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「どん底旅」#5.Beautiful Day


2012年1月、退職旅後のストーリー


日々続ける
日払いの仕事の範囲は
どんどん広がり、
23区を超えて
都内を超えて
埼玉、千葉、神奈川まで

目が辛い、
喉が痛い、
鼻をかむと
緑色の鼻水が出るほど
ホコリだらけの解体現場

鋭い釘だらけのフロア
油断する者を刺すぞ!

甘い自分に当たった天罰だと思える
過酷だった徹夜の現場も我慢して

雪にが付いた鉄筋の先には
桜の花ビラが
いつかから春を予感する香りや
鳥の鳴き声で
時間を
季節を
感じる

晴れ晴れのあの日は
とこか外出やデートに当てはまる
穏やかな休日だったが
この仕事にカレンダーの休日は
無意味

朝7時横浜桜木町駅で集合、
慣れた仲間達とチームを組んで
上司も優しい方で
久しぶりの横浜は

最高のテンションを

今度はパチンコのリモデリング作業
2階につながるガラス壁に貼っている
古いステンドグラスの張り替え

まるでセミの様に
ガラス壁に付いて行う作業だが、
難易度はあまり難しくもない

体を支えながら
ノミでステンドグラスを剥がす

体は空中に
足は底から離れた状態なので
中々手に力が入らず、
しかも長い時間貼っていた
古いステンドグラスは
剥がしにくいでもあるけれど

仲間との作業は徐々に進む中
もう少しで先が見える

疲れたかど
せっかくの横浜だから
終わったら
少しでもちょい旅の気分で
回ろうか

油断したか
力を入れて押した
右手のノミは
ステンドグラスとの
摩擦角度を超えて
体を支えている左手の手平を向かって

そのまま
刺さる

鋭くて
冷たい
金属の強い感覚が
そのまま
体に入る

あっという間

刺したノミを取ったら
左手は真っ赤に

慌てた仲間の報告で来た
上司の暗い顔

怖かった
情けなかった

「皆にご迷惑かけました、すみません」

現場で応急処置をしてもらって
結局
仕事を終えず
早退

左手に
ぐるぐる巻いた
包帯の状況で
一人で帰る道

何という晴れ晴れのお天気
皆幸せそうな笑顔と余裕があふれる
午後の横浜

こんな姿で帰る自分が
情けない

痛い
怪我した左手より

心が痛い

2012年4月1日、日曜日の出来事



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