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憧れた人 〜パート2〜

前回の記事の続きでございます。 

石山も藤田も志村さんとの打ち合わせ終わりで発した言葉は、

『やばいやばいっ!! ちゃんと話聞けた?』

だった。 もちろん、緊張もあっただろうが何より3人で志村さんの楽屋で話していることがどこか現実でないようで、それを受け入れるのに必死だった。 志村さん、なんて言ってたっけなぁ〜!? 

そんな事を言いながら楽屋に帰ってきた。

2人が出した結論は

① とにかく本番が始まったら思い切ってやってみる。

② 迷ったらすぐ志村さんの顔色を伺う。

これだ。 きっと間違えてたとしたら志村さんの空気感と表情で分かるはずだと。

特に、藤田の動物役は被り物のため視野が狭く、自分の立ち位置によっては演者がやりにくくなる。 殿が座る上座には上がらないギリギリの位置。そこにしよう。 そんな話し合いが本番ギリギリまで続く。

藤田 『じゃあ、石山。俺、端っこにいくで!? あの上座ギリギリのとこでとりあえず止まったらええんやな?』

石山 『うん、それでええと思う。 とにかく1発目は俺が狩るタイミングを決めるから、いつもの距離感でいこう。2人の感じを見てどのタイミングで寄ってくるかは藤田が決めてくれ。』

藤田 『分かった』

命を賭けた本当の狩りが始まるかのようなやり取り(笑)

たった1狩りでもこれぐらい神経を使うことがあるんですね。

撮影現場へ降りる2人。 TVで見たことあるセットに女中達。 そのセットは代々と受け継がれたのだろう、その様まるで銀閣寺。わびさびの中にどこか凛としたセット、明るい照明が照らされ風情がある。 セットの傷は何十年もコントをやってきた生き証だ。スタッフもどこか年齢層が高い。ずっと、このチームで日本の笑いを支えてきたんだろう。 志村チームだ。


白塗りの志村さんが降りてきた。

ダンソンの格好で。 

スタッフの拍手にどこか恥ずかしそうな志村さん。 

スタッフに『意外と似合ってますね〜」なんて言われながら。 

僕たちが緊張しているのがバレたのか、こちらに来て話しかけてくれた。

笑顔でハニカミながら、

『これ、意外と寒いね〜?? バンビーノはネタ何本くらいあるの? 俺、あれ好きなんだよな。魔法使いと犬のネタ。あれ、面白いよなぁ〜。』 

よくよく考えたら志村動物園もやってるし、志村さんは愛犬家だ。 なによりも若手のそこまで有名でもないネタを知って頂いてることに感激した。 まだまだ若手のコントもチェックしてるんだ。 そりゃ、ずっと日本一を走ってるはずだ。

実は、このダンソンの後にもう一つやって欲しいネタとして『ドゥビザ』のオファーも頂いていた。 その時に分かる。志村さんはダンソンよりもドゥビザが好きだった(笑)

僕は『ダンソン以外も沢山コントは作ってます。ダンソンを一緒にやってくださるとは夢にも思いませんでした』みたいなことは言った記憶がある。


さぁ、いよいよ本番が始まる。 

その時、スタッフさんが大事そうに持ってきた大きい箱。

静寂に包まれるスタジオ。 


何かが始まる?

何だこの箱? 


カツラだ!!!


箱を開けるとバカ殿様のカツラが出てきた。

うわ!あんな箱に入ってるんや。なんとも神々しく出てきたのがカツラだったことに思わず笑ってしまう。 ビックリ宝箱だ。 

何十年も被ってきた伝説のカツラ。

ここで驚きの事実なのだが、バカ殿様のカツラはカツラの部分とちょんまげの部分が分かれている。まずカツラを被って、上からちょんまげをカシャンッ!!と装着するのだ。志村さんはまるでガンダムのようにバカ殿様になっていく。

静寂するスタジオで志村けんからバカ殿様に変身する瞬間が今でも忘れられない。

さっきまでハニカミながら話をしてくれた志村さんではなく、もうその瞬間からバカ殿様なのだ。

僕はこの人と今からダンソンを踊る。

後で知るのだが、ドゥビザという犬のネタが好きな志村さんが、せっかくだからダンソンも踊ろうと提案してくれたらしい。 志村さんからのとんでもないオファーだったのだ。

本番が始まる。 

登場する扉の奥で、部族の格好をした僕と志村さんが横並び。 

あんな愛媛の田舎者が今、志村さんの隣だ。いつかこの人とコントをしたいって思ってたんだ。 自分が思ってたより早く、夢が1つ叶った瞬間。

もう思い切っていこうと腹を括った。そしたら凄く冷静だった。 この瞬間を楽しみたい。ここで緊張してミスったらずっと後悔する。 志村さんとコントできることをただノビノビと。

動物が登場

打ち合わせ通り、上座キワキワに位置する藤田。いいぞ、藤田!予定通りだ!

扉が開いて、僕と志村さんの2人の部族が出てくる。

この時に分かるのだが、他の出演者はきっと志村さんもダンソンの格好で出てくるとは知らされていなかったはずだ。それが、リアクションでなんとなく分かった。

志村さんのちょっとしたサプライズ。 演者は軽いパニックになりながらも笑いが止まらない。

共演者の生のリアクションが撮れるサプライズっ! 

そうか、こうやって現場の空気を作っていくんだ。 

え、志村さんもダンソン踊るの?というとまどいの顔と、非日常な志村さんの格好に笑っている共演者たち!

そして、僕のダンソンの一歩目。いつネタに入ろうか迷っていたが、演技しながらもアイコンタクトで合図を送ってくれた志村さん。

一発勝負だからきっと撮り直し出来るような場面ではない。この全体が盛り上がっていく感じ、これを絶対に覚えておこう。 本当に事細かに覚えている。ただただこの瞬間が嬉しい。横にいるのが憧れの志村けんなのだ。 しかも自分が作ったコントの格好をしてくれてる。

ダンソンが始まる。 ニーブラッ!!

〜神々の詩〜 

が流れて

僕が上手袖にハケる。よし、ナイスニーブラだ!

そして、志村さんも打ち合わせ通り、1人狩って上手袖にハケてきた。

打ち合わせ通りだとオープニングコントはここで終わるはずだった。 


しかし、


しかしっ、、


ここからだ!!!


本番のアドリブ、機転の利かせ方、志村さんが、、、


志村さんが上手袖から抜け出し、もう一回殿の部屋に戻ったのだ!!

突然戻ってきた志村さん扮する部族に恐れおののく共演者たち。

石山 『これ打ち合わせしてたっけ? もう一回部屋に戻った! 志村さんについていくべきかどうか? どうする、藤田!?』

そうだ、作戦②だ!!

顔色を伺おう!!

 こっちに来いって時はそんな顔をしてるはずや!! もしくはさっきみたいにアイコンタクトしてくれるはず。

藤田とどうしようか迷っていた時、志村さんを見て2人とも頭の中で同じことを感じたと思う。


『白塗りやから顔色が全っ然分からへんっ!!』


『顔、真っ白やん!!』


忘れてた、打ち合わせの時は志村けん。今はバカ殿様だ!

笑ってんのか、誘ってんのか? はたまたこっち見てるんか見てないんか? 

『いや、全く分からへんっ!!』

空気感は最高に盛り上がってる! 多分やけどアイコンタクトはない。分かることはただただ真っ白。

どっちやこれ!? 

そんなこんな2人が迷っている間に、

もう一度クワマンさんを狩って爆笑を取りながら上手袖にハケてきた志村さん。

ただ、その光景を呆然と見るしかできなかった2人。

美味しいところも面白いところも全部、バカ殿様が持っていった。 

まだまだ若手なんかに負けない。 

これが志村けんだと言われている気がした。

リハも本番も関係ない。

始まってしまえば、とにかく笑かした方が勝ちだ。

志村さんの年齢でもう一つ面白くなったキレのある振り切ったダンソン!

ニーブラした後の伝家の宝刀のドヤ顔。

僕たちも気づけばまんまと笑わされていた。

そして、その場にいた全員が笑顔だった。

人生で忘れることのない狩り。

スゲ〜な、カッコいい。

これが志村けんなんだ。


〜続く〜









拝啓 サポートメンバー様 自分の時間を有効に使おうとnoteを始めてみました。自分のプライベートに誰が興味あんねんっていう気持ちもありますが、メモはしてるけど発表しなかったことや、ボツネタとかも出来る限り続けてみますので、サポートをよろしくお願いします。ニーブラ敬具