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家のない眼 第八話

ふたりが帰ってから三日後に充は二年ぶりの本家の法事に向かった。暑い日であった。中古のスターレットから、レクサスに代えていた。充も稼げるようになったのだ。
大叔父が堅苦しいのを嫌うために皆普段着だ。
長老の太、83歳、次男、義男、79歳、三男、猛、75歳、そして充の父の信也、享年63歳。生きていたら70は過ぎていた。信也の唯一の下の、長女、あやめ。68歳。
いとこたちは誰も来てなかった。夢のショックで心療内科に行ったもの多数だからだ。だが直系のいとこまでだった。そこからの枝分かれは見ていないらしい。叔父、叔母たちのパートナーも来ていない。
まさに家入家の人々だけなのだ。
充は、まず太に、
「おじさん、あの男の処分ありがとう。あいつだけは許せないから一年前のことを今言うのはあれだけど。」
太は感染対策で大広間の奥から元気な声で、
「まあ、わしには軽いっちゃ。あの程度の家のものは。なんだかあの男の親父も会社の金を使い込んでたらしく、まあ警察は一家での夜逃げということになっておる。まあ実際は港の海の中だがな。たまには恐怖を与えんとな。」
「まあ、充、義理堅いのはいいがそれよりもあの夢の話だよ。兄さん、教えてくれ、直系だけは知ってるんでしょ?幼いころに祖父がそれとなく話していたことを思い出してきたよ。」
三男の猛が焦って聞いてきた。猛は年齢的には若く見えるがかなりの巨漢だ。大汗をかいている。
「まあ、そうだな。覚えている限り話す。だが、この夢を開放することは出来んぞ。どうも70年周期らしいからな。つまりあのことは今から140年程前に起きた。実は明治時代だったと聞いている。」
太は少しせき込み、続ける、エアコンが効いてきた。
「あの埋められた男は当時、廃藩置県の反対運動のリーダーだったらしい。それが権力側の女と恋仲になり、女は孕んだらしい。その為にあんな目にあって殺された。実は埋められた場所は充の家の真下なのだよ。」
充はびっくりする。他のものも驚愕する。
「あの土地は今から65年前にうちらの父がほんの少しの間だけ手放してしまったらしい。だから買い戻せるときに買い戻して信也に渡したのだ。あの土地代そのものはわしが払った。充の親である信也は安さに違和感を感じたが当時はわしは言うつもりはなかった。まさかの事故で亡くなるとはな。そして、70年前、つまり終戦後すぐにあそこに家を構えた身内の者がおったらしいがその家の外の壁全てに凄まじい怒りの眼が現れたらしい、だが、当時は祈禱師のいい方がおってな。すぐに封じ込めたんじゃ。そしてその祈祷師はうちらの父が若いころに、
この土地には凄まじい念がある。家を建てる時は私の血筋を呼べと言って去っていった。しかし、父はそこに家を建て直さなかった。
だが、父が死に、わしが相続する前に人手に渡ってしまった。しかし、眼は出なかった。70年間な。だから、充がリフォームしたときになぜ出たのか?わしも不思議でならん。とにかく今の時代デジタルじゃ。ようやく祈祷師の子孫と連絡が取れてな、うちの孫に迎えに行かせとる。明日の朝にはフェリーがつくらしい。沖縄におったわ。充あともう少しの辛抱じゃ。」
そこまで話して、太はお茶を飲んだ。

一族全員、太の話を信じるしかなかった。同じ夢を見たのだ。太は話疲れたのか寝てしまった。別の部屋で今日は止まるつもりの親族たちは酒を飲んでいた。充も飲んでいた。
「あんな話、信じない理由がない。うちらは見えなくても実際に人は死んでいるんだから。何度死にゆく人を見てきたか。」
充は飲みながら少し涙ぐんでいた。
そこへ、叔母のあやめが抱き着いてきた。
「あんたは今までよく頑張った。両親を亡くし、子供はもうけても会いたくても会えない、一人でよく頑張った。偉いよ。いい子、いい子。」
充は豊満な叔母の胸の中で号泣した。
他の叔父たちも慰めてくれる。
全員、泥酔するまで飲んで寝た。明日には祈祷師の子孫が来るのだ。

全ては終わるのか・・・?

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