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松田美佐「うわさとは何か」

今月は「うわさ」に関する本を読んでいこうと思います。2014年の本なのでかなり読みやすいです。ざっと全体を読んだので、簡単にまとめてみたいと思います。

うわさの定義

根も葉もないうわさ
火のないところに煙は立たぬ
人の口には戸は立てられぬ
人のうわさも七五日
流言は知者にとどまる

うわさに関する言葉はいろいろあります。うわさが広まっているときは「事実」と信じられ、それが真実だったときは「口コミ」と呼ばれます。逆に嘘だったときは「デマ」「流言蜚語」と呼ばれたりします。個人に関するうわさは「ゴシップ」、世間に関するうわさは「風評」、さらには「都市伝説」と呼ばれたりもします。

本書では、うわさとは基本的には「人から人へとパーソナルな関係性を通じて広まる情報」と定義しています。

他にも「あいまいな状況にともに巻き込まれた人々が、自分たちの知識を寄せあつめることによって、その状況についての有意味な解釈を行おうとするコミュニケーション」と定義する人もいます。

うわさの役割

人々が心の不安などを解消しようと、必死になって事実を確認したり推測したりしようとする気持ちが、うわさを生んでいます。単なる恐怖のメッセージよりも、不安の回避策がセットになっている方が、有益な情報だから友達にも知らせたくなってうわさが広まりやすくなります。

うわさの役割は「知りたい」「言いたい」「つながりたい」の3つからなります。不透明な状況の中でもっと情報を「知りたい」。言いたいことも言えない世の中で、うわさ話を通して自分の意見を「言いたい」。そしてうわさ(秘密)を共有した相手と親密な関係になって「つながりたい」。

だから、私たちがもっともらしく思うことがうわさとなり、うわさが広まることで「もっともらしさ」が共有されます。うわさを広めている人たちは、相手を騙そうとして嘘をついているのではなく、本当だろうと思い、有用な情報だと信じて、それを共有したい、あなたに教えてあげたいという善意から行われるのです。

万人受けする「いい話」だからこそバズるのであり、広がる過程で多くの人の期待や願望を取り込み、さらに「いい話」となっていきます。

インターネットとうわさ

電話やメールを使うようになると対面で話をしなくなると思われがちですが、実際に調査するとその逆で、通信メディアを多く使う相手とは対面でのコミュニケーションも多くなるそうです。

逆に、従来であれば全く連絡を取らなかったような相手とも、メールや電話であれば連絡を取れるようになった、連絡可能の幅が昔と比べて格段に広がった、というのが正しいようです。

電車の中でもみんなスマホばかり見て他人に無関心になったと言われますが、これも違うそうです。私たちは「儀礼的無関心」を行っていて、他人と時空間を共有しているけれど、他人と他人のままでいるためにあえて無関心であるように演じているのだそうです。

SNSの普及によって、人間関係も自分の興味ある人と選択的につながるようになってきたと思いますが、これもまた少し違うそうです。インターネットが生まれる前の1970年代から親戚・近隣・職場などの全面的関係が薄れて選択的関係を望むように変化していたそうです。これは都市化の影響で、こうした人々の要望を実現できるからこそ携帯電話が爆発的に普及したのだそうです。

こうして現代では自分が知りたい情報に出会いやすいネット環境が構築され、うわさが広まりやすくなっているのは事実です。

うわさに騙されないため

うわさは私たちの知りたい、欲しい情報なので、それが嘘や風評被害を含んでいても信じてしまいがちです。こうしたうわさに対抗するためにはどうすればいいでしょうか。

「対抗神話」という手法が一つ挙げられています。「今みんなが信じているうわさは、政府がオレたちを騙すためにでっち上げた架空の話らしいぞ」のように、新しいうわさで上書きする方法です。真実をいくら説明しても納得しない人々が、嘘であってもそれっぽい対抗神話を聞くと、そちらを信じて元の風評被害が消えていくことがあります。これが上手くいくかどうかは難しいところですが、手法の一つとして覚えておくといいかもしれません。

もうひとつは、あいまいな状況を受け入れる、耐性をもつことです。人間はあいまいな宙ぶらりんな状況よりも、白黒はっきりつけた方が安心しますが、世の中そんな白黒はっきりすることの方が少ないのも事実です。あいまいな状況をあいまいなまま受け入れつつ、少しずつあいまいさを減らしていけるように耐性をつけるのが重要だと筆者は言います。まぁ難しいですけどね。

感想

だいたいそんな感じで、まぁその通りかな、と思うような内容がきれいに論じられている感じの本でした。

本書を読んで一番驚いたのは「スーパーでのアイスケース寝そべり事件」が2013年の出来事だということ。もう9年前なの???? マジ???? つい最近の事件だと思ってたが????????

この本の内容を元に、よいコミュニティを作っていくにはどうしたらいいか、うわさ話をどうコントロールしていくか、などについて考えていきたいなぁと思います。

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