物語に向き合って英語学習を始める

小学2・3年生クラスのことを書く前に、私たちの考え方の基本をお伝えしましょう。

50年前、「母語の自然習得」に倣って、若しくはそれに近似的な方法論で英語学習法が考えられないかという課題を掲げ、思いを同じくする者たちで立ち上げた団体です。

赤ちゃんにとっての環境世界(主に保護者とのやりとりの世界)に準ずるものとして、物語作品を教材にすることが大前提でした。さて、それをどのように使うかを日々検討しながら、少しずつ改良を重ねてまいりました。一般の学習教材は易しいものから難しいものへという考えで貫かれており、頭脳が優れた生徒ほど理解しやすい体系になっています。しかし、言葉に関して言えば、どの赤ちゃんも遅かれ早かれ母語を習得します。心的な関係が親、保護者との間で結ばれていれば、自然に習得してゆきます。赤ちゃんにとっては、どの言葉も意味に満ちており、取り替えの効かない大事なものです。保護者は赤ちゃんが日本語文法を知らなくてもいろいろ語りかけます。赤ちゃんは話された言葉の中に規則を自分から見出し、喃語の時期を経て、ある日話し始めるわけです。ポイントはどこにあるのでしょうか。それは、赤ちゃんと保護者の間に心のつながりがある、というところにあります。


物語作品ではどうでしょうか。著者がいて、語り手(話し手)が生まれ、その作品を読む読み手(聞き手)がいます。語り手は読み手に眼差しを向けるように語りかけます。読み手は物語がどのような展開をするだろうと、興味津々、ワクワク、ドキドキしながら先を急ぎます。ここには語ろうとする者と読み取ろうとする者との心の交感作用があります。もちろん限度はありますが、作品世界を読む者にとっては、文法的な難しさは2次的な問題でしょう。読み進めること自体が面白くなります。面白くなれば、関係代名詞が出てきても気になりません。自分たちの想像力の及ぶ範囲の物語であれば、aもtheも、未来も過去も、三単現のsも同じです。赤ちゃんにとっては「ご飯よ」と言われ、「可愛い!」と言われても、初めての言葉であればどれも同じようにわからない。わからないけれど、自分に語りかけられた言葉だとわかるに違いありません。

総じて言えば、生き生きとしていて心が惹きつけられる、目(耳)を逸らすことができない、というのが物語との共通部分だと言えるでしょう。私たちはこうした教材を小学生から中学生にかけて採用しています。


小学2・3年生では、文単位で英語〜日本語を組み合わせ、聞くだけで物語の進行がわかる仕組みになっています。小学4年生からは英語だけの作品になります。それを「訳ルール」を片手に1行目から日本語に訳して行きます。ただし、文法や構文を最初に説明して「返り読み」するのではありません。英語の語順に沿って、最初は一語一語、訳を加えて行きます(「語順訳」と呼んでいます)。詳細は4・5年生コースのところで説明いたします。作品は「赤ずきんちゃん」「ランペルスティルツキン」「うすのろジャッカル」などの物語です。6年生からは英作文にも挑戦です。説明を受けた文法を理解したかどうかを確かめるためのものではなく、文法をこれから理解するための英作文です。間違えては直し、直しても間違える、の繰り返しです。必須の活動である物語作品の音読訓練がここでは生きてきます。語順訳で培った「主語」や「述語動詞」「目的語」といった「文の要素」概念が成熟する過程でもあります。


さて、ではコースごとの説明をします。まずは小学2・3年生コース

人数は多くて5人。時間は50分〜1時間。物語教材は「大きなかぶ」「三びきのくま」「三びきのヤギのガラガラどん」ほか。



フォニクス教材 Magic e


会話の練習本 Let's Talk


物語教材 The Three Bears

このコースでは、とにかくモデル音声をよく聞き、自分でも英語を音読できるようにします。

英文一つひとつが、その日本語訳とセットで耳に入ってきますので、文単位で意味がわかるようになっています。逆に言えば、テキストの英単語のすぐ下にある日本語がその訳だと勘違いすることもしばしばです。この時期はとにかく英語の生きた文章にたくさん触れ、英語独特の音や読み方〜リズムやイントネーション〜に慣れることでしょうか。


毎回フォニクス練習、会話文のやりとりを5分〜10分程度。物語教材の音読練習、そして時には劇仕立て、役割を分担して音読練習をします。次第にナレーションやセリフの暗記が進んでくれば、本格的な劇練習。しかし大道具といっても普段の机や椅子を利用しますし、小道具は最小限そろえてという程度です。そして保護者の方をお招きしての発表会へと続いて行きます。1作品をおよそ4―6ヶ月かけます。劇練習は物語の場面ごとの理解を進めますし、理解しただけ音読にも効果が出て、日毎に上手になっていきます。上手になると劇練習がさらに面白くなります。発表会が終わると、次週からはまた新しい物語で同様の学習が始まります。

日々の活動では物語に登場してくる単語や文のカードとりを行ったり、またワークブックを使用したりします。要は文字に馴染み、単語や英文に馴染んで、なんとなく読める語彙を増やしてゆければいい、という感じでしょうか。


授業では先生と一緒に単語や英文を読むわけですが、この、先生と一緒に、というところが大事です。CDを聞きなさい、よく聞くのよ、聞いて真似してごらん、などという言葉かけはもちろん必要ですが、それ以上に先生の熱量が伝わるのが一番肝心かなと思います。CDをただ聴くのと、目の前の先生の息づかいが伝わるのとでは、生徒の意気込みが違ってきます。

テキストは単語の読み方が書かれていません。生徒の自宅ではひたすらCD音声を繰り返し聞くことが最優先です。カナを振ったテキストもあるにはありますが、低学年ではかえって読みがぎこちなくなりがちです。授業では先生と一緒に音読でしながら、細かい部分の修正が入りますので、徐々に発音は改善されていきます。


フォニクスの訓練も毎回し続けますが、すぐに成果が出るわけではありません。一方でフォニクスや文字の読み書きなどの個別の学習をし、他方、物語を読む学習では、ほとんど読めない英文を読む練習をします。実際はテキストのどこを見ているかは不明ですが、とにかく読めていなくても、いつも音と文字とを関連付けを意識的に行います。読み自体がたどたどしい段階でも劇練習をすることがあります。物語を体で感じ取れるようにとの配慮からですが、クラス全員が物語の内容を共有するためでもあります。

発表会  緊張して泣き出す生徒。喜んで参加する生徒などさまざまです。しかし、なんといっても日本語と違う言葉、英語での発表は英日両方の言葉を育てるのに適しているように思われます。全員で一つのものを仕上げる過程も大切で、回を重ねるごとに生徒たちは成長していく様子が見て取れます。


先生は授業の直接的な効果を測りたくなるものですが、しかし、個々の学習の成果など、普段はほとんど目には見えてきません。大事なのは、授業全体のダイナミズム。そして、個々の生徒の気持ちのありようを想像し、乗り遅れている生徒に気配りすること。子どもの言葉の成長は、心の成長以上に早い。アンバランスなのです。内気で自分をうまく表現できない生徒でも、その心の中では言葉が熟成してゆくはず。聴覚や視覚という感覚に優れ、音と文字の綴りの関係を早く習得する生徒であっても、少しサボれば読みが不正確になります。普段の生活には必要のない英語ですから、どうしてもその音に触れる時間の量はたくさん確保しなければなりません。


低学年で大事なことは、覚えた単語の数や暗唱力、ではありません。英語を口にすることに心地よさを覚え、物語作品に登場する動物や人物、そしてナレーターになりきることです。早々と資格や検定試験を目標とされる保護者もおられますが、それは後からいつでも挑戦できます。自分を表現できる人物になることが、なんといっても一番大事にしなければいけないことだと思います。生徒によっては、この方法がうまくいくこともあれば、未消化の状態が続き退会するということももちろんあります。現代は多様化の時代と言われるように、子供たちは様々な心のあり方を示します。学習法に馴染めないとか、先生との言葉のやり取りで食い違いが起きてしまうなど、学習における課題は尽きません。


さて、このような活動を経て4年生にあがります。もちろん4年生から入会してくる生徒もいますが、扱いは同じです。次回からは4・5年生で行う「語順訳」と「音読」学習についてお伝えします。

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