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UEFA Champions League 1st Leg PSG vs R.Madrid REVIEW

※予想の振り返りと共に書いていきたいと思うので、読んでいない人はそちらを先に読んでいただけると幸いです。


振り返り


 展開予想では、前半に調子を上げてくる傾向のあるPSGが先行逃げ切りを狙うプランだとしていた。実際問題、開始直後からギアを上げてメンデスやヴェッラッティ、エンバペにメッシがボール回しの中心となってバイタルエリアを支配した。エンバペのドリブル突破からのグラウンダーパスをディ・マリアが流し込み損ねたシーンまでは概ね計画通りだっただろう。
 ただ、ある程度の時間で決めきれなかったこともあって、前半の中盤以降はスローダウン。あっさり守備に切り替えても問題ないと見ていたが、お互いボールを保持したがらなかったこともあり、PSGが持つ形でお互い塩漬けし合う展開になった。
 ただ、最大の強みは中盤にあるはずのレアルからすれば、ボール保持にもう少しコストをかけた方が良かったのではないか。レアルのキーは中盤の制圧と右WGの選択になると前項で記していたが、中盤で圧倒的優位を築くこともできず、右WGの選択も間違えた。中盤は”会員制クラブメンバー”の3人がそろそろ神通力を失ったように見える。年齢的に強度を保つのが難しくなっており、守備はセットバックが精一杯でプレスに行けるパワーはもう有していないように映った。攻撃でも前に出るスピードはなく、停滞を感じさせた。前線が以前より強力ではないのも彼らの良さを出せない要因ではあるだろうが、この状況に於いてダイナミズムの不足は経験値のなさより厳しいかもしれない。バルベルデが控えているモドリッチとは異なり、替えが他では利きそうにないクロースやカゼミーロが下がる図はさすがに想像つかないが、彼らのところも本当は替えたいのではないか。
 右WGは信頼が置けるオフェンスがいないなら、守備に振り切っても良かった。対面になるメンデスを抑え込めるかはひとつのポイントであり、そこへの警戒を怠り過ぎた。正直に言って、カルバハルは実力通り。ただアセンシオと組んでエンバペとメンデスを抑え込むのは難しかったという話だ。正直PSGの2人は同ポジションではかなり抜けた存在で、勝つのは難しいだろうが、出血を抑えないことには勝てない。その点では、カルバハルとバスケスを入れ替えた采配は疑問だ。そのバスケスや、バルベルデをそもそも最初から右WGにする手を打つのが先ではなかったか。
 “守備陣は未知数なところが多いだけに、攻め気は失わないようにしたい。質より量、試行回数の勝負になるはずだ。”とも書いていたが、その懸念もかなり悪い形で当たっている。守備はよく耐えた方だが、最後の最後でPSGの試行回数とその質に敗北した格好だ。ミリトンが例のシーンを冷静に対処できるようになるには、まだ踏んだ場数も、味わった勝利の味も、噛み潰した敗北の数も少なかった。それでも彼はまだこれからだろう。
 むしろ残念だったのは、それなりの年齢を重ねているアラバ、F.メンディ、カゼミーロの3人だった。アラバはステイとテクニカルファウルが精一杯で、CBとしては限界を感じさせた。プレー選択に間違いはないのだが、最適解を導き出すほどのクオリティは有していない印象だ。絶対にマルを貰えずに△7割に留まる、国語の記述問題みたいなものかもしれない。ただし、守備陣のメンター的側面はありそうで、起用自体に異を唱えるつもりはない。後者2人は、もらってはいけない局面で見事にカード精算してしまった。F.メンディはペレイラ、カゼミーロはパレデスとそこまで重要なフィクサーではない選手に強く行きすぎたのは軽率だろう。チーム全般から漂う焦りを象徴するようだった。
 前線はヴィニシウスがミリトン同様、欧州の舞台の難しさを痛感させられた。疲労もあったのだと推察するが、やはり欧州レベルでは単独突破よりもコンビネーションが重視される。よほどの個にならなければ個人で打開するのは難しく、今後はそこを磨いていかないといけない。ベンゼマは流石だったが、今日はそもそも彼がどうにかできるレベルではなかった。総評すると最後方から前線まで全般的に決め手がない状態だ。これがトーナメント・チームではないと評した理由でもある。
 とはいえコンビネーションのところで苦慮していたのはPSGも同様である。今日も問題になっていたのはメッシだった。アジリティー面の衰えはもはや隠せていないように思えるが、まだ衰えを自覚したプレーが見られない。なんとか得意の形に持ち込んでプレーしようとしているのは見えるが、今のPSGで決め切ってくるのはエンバペであり、全局面に関わりながらゲームを動かすのはネイマールでありヴェッラッティである。バルセロナに戻る意思があるのなら、傭兵に戻る時が来たのではないだろうか。攻撃のアクセント要員に守備という代償を差し出してまでスタメン起用するメリットも現状は見えてこない。彼の代わりに、スペースを提供できる選手を起用したいところだ。居るとは言っていない。
 中盤3人がアンカー3枚と取れる異様な組み合わせを選択しているのも、前線の問題が大きい。特にペレイラとヴェッラッティの負担は大きい。ペレイラは最終ラインの防波堤役をこなしながらIHの位置まで顔を出してクロースをマークする必要がある。これは(特に前者が)ゲイエにはできない仕事だ。ヴェッラッティは後方のビルドアップを担当しながらメッシなど前線選手のサポートをしなければならない。これもパレデスなどには難しい仕事である。クオリティーを落とせばワイナルドゥムにもできるが、あくまでジェネリックの域を出ないだろう。既にフルスロットルになっているエンバぺを含め、春先まで持つのかという問題が持ち上がっている。要するに昨季と同じところでぶつかりかねないと感じる。
 高評価を得たSBの2人にもまだ改善の余地はある。ハキミはメッシにもディ・マリアにも信頼されていない通り、走り込むタイミングとポジションに難がある。パスを出したところで有効な攻撃に繋がっていないのは、今日の試合を観ても明らか。守備で信頼される方向性を続けていくしかないだろう。
 推進力もドリブルも守備も概ね完璧だったメンデスも、前方のアタッカー陣とのコンビネーションにはまだ難アリだ。現状は個人能力で殴れているし、恐らくどのチームと当たっても個人で殴れはするのだろうが、メンデスと呼吸を合わせられるアタッカーが欲しいように見える。ディ・マリアが全盛期なら彼なのだろうが、残念ながら彼ももう衰えは隠せなくなってきた。ディ・マリアを含めて中盤色の強いワイナルドゥムやドラクスラーで、相手チームとの相性ごとにごまかしていくしかないのではないか。

展望


 劇的な展開の後味で忘れ去られているが、勝負はあともう半分ある。PSGの懸念は対策の立て易さだ。正直言って、これ以上の次の手を繰り出すのは難しくなってしまっている。前線でドラスティックな改善がない限りは2ndレグは苦しくなるのではないか。この敗北を受けて、レアルがきっちり工事してくる可能性が高いのも懸念だ。今回はある意味対策が立てやすかったが、次回はそこが逆転する。スコア差は最小なだけに、この楽観ムードは全くもって理解できない。もちろん、そもそものリソースの差はあると思うが…。

個人採点

《PSG》
GKドンナルンマ 0
何もしていない。アレならアウベスでもできる。暇なら攻め上がってゴールを奪いに行く姿勢を見せるべき。気持ちが足らない。
DFハキミ 5
守備は問題ないが、対面の疲労とタイプに救われたという見方もできる。攻撃面でのディテールにこだわっていきたい。
DFマルキーニョス 7
出番がないように見えたが、彼の再三のパスカットがなければ負けていたかもしれない。相変わらずネガティブ・トランジションで隙があるチームに於いては馬鹿にできない。
DFキンペンベ 6
マルキーニョスと同様、読みの良さでチームに貢献した。ペアに合わせられるところと読みの良さはその他多数の対人DFにはない、彼だけの武器。
DFメンデス 7
ビルドアップの出口になりつつ、ワンツー中心での仕掛け、勘所を抑えた守備とらしさ全開。それでもまだポテンシャルのすべてを解放してはいなかった。ポチェッティーノに課された次の宿題。
MFペレイラ 8(MoTM)
3バックの一員になりつつ、クロースを厳しくマークし、ビルドアップ面でも貢献。やっているタスクの多さは異常だった。彼のコンディション管理なくしてベスト8進出はない。次ラウンドに進めばどうなるかわからないが、今の戦術では明らかにコアだ。
MFヴェッラッティ 8
積極的なプレスと献身的なバックで3アンカーを維持した守備面の貢献もさることながら、後方のビルドアップを担当してメッシなどのサポートもこなした攻撃面のクオリティーも別格。2人目のブラック企業労働者。
MFパレデス 6
トリオの中では平凡な仕事に勤しんだが、”任務”は完了した。普段からファンをイラつかせているだけはある。フランス国籍を早く取得したい。
FWディ・マリア 3
守備面では貢献してくれたものの、不用意なファウルが目立った。攻撃面ではハッキリしない出来が続く。誰のために動くかがハッキリしないと難しいのかもしれない。
FWメッシ 4
長短のパスやドリブル、ワンツーなどでアクセントは付けてくれていると思うが、守備貢献度を考えれば明らかに収支は取れていない。PK失敗を含む活力のなさも目立つ。明らかに雰囲気を失っており、どこかで波を取り戻したいが、それには本人の努力が必要だ。他の選手はしているが・・・。
FWエンバぺ 7
PK奪取に最後のクラッチゴールとポイントゲッターの責務を全うした。20歳前後の瑞々しさはなくなったが、力の出し入れはうまくなっている。衰えるにはまだ早い、次の課題は5月まで走り切ることだ。
Sub:FWネイマール 5
最後の最後できっちり仕事を果たした。まだエースの座は掴んで離さない。
Sub:MFゲイエ 5
ダニーロ交代後の攻撃的オプションとして機能。前に出ることが難しくなってきたタイミングで、彼のダイナミズムは重要だった。2ndレグではスタートからの活躍を見たい。

《R.Madrid》
GKクルトワ 5
概ね仕事はしていたが、この舞台では最後に仕事ができるかどうかが問われる。その重要性はもう8年前から実感しているはずだが。
DFカルバハル 5
対面を考えれば悪くなかった。チームの問題。
DFミリトン 4
概ねクルトワと同じ評価だが、ビルドアップでももう少し貢献が欲しかった。
DFアラバ 5
ミスは犯さなかったが、何か得になるようなこともしなかった。欧州ではもう一つ上が求められる。
DFメンディ 5
貰ってはいけないものを貰ってしまったのがマイナス。仕事が少なかったとはいえ、できる仕事はした。攻撃貢献度に関しては、別で補っていくしかない。
MFカゼミーロ 5
メンディ同様に貰ってはいけないものを貰ってしまったのがマイナス。最低限の仕事は果たしたが、攻撃に繋げられなかった。若い頃にはできていたプラスアルファはなくなってきたか。
MFクロース 3
運動量が少ないのは相変わらずだが、それを周囲がカバーできなくなってきた。司令塔仕事もペレイラに完全に抑え込まれた。
MFモドリッチ 3
疲労の影響はあるだろうが、以前に比べて動けなくなってきたのは明白。持ち前の推進力もあの前線では活きてこないのか、持ち上がる素振りすら見せなかった。クロースとの同時起用はいよいよ厳しくなった印象。
FWアセンシオ 2

FWベンゼマ 6
前線での起点作り、ゴール前でのポジショニングとやれる仕事は完璧にこなした。0から1を生み出すのはメッシでもロナウドでも難しいだろう。
FWヴィニシウス 4
こちらも疲労を感じさせた。超一流ならばこの状況でも味方との連係で崩せるが、そこまでまだ成熟していなかった印象。ネイマールの壁は意外に高い。
Sub:DFバスケス -
交代策そのものに疑問。替えたところでどうにかなるレベルではなかった。
Sub:FWロドリゴ 5
ドリブルで存在感は見せた。ただし、そのドリブルでは”先輩”が先を行っている。得点能力で圧倒的な違いを見せたいが、それを活かす術はまだ持っていない。
Sub:FWアザール -
評価できるシーンがない。
Sub:MFバルベルデ -
今のスタイルに根本的に合わずに使われていない印象を受ける。次の対決ではスタメンで見れるだろうが、チーム全体として積極的にボールを握る姿勢が必須だ。
Sub:FWベイル 4
少しだけ可能性を感じさせたのは流石。飛び道具としての能力があるのは間違いないだけに、次戦も勝負手として準備したい。

P.S.
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