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岡口裁判官の民事裁判の経緯・その2

第一:原告側第2準備書面


原告側は、第2準備書面を2021年11月10日に提出した。
被告側の主張への認否は、以下の通りであった。

第1・被告の主張に対する認否
1・被告は、本件投稿1について、最新の法律情報の提供の一環として、本件事件が深刻な性犯罪殺人事件であることに加え、「被告人が被害者の死を確認した後に姦淫に着手した場合に強姦未遂が成立するのか」、「当初から、被害者を殺害した後に姦淫行為に及ぶ意思であった」(被告準備書面(1)、2P,3P)という刑事法上の重要論点に関する高裁判決であることから紹介したと主張するが(被告準備書面(1)、第1,1)、否認する。
2・被告は、「本件刑事判決ページが、いわゆる江戸川女子高生殺人事件に関するものであることを知らなかった」と主張するが(同書面第1,1)、否認する。
3・被告は、「抽象的な裁判例の紹介と思っていたものに対する抗議ということに被告は大変戸惑った。しかし、被害者遺族の心情を傷つけることは全く本意ではなかった」と主張するが(同書面第1,2)、否認する。
4・被告は、「原告の犯罪被害者としての立場や心情に心を砕いて」いるとの主張は(同書面第1,3)、否認する。
5・被告が誤解を解きたいと考えていたこと、及び本件投稿3を友人限定で投稿するつもりであったとの主張は(同書面第1,5)、否認する。
6・時効の援用(同書面第2)については争う。
7・同書面第3の記載のうち、被告の本件各投稿が不法行為の成立に至っていないという点については争う。

被告側の求釈明については

・原告らが被害者の氏名の秘匿を回避したのは、法廷において被害者の実名を発言できずに審理が進むことを避けたかったからである。
・本件刑事事件の一審判決後、実名報道された内容について、原告らが不当である等と感じたものはあったが、特別な抗議等は行っていない。

と回答した。

そして、概要、以下のように主張を展開した。これは、原告側第2準備書面により、要約を加えつつ、詳細にまとめたものである。
①・犯罪被害者等人格権に内包される個々の権利についての侵害があればそれにより各々不法行為が成立し、また、当然、犯罪被害者等人格権の侵害となる。
②・当時の被告のツイッターは、最高裁の認定の通り「性的な内容の文章や写真等を繰り返し投稿している」ものであり、その投稿は司法関連のものより半裸や性関連のものが多いものであった。原告らは、被害者が、更に不特定多数からの性的な好奇の目に晒されたこと及び被害者を失うことになった事件自体を揶揄の対象とされたことに、非常に憤り、悲しみ、深く傷つけられた。原告らの最初の被告への連絡にあるとおり「このような形であげ」たことが問題となったのであり、単なるURLの記載のみではなく、ツイッター上の本文での被告の表現について問題としていた。
侵害された権利は、第三者から性的な好奇の目に晒されたりすることなく故人を静謐に悼みながら平穏に暮らす権利、故人を敬愛追慕する情の侵害が中心となる。故人のプライバシー権侵害もある。
法律情報の提供を目的とするならば、被告人がどのような行為に性的興奮を覚えるかなどの記載は不要であり、「被告人の異常な性癖や犯行の猟奇性に着目した表現」をする必要はない。本件事件が刑事法上の重要論点を含むことは、本件投稿1からは全く読み取れない。
仮に被害者遺族の心情を傷つけるつもりがなく、真に本件投稿1が最新の法律情報の提供の一環であるならば、その旨を説明すればよく、ツイッターのメッセージ機能を使えば、原告らに連絡し、説明できたはずであるが、一切そのようなことはしていない。
実際には、原告らを傷つける発信を、原告らが見ていないと思っていたというaskfmで「正直、俺はリンクを貼っただけで、載せてはいけない判決をアップしてしまったのは最高裁だからな」「だって、あれは、明らかに刑事部のミスでしょ。俺の話を大きくすると、それだけミスした刑事部についての話も大きくしなければならない。今の裁判所は刑事系が牛耳っているから、そういう展開は当局にとってもよろしくないんだよね。」などの投稿をし続けていた。さらに、厳重注意処分後も、被告は、「『内規に反して判決文を掲載』したのは、俺ではなく東京高裁」などと投稿している。
被告は、あえて亡くなった被害者を性的な好奇の目に晒すような紹介文を作成したもので、その趣旨が法律情報の提供の一環にあったとは、到底認められない。
③・時効について。被告の原告らに対する本件投稿1は、本件投稿2,3の前提となる行為であり、同一の事件及びこれに関する刑事裁判に関連した同一の遺族に関する一連の行為であり、原告らの精神的苦痛は発生し続けている。
基礎となる刑事裁判は同一であり、発進者とこれを受けて精神的苦痛を受けるものが同一であること、本件投稿1を前提としてこれに対する原告らの対応について本件投稿2及び3が発信されていること、重ねて発信されて侵害されているのは原告らの犯罪被害者人格権であり、精神的苦痛がより増大している。その損害を各行為ごとに切り離して評価すべきではなく、本件投稿1~3の投稿は、包括して一個の連続した不法行為として捉えるべきであり、時効起算点は、最終の被害が生じた本件投稿3がなされた時点と捉えるべきである。
④・被告は、江戸川女子高生殺害事件の判決であると知らなかったとするが、原告らが実名で裁判をした時の裁判記事をツイッターに投稿している。
⑤・被告は遺族を傷つけることは本意ではなかったと主張する。しかし、「フェイスブックについては削除要請がなかったため、現在まで削除されずにそのまま残っている」とツイートし、被告の著書にも明記されている。また、その後も本件に関する発信がなされている。分限裁判後に被告が実施した記者会見において、被告は、原告から本件投稿1について削除要請があったなどと事実と異なる発言や、通常人であればあの程度では傷つかないなどの発言をしたようである。かかる被告の行為からすれば、被告は、「被害者遺族の心情を傷つけることは全く本意ではなかった」との主張は、事実ではない。
⑥・被告が「原告の犯罪被害者としての立場や心情に心を砕いて」いるならば、原告らが見ていないと思っていたからといってAskfmで投稿し続けたり、フェイスブックについては削除要請がなかったからといって、削除されずにそのまま残したり、訴状記載のとおり、客観的事実に反する言動をなど、考えられない。被告は「原告の犯罪被害者としての立場や心情に心を砕いて」いるとしつつ、「因縁をつけているだけですよ。」との書き込みを、わざわざ何の注釈もなく、そのままブログに紹介した。一連の客観的な被告の言動からも、原告ら及び被害者の立場、心情に一切配慮していないことは明らかである。このような客観的な事実と矛盾する主張をすることで、更に原告らは、傷つけられている。
⑦・被告が誤解を解きたければ、東京高裁当局が間に入っているのであるから、その旨を伝えればよい。しかし、原告ら及び原告ら代理人は、東京高裁から被告が誤解を解きたいと言っていることなど、一切聞いていない。謝罪については、1度だけ被告から東京高裁を通じて申し入れがあったが、原告らは、被告が原告らからの指摘を受けたのちも本件投稿1に関連して不誠実な投稿を続けていたこと等から拒否している。
⑧・本件投稿3を友達限定で行うつもりであったとするが、投稿直後に被告は「遺族」に対して説明しているが、そうした理由の記載はなく、「洗脳されている」という表現をした理由を説明している。友達限定での投稿であったということが事実に反する。そもそも被告は、2018年3月29日に「『内規に反して判決文を掲載』したのは、俺でなく、東京高裁」というツイートをしている。したがって、山中弁護士のブログを読んで東京高裁の担当者の判断について情報交換をしたということ自体が事実に反するものである。本件投稿3をした際の考えは不明だが、被告が原告らを侮辱し、名誉を棄損する内容を、原告らが最も静かにXを想い、過ごしたい、その命日に投稿した事実は何も変わらない。
原告らは、被告の一連の投稿、さらには本件投稿3によって、何度も何度も深く傷つけられ続けているところ、本訴訟手続きにおいても上記のとおり友達限定の発信のつもりだったなどとされ、さらに精神的苦痛を受けている。
⑨・社会的評価の低下について。強姦、強盗殺人の被害に遭ったということだけで、否定的に評価する者がいる可能性がある。個人が社会に意見を発信することが飛躍的に容易になった現代社会においては、社会的評価が下がったとする者が強く発信する危険がある。法廷での遮蔽措置が認められているのは、このような危険も理由である。しかも、本件投稿1は単に刑事法上の重要論点の紹介ではなく被害者を揶揄する形で事件を紹介しており、被害者の社会的評価を低下させたといえる。
「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的な興奮を覚える性癖を持っ」ているというのは被告人に関する事実であるから被害者個人のプライバシー情報ではないとするが、被害者は、17歳の女性であり、上記性癖の被告人に殺害されたことは一般人を基準にした場合、公開を望まない。被告は、原告からの苦情を受けて、直ちに投稿を削除しており、被告としても公開を望まないという心情は理解していたはずである。
判決文では、反射的に被害者についての情報も示されている。詳細な犯罪事実も、一定の程度示されている。
本件投稿1を閲覧した者が内容を知れば、報道などから原告らを探知し、自宅を訪れる可能性はある。また、それに至らないまでも原告らは実名で報道機関に対応しており、本件投稿1に誘発された者により原告らの生活の平穏を害される可能性は存在した。
被告の投稿からは、むしろ閲覧者の性的好奇心に訴え掛けようとする姿勢がある。
⑩・一般人でも、不法行為が成立する。
 本件殺人は、性被害という点からいえば、事件引用の仕方によっては被害者本人及び遺族の心情を傷つけ、侮辱するものとなり、社会的評価を下げるものである。また、被害者本人が性的な好奇の目に晒されることは、遺族が故人を静謐に悼みながら平穏に暮らすことを侵害する。本件は、性被害であり、通常は公にしたいと思わない事件である。
本件投稿1の本文は被害者を揶揄する形で表現され、他方で被告人が被害者の死亡後に姦淫の着手をしたことがわかる記載はなく、刑事上の重要論点についての判断が含まれるものと認識することはできない。
死亡後の姦淫着手との関係でいえば、行為者の性癖は全く無関係であり、被告人の性癖のみをあえて誇張する投稿は揶揄したものと言わざるを得ない。
そして、そのような投稿後、現在に至る長期間、原告らは、被害者を静謐に悼むことができなくなり、更にその侵害は、今後も生じ続けるのである。
したがって、原告らが公判廷で実名の使用に踏み切ったとは言えども、本件投稿1のような揶揄した形での投稿は一般人が行ったとしても違法である。
本件においては、本件投稿1に対してなされた被害者からの抗議に応じて投稿を削除し、その後、所属する組織を通じて被害者の意向も確認した後に本件投稿2及び本件投稿3が繰り返され、そのほかにも謝罪の表明があったと聞いていた遺族の心情を逆なでする投稿も行っている。さらに、本件投稿3は、本件刑事事件が発生し被害者が亡くなった命日であり、原告ら遺族が被害者を悼み最も安らかに過ごしたいと思う日になされている。
このように繰り返された行為によって原告らが受けた精神的苦痛は言葉では言い尽くすことができないものである。
以上より、本件が仮に裁判官の身分を有しない者が行っていたとしても不法行為が成立する。
⑪・本件は、さらに被告が裁判官であるという特殊事情がある。
被告は裁判官であって、事件当事者が刑事手続きに臨んだ思い、その判決を受けての思い、遺族が極刑を望んでいたもののかなわなかったこと、控訴審に置いて被告人が、遺族の損害賠償命令に応えるためには有期懲役刑である必要があるなど不合理な主張をしていることなどに鑑みれば、より丁寧な対応がなされてしかるべきであった。
犯罪被害者等基本法についても裁判官であり、本件投稿1が問題となったあとであれば十分理解することができたはずである。高等裁判所を通じて原告らの意向が伝えられ、処分も受けている。
しかし、被告は、本件投稿1について裁判所が判決を掲載したことが問題であったとしたり、その掲載を引用したのは重要論点の紹介であった、本件投稿2について他人の投稿の引用に過ぎない、本件投稿3については友達限定であるなどし、誠実な対応がない。
このことにより原告らは深く精神的苦痛を受けているものである。

第二:被告側準備書面(2)


2021年年12月14日、岡口裁判官側は、被告側準備書面(2)を提出し、原告側に対して反論を行った。以下は、その被告側準備書面(2)に要約を加えつつ、詳細にまとめたものである。

①・犯罪被害者等基本法第6条に由来する「犯罪被害者人格権」の内容は、「犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することのないよう十分な配慮を求める権利」以上のものとはなり得ない。原告が主張するところの、犯罪被害者等のプライバシー権、自己決定権、二次被害を防止する権利、犯罪被害者等の人格的生存を実現するための権利が具体的に何を意味するのかは必ずしも明らかにされていないが、「国民は、犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することのないよう十分な配慮」を求める以上の権利を犯罪被害者等が対世的権利として取得しているとみることは、現行法の解釈としては困難である。
②・被告は、注目すべき裁判例が最高裁判所の運営するウェブサイトに掲載されると、これについてそのURLと短い見出しをつけてツイッター上に投稿するという行為をするなど法律関係者のための情報提供をしてきた。被告自身の半裸写真や性関連の記載のある投稿は、全体からするとごく一部でしかない。
「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男そんな男に無残にも殺されてしまった17歳の女性」との表現は性的好奇心を煽る表現ではなく、事件を揶揄するような表現でもない。また、この表現が原因となって原告らが不特定多数人から性的な好奇の目に晒されたとの事実及び被害者を失うことになった事件自体を揶揄の対象とされたとの事実については、裏付ける証拠は提出されていないし、被告訴訟代理人らが調査をした限りにおいてはそのような事実は見当たらなかった。「そんな男に無残にも殺されてしまった17歳の女性」との表現は、被害女性をからかうものではないし、被害女性に対する皮肉でもないので、被害女性を揶揄するものではない。
被告は、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男そんな男に無残にも殺されてしまった17歳の女性」との表現により性的好奇心を煽られる人がいるとはそもそも思っていなかった。性的な表現にしか関心がない人々が興味本位で本件刑事判決を閲覧することは想定しておらず、誘導しようという意図を有していなかった。
③・甲第2号証のツイートには、「なぜ私達に断りもなく判決文をこのような形であげているのですか?」と記載されているに留まっている。「このような形で」という表現を、「『首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男そんな男に無残にも殺されてしまった17歳の女性』との紹介文とともに」という意味に読み取ることは困難であり、被告は実際そのようには読み取らなかった。
④・本件刑事事件では、被害者の死後の姦淫行為について、強姦未遂罪が成立するのは、被害者の生存中にこれを姦淫しようとしたが、その前に死亡させてしまったので死体を姦淫したという場合に限られるのか、当初より被害者の殺害後に死体を姦淫する意図であった場合も含むのかが控訴審での争点の一つとなっていた。
本件刑事事件で東京高裁は、「被告人が首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を有していたこと」を一つの根拠として「本件犯行の主たる目的は被害者を絞殺して強姦することにあったと認められ」るとした上で、そのような場合でも強姦の実行行為に着手したものと認められるとした。
したがって、この、「被告人が首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を有していたこと」という部分は、本件刑事事件における重要な事情を構成するものであったと言える。本件刑事判決の原判決が言い渡された日の翌日である平成29年5月24日付けの産経新聞朝刊においても、「判決によると、青木被告は女性が首を絞められ乱暴される様子に興奮する性癖があった」旨の報道をしている。
姦淫着手時に被害者が既に死亡していた場合、強姦罪の実行行為の着手があったと言えるかという論点は、刑法各論上の著名論点の一つである。したがって、刑法各論をある程度以上学んだ人々が「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男そんな男に無残にも殺されてしまった17歳の女性」という表現を読めば、「姦淫着手時に被害者が既に死亡していた場合に強姦罪についての実行の着手が認められるか否かについて新しい判例が出たのか」と気付くのであり、本件事件が刑事法上の重要論点を含むことを容易に読み取れるものである。
原告らは、被告が原告らを傷つける発信をしたとする。しかし、そこで掲げられているのは、「正直、俺はリンクを貼っただけで、載せてはいけない判決をアップしてしまったのは最高裁だからな」「だって、あれは明らかに刑事部のミスでしょ。俺の話を大きくすると、それだけミスをした刑事部についての話も大きくしなければならない。今の裁判所は刑事系が牛耳っているから、そういう展開は当局にとってもよろしくないんだよね」というものである。しかし、これらの発言は、被告が本件刑事判決に関するURlを記載したツイートをしたことに関する責任の所在が、判決文を公開した最高裁とそのURLを記載したツイートを投稿した被告のどちらにあるのかという点に関するものであって、原告らを傷つけるものではない。「『内規に反して判決文を掲載』したのは、俺ではな東京高裁」という投稿も、被告が本件刑事判決に関するURLを記載したツイートをしたことに関する責任の所在が被告にあるのか東京高等裁判所にあるのかという責任論に関するものであって、原告らを傷つけるものではない。
⑤・仮に、本件投稿1を見て原告らに精神的苦痛が生じた後、本件投稿2、及び本件投稿3を見てさらに精神的苦痛が大きくなったということであるとすると、本件投稿2及び本件投稿3を見たことによって生じた精神的苦痛の拡大部分のみが本件投稿2及び本件投稿3によって生じた損害となるのであって、本件投稿1をみて原告らによって生じた精神的苦痛は、原告らが本件投稿1を見た時点から3年の短期消滅時効が進行することとなる。後発の不法行為が先行する不法行為と一定の関係を有するからと言って、先行する不法行為の短期消滅時効の起算点が後発の不法行為の短期消滅時効の起算点までずれ込むということは理論的にあり得ない。
⑥・被告が甲第25号証のツイートを投稿したことは認める。ただし、投稿は平成29年12月1日の事であり、被害者遺族が法廷であえて実名を選択したことに着目してヤフーニュースの記事のURLを含むツイートを投稿したに留まる。そして、最高裁判所のウェブサイトにアップロードされていた本件刑事判決には原告らまたは故人の実名等が掲載されていなかったことに鑑みれば、本件刑事判決が甲第25号証にて言及した事件に関するものだと理解することは困難であり、実際、被告はそのような理解に至らなかった。
⑦・原告らが列挙する各事実(注・記者会見、雑誌の取材など)は、本件投稿1を投稿した後の対処に関するものであって、被告が本件投稿1を投稿した時点で被告が被害者遺族の心情を傷つけることを目的としていたことを示す間接事実たりえるものではない。あえて被害者遺族の心情を傷つけることを目的としてツイートを投稿する合理的な理由がない。
⑧・被告は、「原告の犯罪被害者としての立場や心情にいろいろ気を遣ったり心配したり」していたからこそ、本件投稿1を投稿したことに関して謝罪をしたいと考えていたのである。しかし、「原告の犯罪被害者としての立場や心情」に全面的に配慮しなければ「原告の犯罪被害者としての立場や心情」に一切配慮しなかったことになるというものではない。
⑨・東京高裁当局が原告らに対してどのような説明をしていたのかは不知、その余は否認する。被告としては、謝罪し、誤解を解きたい旨を東京高裁当局には伝えていた。
⑩・被告は、本件投稿3を投稿した後、友達限定になっていなかったことを知り、本件被害者遺族が被告のフェイスブックページを見ている可能性に思い至り、本件被害者遺族に直接メッセージを送る方法として、甲第21号証のメッセージを投稿したものである。以上のような理由で上記メッセージを投稿している以上、今更「友達限定だと誤解していた」という話をするのではなく、「洗脳されている」という表現は使用すべきものでなかったことを認めて謝罪しつつ、何故執拗に被告のみを攻撃し続けるのかについて教えてほしいとのメッセージを投稿するのは不合理な行動とはいえない。したがって、甲第21号証の投稿をしたことをもって、被告が本件投稿3を友達限定で投稿したつもりでいたとの被告の主張を事実に反するものとするのは、経験則に反している。また、被告が本件投稿3を投稿したのが令和元年11月12日頃である以上、平成30年3月29日頃に投稿された甲第10号証の記載をもって本件投稿3投稿時の被告の意図を推し量ることは不当である。
なお、本件投稿3は、原告らを侮辱するものでもないし、その名誉を棄損するものでもない。また、本件投稿3について友達限定の発信のつもりであったと本件訴訟において被告が主張することは、原告らに精神的苦痛を与えるものではない。
⑪・裁判に蹴る遮蔽措置は、法務省の説明によれば、「証人が、法廷で証言する際に、被告人や傍聴人から見られていることで心理的な圧迫を受けるような場合に、その精神的な負担を軽くするため、証人と被告人や傍聴人との間についたてなどを置き、相手の視線を気にしないで証言できるようにするもの」とのことであり、強盗殺人及び強姦未遂事件の被害者を蔑む感情が日本社会にあるからではない。
そもそも、本件刑事判決との関係でいえば、被害者の氏名等は、第一審及び第二審の判決が下された直後に報道機関により報道されているところ、それにもかかわらず被害者を蔑む感情が社会に生じていないのである。
また、本県投稿1が被害者を揶揄するものでないことは既に述べたとおりである。
⑫・自分を殺害した被告人の性癖は被害者自身の人格に関する情報ではなく、被害者の社会的評価に影響を与えるものではない。被害者が17歳の女性であるという点を勘案したとしても、加害者の性癖が、「一般人を基準とした場合に公開を望まない」ものとは考えにくい。本件刑事判決直後に、産経新聞社が、被害者の実名と共に、被告人にそのような性癖があることを公開しているが、その後特に記事データベースからの当該記事の削除等はなされていない。
⑬・本件刑事事件に関する情報のうち、もっぱら被疑者に関する情報は、反射的にも被害者に関する情報とはならない。
⑭・「一定の範囲で示されている」の内容がよくわからない。本件刑事判決を見る限り、報道されていないような詳細な犯罪被害事実は示されていない。
⑮・本件投稿1を閲覧した者が、原告らを探知し、わざわざ原告らの自宅を訪れる目的・動機というものが全く理解できない。とりわけ、本件刑事事件については、被害者の氏名が「X」であることも住所がY区にあることも、被害当時Z高校に在籍していたことも、被害当時17歳であったことも、強盗殺人及び強盗強姦未遂の被害者であったことも、被告人に特殊な性癖があったことも、主要紙で広く報道されていたにもかかわらず、それでもわざわざ原告らの自宅を訪れる者がいなかったのに、本件投稿1を閲覧した者のみが、わざわざ原告らを探知して、わざわざ原告らの自宅を訪れるという事態が、全く想像できない。
⑯・原告らは、「被告の投稿からはむしろ閲覧者の性的好奇心に訴えかけようという姿勢がある」とするが、被告の投稿のどの側面をとらえてそのような姿勢を見いだしているのかが特定されていない。
本件投稿1は、「姦淫着手時に被害者が既に死亡していた場合に強姦罪についての実行の着手が認められるか否か」に関する裁判例が出たことを主として法律専門家が集まっている被告のフォロワーに示すものであって、「閲覧者の性的好奇心に訴えかけようとする」ものではない。原告らがピックアップしている本件刑事事件に関連する被告のツイートは、基本的に本件投稿1に関連する責任問題に関するツイートであって、閲覧者の性的好奇心に訴えかけようとするものではない。したがって、被告の投稿から、閲覧者の性的好奇心に訴えかけようとする姿勢を見いだすことはおよそ困難である。
⑰・侮辱するものとなり、ひいては社会的評価を下げることとなる場合があるとの点は否認する。そのような引用の仕方というのが想定しがたい。
「通常公にしたいとは思わない事件」との点は不知。原告らは現に、マスメディア等が被害者の実名を掲げつつ事件の詳細を報ずることを容認している。
本件投稿1の本文が被害者を揶揄する形で表現されているとの点は否認する。「そんな男に無残にも殺されてしまった17歳の女性」との表現は、被害者に対する皮肉でもからかいでもないことは、文面からも明らかである。
本件投稿1の本文に「被告人が被害者の死亡直後に姦淫に着手したことはわかる記載がなく、およそ刑事上の重要論点についての判断が含まれているものと認識することはできない」との点は否認する。刑法各論を相当程度勉強した人間にとっては、被害者の死亡後に姦淫に着手した場合になお強姦罪の実行の着手があったと認められるかという論点は広く知られているので、そのような人々が「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男そんな男に無残にも殺されてしまった17歳の女性」との紹介文を見れば、上記論点のうち、当初より被害者を絞殺して強姦することを図っていた事例に関する裁判所の判断が出たのだなということを容易に想起できるものであった。被害者が死亡した後の姦淫行為の着手について強姦未遂罪が成立するのは、被害者の生存中にこれを姦淫しようとしたが、その前に死亡させてしまったので死体を姦淫したという場合に限られるのか、当初より被害者の殺害後に死体を姦淫する意思であった場合も含むのかが控訴審での争点の一つとなっており、本件刑事判決においては、「被告人が首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を有していたこと」を一つの根拠として「本件犯行の主たる目的は被害者を絞殺して強姦することにあったと認められ」るとした上で、そのような場合でも強姦の実行行為に着手したものと認められるとしたものであるから、被告人の上記性癖は、上記刑事法上の論点において、重要な意味を有している。
原告らは、「死亡後の姦淫の着手に言及しないで被告人の性癖のみをあえて誇張する投稿は揶揄したものと言わざるを得ない」とする。しかし、被告は、「被告人の性癖のみをあえて誇張する投稿」をした事実はない。「被告人が首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を有していた」との表現は、本件刑事判決に用いられていた表現そのままである。また、被告人の性癖に関する上記表現が、被害者に対する皮肉やからかいになることはあり得ないのであり、したがって、上記表現は被害者に対する揶揄となることはない。
本件刑事事件の被告人の性癖を、被告がツイートしたことにより、原告らが被害者を静謐に悼むことができなくなるというが、上記被告人がそのような性癖を有していたことは本件刑事事件の判決においても示されているし、判決直後に新聞報道されているし、当該新聞記事は今なおネット上で配信されている。そもそも、上記被告人がそのような性癖を持っていたことは被害者を貶めるものでも何でもない。したがって、上記被告人が上記性癖を有していたことが本件刑事判決で判示され判決後の報道でも広く報じられていたのになんでもなかったのに、被告による本件投稿1で上記性癖に言及されたことのみによって、原告らが被害者を静謐に悼むことができなくなるということは理解に苦しむことである。
本件投稿1は、本件刑事事件の犯罪被害者を揶揄するものではないから、一般人が行ったとしても違法ではない。
被告が本件投稿1に対してなされた被害者からの抗議に応じて本件投稿1を削除したこと、被告が本件投稿2、及び本件投稿3を行ったこと、被告が甲第10号証、11号証、12号証、15号証、17号証、19号証、21号証の投稿を行ったことは認め(ただし、甲第5号証は被告による投稿ではない)、それらが「謝罪の表明があったと聞いていた遺族の心情を逆なでする」ものであったとの点は否認する。
甲10号証は、被告が「内規に反して判決文を掲載」したかのような誤解が生じたのでそれを訂正しただけであり、甲第11号証は本件刑事事件とは全く関係のないヌーディスト地区の話であり、甲第12号証は本件刑事事件とは全く関係のない案件で被告が厳重注意されたこととのみ関係する話であるし、甲第15号証では原告らへの謝罪がなされていないことについて誤った情報が流布されているので正しい情報を提供しただけであるし、甲第17号証は、被告に対する訴追申し立てをその一年前にしたのが原告らではなかった旨の事実を告知しただけであるし、甲第19号証は本件投稿1を投稿した目的について東京高裁が原告らに正しく伝えなかったことを問題視したものである。いずれも、ご遺族の心情を逆なでする意図はなかった。
一般論として、一般人の感性を基準とした場合に受忍限度の範囲内にある表現活動について原告らが精神的苦痛を受けたとしても、不法行為は成立しない。そして、本件訴訟において問題視されている被告の投稿に関して、上記受忍限度を超えて犯罪被害者遺族に精神的苦痛を与えるようなものはない。


第三:双方の主張を読んで

この項は、双方の主張を読んでの感想である。
まず、原告側の主張。筆者は、その主張を読み、多くの疑問を抱かざるをえなかった。
②の主張については、まず、岡口裁判官のツイッターに性的な投稿が多いかは議論の余地がある。最高裁の決定をもって事足れりとすべきものではない。仮に、性的な投稿が多かったとしても、真面目な投稿も行うアカウントだったのであり、どのような内容であったかは投稿内容によって決定されるべきであるはずだ。投稿1については、事件内容を説明しているだけであり、内容に揶揄はない。また、投稿1のどのような点をもって「性的好奇心をあおる内容」であるのか不明であり、投稿1によって不特定多数の好奇の目に晒されるようになった証明は、何らなされていない。
③の主張について。投稿1~3を一連の行動とみるのは、時間的にも離れており、内容を異にするものでもあり、無理があると考える。それは、民事裁判控訴審でさえ認定している。
⑤の主張について。投稿1は揶揄などを含んでおらず、通常人を傷つけるような内容ではない。本件についての発信というが、自らの主張を行っただけであり、およそ人を傷つけるような内容ではない。「削除要請があった」という説明は、別段原告を侮辱する内容ではないし、投稿1についてそのように要約したとしても、不当とは言えない。岡口裁判官は、通常人を傷つける言動を行っておらず、「遺族の感情を傷つけるのは本意ではなかった」という主張に対しての反論にはなっていない。
⑥の主張について。岡口裁判官の言動について、重箱の隅をつつくような指摘をしているとしか思えない。
⑦について、東京高裁が、岡口裁判官の気持ちを伝えなかったことは、大いにあり得る話ではないかと思う。
⑧について。命日を狙いすまして投稿したことは何ら証明されていないし、悪意をもって投稿した人間が謝罪文をわざわざ投稿するとは思えない。友達限定での投稿を間違えて公開した、という主張についての反証にもなっていないのではないか。そもそも、「東京高裁事務局や毎日新聞に洗脳された」というのは、東京高裁事務局や毎日新聞に対してはともかく、遺族への侮辱になるのか。
⑨について、繰り返しになるが、投稿1は揶揄、性的好奇心に訴える内容ではない。投稿1の判決文は、被害者や遺族の住所は伏せられており、不審者が遺族の住居を訪れる可能性は、極めて乏しい。抽象的な可能性を述べているに過ぎないと思える。加害者についての情報まで被害者のプライバシーというのであれば、判決文の公表など一切できなくなるではないか。また、日本に強姦、強盗殺人の被害者を蔑むがごとき感情が蔓延し、遺族の自宅をわざわざ訪れる人間がいる、というのは、一般国民を馬鹿にした話ではないかと思う。
⑩について、当紘一のような判決文紹介ツイートを、一般人が行ったとしても違法とは、恐ろしくてツイッターの使用などできないのではないか。
そして、違和感を抱いたのは、岡口裁判官の主張に対する反応である。単に主張を行うだけでも、深く傷ついた、誠実な対応がない、精神的苦痛、等と言われてしまう。それでは、何ら主張を行うことなどできはしない。岡口裁判官側は、何ら侮辱的な発言はしておらず、むしろ配慮を重ねているように感じた。提訴されるや否や、恐れ入ったと這いつくばって謝罪し、遺族の請求を全てのまねばならないのか。

岡口裁判官側の反論は、特段侮辱的ではない、妥当な内容であるように感じられた。
準備書面でのやり取りは、まだ続いていく。


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