの物語を英語劇で発表する形を区切りとするのは、低学年と同じです。

単語集
テスト

単語集ももちろんCD音声があります。フォニクスの力がついてきたなという段階ではテストを行います。先生がランダムに選んだ単語10個の英語を言い、生徒は綴りを書きます。時々「同じ文字が二つ続くよ」などと、単語によってはヒントを出します。ここでも基本は○か×ではなく、正解にどれほど近づけたか、どういうところを間違ったかが大切なことになります。テスト結果をご覧になるとお分かりのように、みんな高得点です。結果として半分以上は書けるくらいの頃から始めるのが良いようです。このテストの後、先生は白板に正解の英語を書き、単語が読める生徒は手を挙げて読み、意味を言えればおしまいとなります。生徒への宿題は2ページ分30個を一度ノートに書き写すだけで、あとは生徒による自習となります。もちろんこのテストに入る前の週には、先生が日本語を言い、生徒が口頭で英語を答えるといった練習もします。生徒は授業でどういうことが行われるかがわかっているわけですから、それに合わせて、家で書く練習をする生徒もいれば、CDを聴いて英⇨日と声に出して練習する場合もあるでしょう。テストに臨むために自分は何をしなければいけないか、そういうことを自分で考えるようにアドバイスし続けることが指導者の役目になります。


小学生では親が望んで通わせる場合が多いですが、いずれにしろ、教室では何をやるか、何が大切か、自習として何をやらないといけないかなど、伝え続ける必要があります。生徒の様子を見て、意志を持ってクラスに臨んでいないなと思われる時があります。そういう状況では授業の成果はのぞめませんし、第一生徒自身に何か迷いがあるのなら、まずそれを払拭しなければなりません。授業の最中に説教じみたことを言うのは指導者にとって心苦しいでしょうが、しかし、周りの生徒もその様子を見ては、自分のことでもあると受け止めてくれればいいわけです。ときどき、小学生のうちは英語を楽しんで、嫌いにならなければ良いと言われる方がいますが、教育の現場での「楽しさ」は、真剣勝負の時間の中にこそ生まれるものであると考えています。見かけ上の楽しさの追求は、下手をすれば授業の目的、目標を見失いかねません。何より、こちらが真剣になれば生徒たちも敏感に反応します。

さて、次がいよいよ英語の物語作品を語順に沿って訳してゆく「語順訳」です。

大体7分〜10分程度の作品で、高学年で取り上げる作品のwpm(1分間に読まれる平均語彙数)は130〜140語。初級だからゆっくりというのではなく、その物語を語る自然な速さになります。下の写真の「ジャッカル」の場合、全764語でできた物語です。高学年で取り上げる各作品の語彙数は764〜1457語になっています。語順訳に割り当てられる時間はおおよそ40分ほど。

テキスト 本文
スラッシュ読み用テキスト

訳をするための本文には、単語にはカナフリがしてあり、単語、熟語の訳も書いてあります。カナフリでは、[th]の発音は、「ザ」「す」などを○で囲んであり、また[t][d]はそのまま使用するなど若干工夫してありますが、読みの基本はあくまでもモデル音声のCDを聴くことですし、フォニクスでも訓練していますので、あくまでも読むきっかけのために目にする程度です。カナが振ってあると発音が悪くなると心配される方もおられますが、生徒自身がモデルはCDだとわかっていますから、練習を重ねて上手になっていきます。

そして、訳に入る前週には読みの確認をします。まずは指導者と生徒が一緒になって読み、いわゆる音読練習をします。次週は読んだところの読みチェックと訳をします。自宅ではもちろん物語の全体を聞く場合もあれば、課題の箇所だけを聴いてくる場合もあります。授業当日自信がなければ、CDを聴きながら直前練習をさせたりもします。読みのOKが出なければ先(訳)に進めません。訳をする箇所がスラスラ読めないと話になりません。何があっても、まずは読めること(この段階ではCDを真似て読むことが課題)をクリアさせます。

テキストにスラッシュが入っていますが、これはこのスラッシュ単位での見本音声がありますので、練習はこのスラッシュごと行う方がやりやすいでしょう。この段階の読みはテキストを見ながら、となります。

① 次週の課題箇所の練習 ② 自宅で自主練習、スラッシュ読み、通し読み ③ 授業で訳の前にチェックを受ける、そして語順訳に入ります。語順訳をする文は必ず読んでから始めます。

He tried and tried to escape but he couldn’t.

このような文を訳していくわけですが、例えば中学校での一般的な訳読だと、to escapeの不定詞の確認。接続詞butの説明、あとcouldn’tの後に何が省略されているかなどの解説をまずしてから訳をさせるとか、あるいは、まず訳させて間違えたりした時に説明を入れるなどするのでしょうか。いずれにしろ、文法説明を頭に入れて、正しく日本語に置き換えられればよしとなるのではないでしょうか。しかし、文全体を見渡した上で訳す場合、「英語」を訳すというよりは、「日本語」を組み立てることになるのではないか。英語を訳すこと自体の学習ではなくて、文法知識を理解することが前提となった学習と言えるのではないでしょうか。私たちの場合は、英文の語順にできる限り添い、「主語」「述語動詞」「目的語」といった「文の要素」の働きになれることの方が大切であると考えて訳を行います。またそれは必ずスラスラと言える音読が前提なのです。

私たちの語順訳では、次のように進みます。
まず単語を読みその意味を言う
He  「彼は」  
tried 「しようとした」   先生(そこまでつないで言って)
   「彼はしようとした」   (そうだね、はい次)

「人称代名詞ではなく A tigerとなっているような場合はただ『一頭のトラ』と訳したまま、次のtriedへ進みます。そこで(動詞が出てきたからその前は何?)などと聞き、『主語』という答えを引き出しますが、生徒がよくするのが「一頭のトラしようとした」という解答ですので、(主語には何がつくの〈訳ルール〉を見てごらん)と言って、〈訳ルール〉の該当箇所を見させます。その1番目には主語には、『は』『が』『も』をつけると書いてありますので、その指示に従って生徒は『一頭のトラはしようとした』などと答えるわけです。

and  「そして」  (はい、andはその前と後ろに同じ役割を果たす言葉があっ て、その二つをつなぎます、そこまでつないでごらん)   
   「彼はしようとした、そして」  (はい、次)
tried  「しようとした」  (はい、つないで)
「彼はしようとした、そしてしようとした」   (はい、そうだね)
 (次はto escapeでひとかたまり)
to  escape「逃げる」  (この to escapeは不定詞。訳ルールを見て。3つの働きのうちのどれかな?)(「〜すること、〜するための、〜するために」、のうちのどれだと思う?)

生徒はよくわからないまま、ボソボソと言ったりします。逃げるためにしようとした・逃げるためのしようとした・逃げること(を)しようとした。『逃げるためにしようとした?』
         (そうかな。ここは3番目の「逃げることをしようとした」になります。はい、そこまで続けて言ってごらん)
判断が難しいと分かったら正解を言って続けさせます
  「彼は逃げることをしようとした、そしてしようとした」   (はい次)

ここでたとえば、(しようとしたそしてしようとした、は何度もとか、くりかえし試みたということだね)とこなれた日本語を紹介することがあったとしても、解答を変更させることまではしません。本人がそれで意味を取れてればいいからです。語に沿って訳して通じる日本語になっていれば、そのままにします。語順訳では必ずしも整った日本語を求めません。語順に沿った訳が自然な範囲での表現であればいいとします。翻訳をしているわけではなく、あくまでも語順にできるだけ沿うことを優先します

このようにあらためて言わせようとした時、「彼はしようとしたそしてしようとした逃げることを」というように続けてしまう生徒がいます。語順に沿っての訳という約束が強く働いてしまうせいかどうかわかりませんが、このような時「動詞は最後に訳す」というルールを当てはめてもらいたいわけですが、動詞?「しようとした?」「逃げる?」と迷いが生じます。まだ語順訳を始めたばかりだと、「動詞」という概念もそれほど明快に理解していない場合が多いので、わからなくてモゾモゾし始めます。そんな時には「動詞『しようとした』は文のどこにくるんだけ?」と投げかけて聞き、「最後にくる」と解答するのを待ちます。

but 「けれども」
  「彼は逃げることをしようとしたそしてしようとした、けれども 
        (はい。次)
he  「彼は」
  「彼は逃げることをしようとした、そしてしようとした、けれど彼は」
        (はい。次)
couldn’t 「できなかった」
     「彼は逃げることをしようとした、そしてしようとした、けれど彼はできなかった」      (何ができなかったの?)
「逃げること」 (はい、よくできました。じゃ、もう一度英文を読んでみよう)

He tried and tried to escape but he couldn’t. 
 (はい、では次の文に移ります、読んで)
He became angry and bit and clawed the cage.

この訳の進行具合は一例に過ぎません。前置詞句が出てきた場合のこと、一般動詞の後の言葉が目的語と呼ばれることや命令形のこと、動詞にedがついていたら過去形と呼ぶことなど、10個ほど「ルール」として書かれているものがあります。ルールに出てこないもの、たとえば関係代名詞などの場合は、登場してきた時にどのような働きをしているかを説明します。ただし、出てきたからそこで覚えなさい、とはなりません。ただ、経験として積み重ねてゆくだけです。もちろん、中学校に上がり学校で習えば、それを前提にしていきますが、小学校の段階では「ふーん、そうなんだ」でおしまいです。でも、関係代名詞という言葉を使いますし、so・・that構文が出てくれば訳しやすいような訳語をつけて指導します。

小学生に対しての授業にしては難しすぎる、という印象を持たれるかもしれません。文法用語の使用だけでなく、過去形や接続詞が入った文をいきなり訳すのは無茶だという声が聞こえてきそうです。それはすべてをわからせようとするからではないでしょうか。小学生でも野球やバスケットボールができます。小学生のレベルでなら誰でもできます。それと同じで、この語順訳は一つの技術なのです。最初こそ戸惑うことも多いですが、すぐに慣れます。文法事項をわからせようとしなければいいのです。英語の語順に沿って日本語に変えてゆく。わからなくなればルールを参照する。主語や動詞という言葉に慣れていきさえすればいいわけで、本当の理解はゆっくり時間をかけた後に必ず訪れます。それだけではなく、中学、高校と上がるに従って一語一語の訳からチャンク単位の訳、そして一文を一気に訳せるようになるにつれて、速読もできるようになります。奇跡などではなく、生徒が時間をかけて努力した分だけ報われるのが語順訳と言えるでしょう。

語順訳の狙いは、音読同様に言葉の線状性をできる限り失うことなく訳してゆくところにあります。日々上手になってゆく音読とセットなのです。英語と日本語で大きく異なる性質は、一般的には語順が異なるという言い方をしますが、英語が主語⇨述語動詞とはじまるのに対し、日本語では述語が文の最後にくるということです。最後まで結論のわからない日本語の持つ曖昧さを脱して、話し手が主語⇨述語動詞で素早く判断を示す英語の表現意識に慣れることが大事ではないでしょうか。そこには話し手の主体意識が強く表れています。それに対して日本語話者である私たちの場合、聞き手や周辺に対しての気遣いが優先されるとも言えるでしょう。また主語から遠く離れた述語には動詞以外の形容詞や助動詞などもきますから、何かを判断するという傾向性はゆるくなると考えられます。こうした違いを乗り越えるには、意味を踏まえて英語を音読し、自分のものにしてしまわなければなりません。音読はリスニングやスピーキングの力をつけるという以前に、英語という言葉が持つメリハリ、リズム、イントネーションを通して、英語という言葉の配置感覚を受けとる力の向上に役立つはずなのです。英文というものの感じ、イメージと言い換えてもいいかもしれません。そして、教材を物語作品にすることで、このイメージ作りがとてもしやすくなるのはいうまでもありません。

なお、中学校の教科書に出てくるリーディング作品などの語順訳については、「オトさんのブログ」に連載していますので、そちらをご覧ください。(https://www.core-english.net

次回は音読についてお伝えします。

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