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「天狗の涙」(週刊少年マガジン原作大賞/企画書部門)

■キャッチコピー

人間と天狗が共存できる社会を作るべく、陰謀渦巻く天狗界に身を投じる少年の成長物語

■あらすじ

 一般人に知られていないが、国家公認で「天狗」が存在する現代日本。天狗は特殊な能力「妖力」を持ち、国内の魔物を討伐して国家の治安を陰から守っている。妖力以外は人間と変わりないのだが、過去の積み重ねで人間と天狗との溝は深い。

 そんな中、普通の人間・佐藤要は家庭の事情で天狗の小学校に入学する。壮絶ないじめに遭うも、唯一の友達・一郎太ができた要。しかし突如現れた魔物により、一郎太は殺されてしまう。

 かつて一郎太と願った「人間と天狗が仲良くできる世界」を実現すべく、要は天狗になることを決意。天狗界の首領を目指す。しかし反人間派の陰謀により、天狗だけでなく人間界も巻き込む大騒動へと発展していく。

■第1話のストーリー

 一般人は知らない。縄文時代以前から平成が終わった英弘(えいこう)に至る現代でも、この国は魔物の驚異に脅かされていることを。そして「天狗」が魔物を討伐していることを。

 天狗は特殊な力「妖力」を持ち、魔物を見たり抵抗したりできる。溢れた妖力が体の組織を光らせ、体に特殊な紋が浮き出るといった特徴がある。それ以外は普通の人間と同じで、元は人間社会で普通に暮らしていた。
 だが見た目や異能ゆえに普通の人間は恐れ、天狗を迫害した。

 しかしながら天狗がいなくては、国が成り立たない。そこで国家で天狗を保護し、陰日向から日本を守っていた。
 人間社会から隔離された山奥に、天狗の学校がある。そして京都のとある山奥には、天狗界の幹部育成を担う天狗高等学校があった。

 ちらほらと雪が舞う京都の山奥。古い寺院のような外観の学園がたたずんでいる。正門には「入学試験会場」の大きな立て看板。各出身校の制服、様々な紋を顔に描いた受験生たちが正門をくぐっている。

 その様子を、二階の窓から在校生が見下ろしていた。
「ひゃー、あいつ北海道から来たのかよ」
「あの子、スゴイ派手な紋が出てるぜ」
 とある窓で笑っている京一と和平。その奥では、興味なさげに雪之丞(三年生の総代)が椅子に腰かけている。その時、あっと二人が声を上げた。

「人間だ!」

 雪之丞は立ち上がるなり、窓から外を覗いた。視線の先には顔に紋のない、男子学生──佐藤要──がいた。
 周囲の生徒は距離を置きヒソヒソしているが、要本人は堂々としている。

「迷い込んだのか?」
「ちょっと揉んでやる必要があるな」
 京一と和平が笑っていると、雪之丞が京一に告げた。
「お前、あいつに最大出力で火遁やってみろ」
「ええ、死んじまいますぜ」
「直前で俺がとめてやる。だから安心しろ」
 雪之丞の言葉で、京一は一気に気持ちが明るくなった。そして火遁の術を繰り出した。

 荒れ狂う炎の龍が要を襲う! 受験生たちが悲鳴をあげる中、要が手で弾く動作をすると、火遁の術は一瞬にして消え失せた。
「!」
 騒然とする場。しかし要は平然としている。

「さっすが雪之丞さん。絶妙なタイミングでとめましたね」
 尊敬の眼差しを向ける京一と和平だが、雪之丞は戸惑っている。

『俺は止めなかった。あれはあの人間自身が止めたんだ』
『あれほどの火遁、在校生でも滅多に止められない。なのに何をしたんだ?』
『いったい何者だ、あの人間!』 

■第2話以降のストーリー

 要は入学試験に挑む。学科、体力試験をこなすが、なぜか天狗と遜色ない高い能力を有している。しかし妖力測定はゼロだ。
 受験生も教師も疑問に思う中、対魔物戦を想定した戦闘試験が始まる。受験生と学生が一対一で挑むのだが、雪之丞が要との戦闘を申し出た。

 学生ナンバーワンの登場に沸く場内。要の手腕を見極めようとする雪之丞。瞬殺されるかと思いきや、要は神獣を召喚して雪之丞と善戦する。
 神獣との契約は「魔物に身を落とす行為」として、天狗界ではよほどの事情がない限り忌避される行為。それを平然としてのける要に、雪之丞は人生初の震えを覚えた。

「そこまでするなんて、お前の望みは何だ?」
「僕はただ、君と仲良くしたいだけさ」
 制限時間終了により、試合は引き分け。要は実力も人柄も、天狗たちから認められる。

 試験は無事合格し、桜満開の学び舎に通う要。同級生と仲良くなったり、イジメられながらも学生生活を楽しむ。そのうちに、友達に要は自身の経緯を語った。

 要は元々人間世界で暮らしていたが、天狗向けの道具作りを生業としていた祖父が倒れたことで、親子で遠野に移住した。そして天狗小学校に通うことになったのである。
 天狗に関係ある人間は、例外的に天狗の小・中学校に通える。だが人間を見たことがない子天狗たちは、人間を受け入れられなかった。

 転入初日から壮絶ないじめを受ける要。しかし同級生の一郎太と友達になったことで救われることとなった。
「天狗も人間も仲良くなれる社会になればいいのに」
 垣根を超えた友情を築いた要と一郎太は、常々そう願った。だが楽しい日々は、そう長く続かなかった。

 その当時、日本全域に凶暴な魔物が出現するという異常事態が起きた。魔物は要たちの前にも現れた。恐怖のあまり動けない要。襲い来る魔物から要を庇い、一郎太が死んでしまう。

「自分に力があれば……!」涙にくれる要。
 調査及び討伐のために遠野を訪れた上位天狗、透(若手衆のエース)は、一郎太の葬儀に訪れた。上位天狗と知った要は、その場で透に弟子入りを懇願する。

「本気で天狗になりたい」「天狗と人間が仲良く生きられる世の中にしたい」と願い出るのであった。

 その心意気を見込んで、透は承諾する。マンツーマンで要を指導し、長きにわたる修行に明け暮れた。そうして実力が伴った今、天狗高等学校に入学したのである。

 さて、学生生活を送っている折、廊下で透に偶然会った。透が教師として赴任していることに驚く要。「これからも君をサポートする」と温かい言葉をもらった。
 しかし透の表情はどこか厳しい。
 実は透はある調査のため潜入していたのだ。

 その調査とは、反人間派との動向について。もともと現体制を貫く「穏健派」の他に、人間との和平を望む「親人間派」と人間との断絶を拒否する「反人間派」が存在していた。今まで目立った衝突はなかったのだが、最近どうやら反人間派がおかしいのだ。突如過激化し、人間を滅ぼして「天狗が日本を統治する」というお題目のもと、勢力を急拡大させている。それなのに動きがちっとも掴めず、彼らがどんな暴挙に出るか不明だった。

 そこで親人間派は一計を案じた。身内に人間(要)を置き、反人間派がどのように動くか見定めることにしたのだ。親人間派や学生内にもスパイがいることは想定していたし、相手の動きによっては重大な証拠を掴めるかもしれない。そこで特別授業の担当&即戦力育成のサポートとして、透は教員生活を送っていたのだ。

 もちろん要はこのことを知らない。
 そのため誘拐されて脅されたり、喧嘩を吹っ掛けられたりと、日々の生活は騒々しい。逆に人間だからといって解剖されそうになったり、にわか生徒によって親人間派のアイコンとして担ぎ上げられそうになったりする。

 そんな折、懇意にしてくれる先輩・北斗。透からの命令で、要の指導として世話を焼いてくれた。しかし北斗の部屋で、変な薬を発見してしまう。それは陰の力を活性化し、魔物を強化する禁止薬物だった。

 ちょうど同時期に、天狗界にも異変が起こる。全国で凶暴な魔物が多数出現し始めたのだ。一郎太が死んだとき同様、今回も誰かが手を回していると踏んだ天狗の重鎮たちは、派閥の垣根を超えて調査団を結成して調査に踏み出す。
 透も参加するが、反人間派の代表者、会長代行の大和にきな臭さを感じていた。

 学園内外から異変に対応する要たち。結局北斗は反人間派のスパイで、とある計画のために陰のエネルギーを研究していたという。しかし目論見がバレたため、北斗は学園を去った。

 北斗の一件により、一連の事件は反人間派によるものだと天狗界の重鎮たちは結論付けた。反人間派はこれに反論。しかし処罰は厳正すべきとし、疑わしい者を全員尋問にかけると決定した。重鎮たちはこの決定に納得。処刑は滞りなく行われ、すべてが終わると思っていた。

 だが透はどこか違和感を覚えた。
「本当にこれで終わるのだろうか?」

 大和に呼ばれて、異常事態発生時の各派連携について話す透。しかし大和の側近が変装した北斗であることに、彼はまだ気づいていない──(第一部・完)


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