会社員殺害事件公判傍聴記*伝聞(被告人・S・K)

(裁判所)東京地方裁判所・刑事第13部合議係
(事件番号)令和2年合(わ)第63号
(罪名)殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反
(被告人名)S・K

(裁判長)平出喜一(裁判長)渡邉一昭(右陪席)赤瀬柚紀(左陪席)
(その他)廣瀬朋子(書記官)駒方和希、他1名(検察官)戸塚史也、山本(弁護人)小川真弘、坂田眞治士、板部汐里

(法廷事務)
(日付)2021.10.26

※○○は聞き取れなかった内容です。

24~25席程度の813号法廷前には傍聴希望者が列をなしていて満席に近い状態。T社の関係者が多かったらしい。
被告人は160cm弱の小柄で痩せていて青々とした丸刈りで血の気の引いたような表情。裁判員裁判で支給されるスーツとネクタイを着て、極端な前かがみで入退廷して移動中手を擦る仕草をする。体調が悪いのか横にいる弁護人が肩をさする時もあれば、目を閉じていることもあった。声のトーンは高めで証言台のマイクの音量を大きめにして質問に答えていたが、「仰る通りです」とか「端的に言えば」との表現を何度か使っていた。

裁判員は現役で働いているであろう年齢や見た目のスーツの男性4人と女性2人で、遺族の証言を聞いているときは神妙な面持ちだった。検察官席の奥は衝立が設けられていてアコーディオン式の衝立も入退廷時追加で設置されて取り払われていたが、なかには被害者の母と被害者参加弁護人がいることが判明した。また傍聴席の指定席に遺族関係の中高年の男女が座る。

(第2回公判の一部)
休廷を挟んで裁判所から証人に質問。証人は被告人の勤務先の所長。バイオリンのような黒い荷物を持参して終わったあとも在廷。

左陪席「被告人の当時の夜勤はどのくらいのペースか」

証人「5日に1回」

左陪席「被告人は不眠症になっていたが、健康診断やストレスチェックは」

証人「定期的に行っていた。健康診断、特殊健康診断がそれぞれ年1回の計2回。ストレスチェックが年1回」

左陪席「診断の結果は」

証人「健康診断の結果がどうなっていたか直接知る立場にないが、とくに問題があったという報告は受けていない」

被告人が発電機のミスで問題になって面談になったのは平成30年の12月頃と記憶している。

被告人は平謝りするタイプで仕事で同僚に注意されることもあったという報告は受けている。被害者以外にも注意する人はいた。

右陪席「被告人が直接注意を受けた頻度は」

証人「私のところに報告があったのは月に1回あるかないか。夜勤を組んだときペアから苦情がきたが、所長として事情を聞いて本人に対しての苦情だったので指導してやってくれと」

検察官からは発電機のミスは平成30年の暮れか事件の1年前だとも聞いていたが時期がずれると指摘があったが、証人は時期はあまり記憶していないとした。また被告人は5日に1回の夜勤サイクルのローテーションに入ってるメンバーの1人で、夜勤を減らすのではなくペアを変えたりした。色んな社員がいるからあの人と組みたくないとか言ってきた人もいたので、多少は対応した。次の2人目の証人(会社関係者)も入廷して被告人と被害者の関係等を聞くとした。

このときの短時間の合議で裁判長は加わらず法廷に残っていたが、裁判員からの質問はなかった。

(検察弁護側からの罪体に関する補充質問)
犯行の方法にナイフを使うことを村上龍の「昭和歌謡大全集」から着想を得た。そこにはナイフを使って人を殺す描写があり、中年女性がバイクに2人乗りで1人が運転、1人が刺した。頚動脈を狙うという話は、ナイフで頚動脈ではなくその場面では首だった。
頚動脈は限りなく透明に近いブルーで、村上龍の小説は自殺の時に使うと被告人は答えた。
検察官「犯行に使ったのはアマゾンで購入したナイフだが、10/26は他に刃物は持っていなかったか」
被告人「一番鋭利な刃物がナイフでした」
検察官「今回使った?」
被告人「はいそうです」
検察官「まだ新品か何度か使ったことがあるか」
被告人「未使用です」
検察官「刃こぼれなし?」
被告人「はい」
検察官「あなたが高砂社に行った理由は何か」
被告人「結論から言うと夜勤者だけの時間だったから
検察官「夜勤者だけとはなぜか」
被告人「そのほうが計画を遂行できるから」
検察官「計画というのは被害者を殺すということか」
被告人「はい」
検察官「夜勤者以外だと邪魔が入ると思ったのか」
被告人「はい」
検察官「10/26の午後7:13に品川事業所に行った理由は」
被告人「土曜日だった。土曜日は夜勤者が2人しか出勤してない、なおかつ土曜は残業がない」
検察官「会社に着いて事務所に入ったが、誰かいたか」
被告人「いませんでした」
検察官「しばらくすると被害者とKが来たが、どういうやりとりをしたか」
被告人「挨拶です」
検察官「何をしているのか聞かれたか」
被告人「書類を探していますと答えた」
検察官「いきなり被害者に襲い掛かるということは考えなかったか」
被告人「考えませんでした。Kさんがいるからです」
検察官「Kさんがいるのは都合が悪かった?」
被告人「うーんそうですね、Kさんに万が一危害を加えてしまうのではないかと」
検察官「Kさんがあなたに抵抗して怪我をさせてしまうと。万力も手に入れていた?」
被告人「具体的には背後に隙が生じたとき最初に万力を使おうと」
検察官「犯行の一番最初ですか」
被告人「はい」
検察官「当初から背後から襲いかかるのも」
被告人「それもあります」
検察官「何パターンか想定していた」
被告人「はい」
検察官「正対した場合は想定していたか」
被告人「具体的にはしていなかった。隙を見て万力を使うのかナイフを用いるのか正対した場面では想定していなかった」
検察官「万力以外にカッターナイフやドライバーはどうするつもりだったのか」
被告人「カッターナイフは頚動脈でナイフの予備、ドライバーは目を攻撃するのに使えると」
検察官「目を攻撃するのは最初から?」
被告人「考えていました。視界を奪いたかった」

検察官「事件の前にKと被害者と交代の日時を確認したか」

被告人「はい、しました」
検察官「被害者は会議室にいたが」
被告人「その瞬間は見ていません。中にいるのは部屋に明かりがついていた」
検察官「会議室に声とか掛けて入った?」
被告人「忘れ物をしたので入室したいと」
検察官「実際忘れ物はしたのか」
被告人「いいえ」
検察官「それなのに何で会議室に入ろうと?」
被告人「特に理由なし、単純に入りたかった」
検察官「いきなり被害者に襲いかかるというのはなかったのか」
被告人「それだと何事かと被害者の方に思われる」
検察官「不審に思われると」
被告人「はい」
検察官「不審に思われるとどうなるのか」
被告人「都合が悪い。目的を達成できなくなる」
検察官「身構えられたり抵抗される心配がある?」
被告人「はい」
検察官「会議室でナイフにタオルを被せた理由は」
被告人「ナイフを隠すためです」
検察官「一番最初に攻撃したのは目?」
被告人「はい」
検察官「2回目は」
被告人「目か首を狙いました」
検察官「顔に対して繰り返し攻撃したのは以前顔を見ると憎悪が再燃すると金曜日法廷で言っていたけどもうちょっと詳しく」
被告人「被害者の方とのやりとりを思い出して悔しかったです」
検察官「恨みを晴らしたい?」
被告人「そういうことです」
検察官「恨みを晴らすために顔をグチャグチャにする?」
被告人「はい」
検察官「事件のあとKさんが来たが、あなたが被害者を殺したとは言わなかった。それは意図的に?」
被告人「はい隠しました」
検察官「それは何でですか」
被告人「動揺すると思いました」
検察官「そのあとK2所長に電話しましたか」
被告人「していません」
検察官「意図的に隠した?」
被告人「はい」
検察官「初日にコハタ警察官がいらしたこと覚えています?」
被告人「はい」
検察官「逆恨みかもしれないという発言をした記憶はありますか」
被告人「はい」
検察官「どういう意味合いで」
被告人「殺したあと殺すほどではなかったかもとちょっと後悔から」
検察官「被害者に傍から見るとやり過ぎたと」
被告人「その通りです」
ここで検察官は乙2号証を示して署名と指印はあなたのものですねと確認した。被告人は「はい」と応じた。

弁護人「弁護人の山本から。金曜日の発言のなかで、平成30年被害者と夜勤を組む前の出来事で、顔を拳でゴーンと叩かれたことがあったと、そのときの状況について」
被告人「施設内の電球交換を行う立場だったのでいつもの流れで交換場所に行くつもりで被害者についてきてもらった。ヘルメットを付けていた。脚立も必要だった」
弁護人「コツンとやられたのは」
被告人「電球が点いていたので無駄足を踏んでしまったということ。状況が飲み込めなかった」
弁護人「実際電球が点いていたのでヘルメット越しにコツンとやられたと」
被告人「だが暴力だとは思わなかった」
弁護人「それはどうしてですか」
被告人「あくまで男社会なので気合を入れてもらった。被害者は空調課にいまして被害者の時間を奪ってしまい、こっちの仕事もあるんだからしっかりしてよ的な、暴力ではなかった、男社会ではよくあること」
弁護人「あなたのいう暴力とは」
被告人「警察がいうような暴行や傷害、ひどくて、日常的に蹴ったり殴られたりそういうことだと思った」
弁護人「平成30年10月に買ったナイフは未使用のまま、そのあと使ったか」
被告人「使っていません」
弁護人「どこにしまったのか」
被告人「台所の下です」
弁護人「すぐ見つかったのか」
被告人「少しの間かかりました」
弁護人「いつ頃購入したかは」
被告人「覚えていなかった」
被告人はナイフの購入は被害者を殺害しようと思ったあとのこと、会社を欠勤する前に買ったことを思い出したが具体的には何も考えていなかったと述べた。

弁護人「弁護人の戸塚から。被害者は不正や不純で、是正を求めないことは良くない、だから殺すしかないと、聖戦と表現していたが恨んでいるから殺すのですか」
被告人「違います」
弁護人「恨みを晴らす?」
被告人「はい」
弁護人「当時はどういう気持ち?」
被告人「やられっぱなしで悔しかった、やり返したかった」
弁護人「聖戦とはどういう意味ですか」
被告人「度が過ぎているからと思った」
弁護人「不正行為に当たると思ったのは?」
被告人「いくら私の能力が足りなかったり不○○な面があるにせよちょっと度が過ぎている。あんまりだと思った」
弁護人「なぜ注意すると度が過ぎているのですか」
被告人「時間に遅れたことを指摘されたことがあった。職場で敬遠されていて、私と組んでいる方は1人で仕事をさせてしまっている。自分はどうしていいか分からなかった。被害者とは仕事の割り振りはフィフティーフィフティーで仕事を任せるなら裁量も持たせてほしかったがそうでもなかったです」
ここで乙2号証(事件翌日の10/27の品川警察署の警察官作成の供述調書)の採否を巡って弁護人は「記憶が混乱した状況で信用性がない」と却下を求めたが裁判長は必要性ありとして証拠採用決定。弁護人の異議申立も棄却で、採用部分の9行が検察官から読み上げられる。内容はナイフは2000円ぐらいの購入値段で、いつか機会があれば人を殺す憧れがあったが、対象は漠然と人を殺すというだけで被害者ではないとするもの。

□強制わいせつ致傷の裁判員裁判傍聴のため一旦離席(男が元恋人にマンションで首を絞めて無理やりキスをした事案)

被告人はいつの間にか涙声になっていた。
被告人「父は私のことを信じてくれていると言ってくれて嬉しかったです」
妹とは留置所で父よりも面会が多かったが(謝罪も受けたという)、10/24に一週間くらい実家に帰ったときにもっとコミュニケーションを取っておければ良かったと反省している。
自分が何のために実家にいるのか逮捕されてから知ったという。
検察官「逮捕されて勾留期間も長いが、その間何をしているのか」
被告人「一言で言えば留置所はきつかった。東京拘置所では温かく職員が見守ってくれている。誰かに相談すればよかった」
検察官「あなた自身は」
被告人「父に手紙を書いている」
検察官「罪を償ってもらわないといけないが、今後のあなたの生活は」
被告人「具体的には想像もできないが、目標として社会の役に立つ人間になりたい」

(青木彩香が弁護側の証人として宣誓のうえ証言した要旨)
多摩青葉病院の精神保健福祉士であり、ソーシャルワーカー。精神疾患や障害を抱えた人が地域で生活できる支援をしている。
東京TSネットと医師と弁護士が対等な立場で検討していくという話もあり、更生支援計画とは罪を犯した人が出所してから再犯しないようにしていくということで、青木はこれまでに本件含めて5件作成した。自閉スペクトラム症の同様の事例はたくさんある。
更生支援計画を作成するために、本人と面会、父親と面会、弁護人の打ち合わせに参加した。弁護人の打ち合わせでは精神鑑定書や事件の鑑定書、医療記録を見た。父親はご本人の今後のことを心配したり被害者に申し訳ないと話していた。面会は3回各40分程度。40分は面会の最大限の時間。
本人と面会したときの第一印象は言葉の選び方・目線・歩き方が自閉スペクトラム症の典型でよくご生活されているなと思った。直近の生活について家で掃除もできないし、身の周りのことはしきれていないのでフォローに入らないといけない。普通の職場だとなかなか適応しづらかっただろう。分かる人ならいいが周りの方々から見ると不○○や不真面目に見えてしまい大変だったのでは。被告人は事件前に自殺するかどうしようか思い詰められていたと聞いている。歪んだ正義を全うしたことも被害者にされたことが辛いものだったとされ、聖戦や不正を許してはいけないというのもそういう気持ち。障害の特性や能力から理解できないわけではない。被告人は自閉スペクトラム症と聞いて安心した、知能指数が低いことを聞いてそういうことだったと言ったと記憶している。更生支援計画の方針は1.法律を守る、2.何かに苦しくなってどうしようもなくなったときは必ず誰かに相談する、支援策は1.経済的な安定、2.相談する場所、3.医療のところにフォローを入れるで、1はどのくらいの刑になるか分からないが生活保護や障害者年金の取得(手帳)でお金を稼ぐ切迫感を持たない保障、
3は長く病院に通われたことがない、通院して1人の医師と信頼関係を築く、医療機関の受診を挙げた。自閉スペクトラム症の障害者手帳(受診していれば可能だった?)のメリットは障害者雇用や配慮してもらえる、ご本人に分かりやすく伝えるなど。父親は高齢で服役が確定したらフォローが難しい、生活支援をする人を入れる、グループホームに入るなどの見解を述べた。他に医療観察法の話も出ていた。

裁判官からこれまで服役後の話だったが服役中はどうかという質問に服役中に関われることは手当てや支援だがご家族は高齢で未知数、私のフォローも入ることができない、刑務所のなかでは精神科プログラムを取るなど規定に基づいて支援する、刑務所のソーシャルワーカー、更生支援の手当てや処遇はご存知かと訊かれていた。ご本人の捉え方のずれとして認知グループがやっている認知行動療法で客観的な事実の理解にずれがあり主観が入り過剰な被害と認識することがあり得るとした。

被害者参加弁護人が被害者の父と妹の意見を読み上げ、遮蔽の奥にいた母は抑揚のない声で意見陳述する。

(被害者の父親)
息子は明るく優しく努力家。4人家族で生活して家族思いで、我が家が経済的な余裕がないことが知っていたので早朝からアルバイトをして、大学ではなく専門学校に行った。
東京で頑張っていることを知らせてくれて、正社員で入社した会社が職場環境もいいと喜んでいた。息子の成長を頼もしく思って何も心配していなかった。
私が仕事を続けるのが難しいことで、「体に注意しながらやっていって」というのが息子の声を聞く最後になるとは思ってなかった。
品川警察署の刑事から息子が殺害されたと聞いたときはあまりに突然で呆然とするだけだった。自分は体調が悪く沖縄に待機して妻・娘・妻の兄と警察署に行ったが、足しか見せてもらえなかった。息子に対して顔の原型が留めなくなるまでナイフで刺したので、警察が配慮したのだろう。妻と娘は精神的に不安定になり、妻は気丈に振舞ってはいるが夜は眠れない、心療内科にかかっている。私も睡眠薬がないと眠れなくなり処方薬が強くなった。息子は決してトラブルを起こす人間ではなくこれまで一度もない。犯人の動機だが仕事ができない場合叱責されて当然。私の家族は今でも苦しんでいる。犯人は命をもって償うべき、それか一生刑務所に入れて2度と社会に出さないでほしい。

(被害者の妹)
兄は真面目で正義感が強く昔私をからかった同級生を叱り、泣いている私を連れて帰ってきたことは今でも鮮明に思い出せる。乗馬や父の船で魚釣りを一緒にやった。兄は父の体調が悪いことからバイトしながら高校に通って大学ではなく専門学校に行った。兄は私の結婚相手にもお祝いして妹をよろしくお願いしますと家族を大事にしていた。母から兄の死を聞かされたとき現実が全く受け入れられなかった。顔面の損傷が激しく足しか確認できなかった。兄の葬儀のあと現実を考えるようになり、兄に迷惑をかけていた私が死ねばよかったと考える。母は気丈に振舞って気を紛らわしているが、父は睡眠障害になり、私は精神的負担が高まって家族にとって大きなダメージがある。兄の交友関係は広く非常に多くの人が兄の突然の死を悼んでいた。アパートの大家から感謝の言葉、バイクショップの店長は沖縄まで来てくれた。多くの人に慕われていたので悔やまれる。なぜこんな目に遭わないといけないのか。犯人は憎くて憎くて仕方ない。自分の家族が同じようなことをされたらどう思うのか。声も出せない兄の真面目な人柄。私自身精神的不調を持っているが多くの人はそんなことしない、絶対病気のせいにしないでください。こんな人間同じように殺してやりたい。家族全員が薬を飲み続けている生活でどれだけ私たちの日常を奪ったのか。のうのうと生きていることが許せないので一生刑務所に入れてほしい。

(被害者の母、遮蔽の奥から同様のことを陳述する)
今息子がいた東京にいる。会いたいと強く思います。ですが会うことはできません。現実なのか悪い夢なのか悔しく胸の張り裂ける気持ち。息子は責任感の強い子、人の痛みの分かる子で友達も多く家によく遊びに来ていた。

論告前に検察官は冊子を裁判員と裁判官に配ってお手元の論告メモをご覧くださいとした。

(検察官の論告)
殺人、銃砲刀剣類等取締法違反の事実関係は十分立証されているし弁護側と争いはない。
争点は責任能力の程度で、自らの意思で判断行動する能力が低下していたか。
自閉スペクトラム症やうつ病の精神障害が物事の善悪を判断する能力に与えた影響は限定的で完全責任能力があった。

1. 精神障害の内容や症状

今井医師の証言だが、今井医師は中立の立場で鑑定経験も豊富で精神障害が本件犯行の影響について面接の診断結果に基づき誠実に証言していて十分に信用できる。自閉スペクトラム症やうつ病に罹患していたがうつ状態は実質は適応障害で、被害者の殺害を一日で決意したことも報復感情や怒りとして了解可能である。自閉スペクトラム症の極端な〇〇性とうつ病の焦りの与えた影響は限定的。

2. 被害者の殺害を決意した動機は了解可能

仕事のミスを叱責されて被害者との夜勤に強い苦痛を感じていて平成31年に複数の心療内科で職場の人間関係の悩みや休職事由の消滅が取れないと退職になることを打ち明けている。職業訓練校を出て念願の正社員になったが、被害者の指導をパワハラやいじめという不当なものとして被害者に嫌悪感を抱いていたのは明らか。休職を余儀なくされたのは被害者のせいだとして強い怒りと殺意があったのは十分に理解できる。「悪を黙認してはいけない」として被害者を許さないという心の動きも被告人の価値観や心情を前提とすると理解できる。短期間に被害者の殺害を決意したのも正常心理で精神障害が犯行に及ぼした影響は少ない。

3. 本件は計画的で確実に被害者の殺害に向けた合理的な犯行である

10/24に殺害を決意して10/26に犯行に及んでいるから実際に行動を開始する期間が短いとされるが冷静で合理的な行動。合理性を考えると夜勤の時間に定めて、10/26の夜勤に被害者がいることを確認して土曜日は残業の可能性も低いとした。その時間帯に職場に向かい、被害者とKがいたが、いきなり犯行を開始することなく書類を忘れたとなかに入り、Kの休憩時間が終わり、被害者が会議室で一人で休憩しているところを狙った。刃を固定して手袋をつけ、被害者が横になって無防備な状態で犯行に及んだ。決意してから犯行に及んだ期間が短いというのは精神的な影響を大きく受けていない。

4. 犯行態様が執拗で凄惨なこと

自閉スペクトラム症のこだわりや執着心が影響していると、長期間執拗に刺したことをどうしてそこまでと思われるかもしれない。犯行後Kに「状況はあとで説明します」と落ち着いて対応して警備員にも本当のことを言わず、臨場した警察官にも適切に応対している。善悪を判断する能力はあった。

5. 執拗に犯行に及んだ理由

被害者に対する強い怒りや憎しみの感情が再燃したとして、顔をグシャグシャにして復讐したいというのは了解可能。善悪を判断したり行動をコントロールする能力が著しく制限されていたわけではない。平素ナイフで殺した小説を愛読してその憧れからナイフを使用して人を殺すことに関心があり、精神障害ではなく被告人の嗜好で、愛読した小説を真似てナイフを使ったことは平素の人格からむしろ○○。平素の関心に起因する。

結論
犯行当時犯行が法的にも倫理的にも許されないことを理解していたことは明らか。
被告人の価値観と怒りから合理的な行動を選択して実行した。殺さない選択もあったがあえて本件犯行に及んでいて、精神障害の影響は限定的。犯行当時は善悪の判断能力を有して完全責任能力があった。

情状について
1.動機が身勝手であること
休職原因となった被害者に強い恨みを持ちそれを晴らすために犯行に及んだ。被害者に苦手意識があるなら夜勤の時間に他の上司や同僚にシフトを配慮してほしいと言うべき。犯行は極めて身勝手で強く非難されるべき。
2.殺害が計画的であること
被告人はナイフや手袋をあらかじめ用意して、1人で休憩中に犯行に及んだ。計画的で悪質。
3.凶器を使用して態様が執拗で残虐であること
ナイフを頸部や顔面に何度も突き刺して残虐。万力を振り下ろしたりしている。こだわりと執拗さはあるが精神障害の程度は限定的、憎悪と相俟って犯行に及んでいるので多大に有利な事情とすべきでない。
4.被害者に落ち度はなかったこと
確かに職務上注意していたのは事実だが、それに至る内容は時間を守らなかったことや一度習ったことを忘れたなどの理由で不当なものとは考えられない。
5.遺族の処罰感情が厳しいこと
さきほど聞いたように遺族の悲嘆は極めて大きい。両親や妹は精神的ショックで日常生活への影響は大きい。結果は極めて重大。ご遺族の精神的苦痛も重大で厳しく処罰してほしいという。

殺人は死刑、無期から懲役5年以上の法定刑で、量刑検索システムで刃物を使ったand単独犯and被害者に落ち度なしand前科なしなどの条件だと102件あり量刑のピークは懲役17年~18年。このうち23年以上や死刑、無期は複数の殺人未遂などがあり本件にはあてはまらない。計画的な犯行and自首したand長時間にわたり繰り返し攻撃したなどの条件だと、数十回刺したor50箇所の傷の2件あり(いずれも自首)懲役20年~21年の範囲。

求刑;懲役22年及び押収してあるナイフ一本の没収

(被害者参加人弁護人の意見)

動機を斟酌すると被害者に落ち度はない。憎しみや恨みは被告人の身勝手な動機に過ぎず、真面目に勤務していた中堅リーダーで丁寧な対応。被告人は仕事能力が劣り誠意や真面目さがない。被告人の語るエピソードのなかで休憩時間が終わったのに遅れたことを注意するのは社会人として当然、被告人のヘルメットを叩いたというのも被告人自身が暴力行為ではなかったと言っている、挨拶を無視されたというのも気づかなかった可能性があり、正当な業務内の指導の範囲内。高砂社は製薬会社の機密を扱っている。万力やリュックサックのなかにナイフやドライバーを入れて用意周到で2時間にわたりそれらで顔の原型を留めないほどにしている。被害金として100万円の提供も被告人の父親が用意したものであるし、母親は14歳のとき失踪して妹も監督に関して述べていない。極刑が相当。
午後は13:10分から再開して弁護人の弁論と最終意見陳述を行うと述べて午前の審理は終わった。弁護人はモニター使用の準備をしていた。

判決は懲役17年未決勾留日数500日算入双方控訴せず確定。

(責任能力について)
ある程度減退していたものの著しく劣っていないとして心神耗弱ではなかったと判断。
ヘルメット越しに拳骨されたことや脚立を使ったとき「一番上まで上がれ」と叱責されるなど被害者との人間関係に思い悩み心療内科に通院していたもので、ヘルメット越しの拳骨は気合だったと否定しているが、能力不足を叱責されて自尊心が傷つけられ、ついに休職になり現状を打開しようとしたが「何をやってもうまくいかない」と24日に自殺をしようとしたが父に止められて、被害者の叱責を思い至り、怒り・不満・憎悪が再燃して殺意になった経緯は了解可能で大人しい人でも限界を超えると爆発する。精神障害の影響も相俟って犯行に及んだ。
凄惨で執拗な犯行で、給湯室に水を飲みに行ってその後再開した異常性や顔を見ると憎悪が再燃したという強い殺意の背景には、被害者がストレス要因だったことの達成感や自分が小説の主人公になった高揚感があったとして了解可能。

(量刑の理由について)
頸部や顔面を原型が留めなくなるまで刺した残虐で執拗な犯行で万力も2回打ち付けている。遺族は掛け替えのない被害者の命を奪われ、最後の姿を見たいという願いも叶わなかった、遺族の生活は事件を境に一変してずっと考えて生きていかなければならないのであり結果は重大、2日間入念に計画した、精神障害の特性から思い止まることが困難だった、自閉スペクトラム症とうつ病が一定程度影響を及ぼしたことは量刑上考慮せざるを得ない。

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