トキがかける川越の感想を真面目に書いてみた

2017年1月から6月まで開催された、エンターテイメント団体Coochさん主催の、街歩き形式の体験型演劇リアルシネマ体感ライフ第2弾「トキがかける川越(http://www.taikanlife.com/)」に出演してきた。主に、おじいちゃんっこな博士役。オーディションの時点から様々な出会いと様々な学びがあった。がしかし、ここは参加者視点の感想の場。前回は参加者として2回チャレンジした「渋谷大爆破」との比較を含めつつ、参加者的な感想を真面目に書く。でも楽しかったから、最後に出演した感想もちょっと書く。

定番の乱筆について謝罪しつつ、今回も言いたい放題。その点はいつも通りご容赦を。あとはネタバレもあるよ!

前提の話。

参加者自身が映画の主人公のように、参加者が登場人物とのやり取りの中で物語を掴み取っていくのが、このリアシネの特徴である。とにかく前作「渋谷大爆破」のスタート直後に出会うホームレス(前田美香さん)との会話で、一気に「あ、茶番やない。これは、ガチや。」と緊張感が高められたのが懐かしい。そもそもリアルシネマ体感ライフ(リアシネ)が体感型のイベントなのか演劇なのかと時々考えていたが、個人的に演劇だと考えている。変な言い方かもしれないが、イベントと称する場合に求められるキャストのレベルよりも、演劇役者として求められるレベルの方が強かった印象だからである。
また、リアシネの特徴といえば、分岐がどこだか分からない、分岐であろう時点の選択肢が定性的というのも、大きな特徴に思える。とにかく分岐ものは未だ多くが「A or B」の提示になっている(その理由は後述)が、リアシネの場合は兎に角なにがトリガーで分岐したか分からない。それが自分の意思で状況が変わっていると実感できるかできないかは、参加者の個人差が出ると思われるが、物語都合で行動を制限されることがないという点では他の体験型演劇とは一線を画している。

「大爆破」との違い。

思い出せばリアシネ第1弾「渋谷大爆破(以降「大爆破」)」は、上記に示したリアシネの特徴に対する評価が高かった。他方で、主に3点の指摘を受けていた記憶である。

1点目は、参加者の立場の難しさ。参加者はこの物語において志を持ったテロリストという設定だったが、渋谷を爆破してやる!という志を持つまで時間がかかる/難しいために、テロリストになりきる事が出来なかったという声である。正義感で行動をしたり(探偵になる、問題を暴く等)、安直な目標に向う行動をしたり(泥棒をする、恋愛をする等)することは参加者自身の感情や原動力として理解しやすいが…。
2点目は、トゥルーエンドの想定の難しさ。謎解きではないので「何をしたら正解!」というのはないが、1点目の難しさも手伝ってか、物語のハッピーエンドが何であるかが不明確である。その為、たぶん分岐だろうという場所で「こっちか!?」と思って行動した結果が、思っていたのと違う結果になったぞ、という。この点は3点目にも関わって・・・。
3点目は、攻略の難しさ。1回目の参加が終わるとエンディングがトゥルーかそうでないかが分かるだけで、攻略方法や分岐がどこだったのかという提示がない。そのため、2回目に来ても攻略のすべがなく、分岐は運任せになってしまう。攻略できないならば3回目もいくかどうか…。

今作「トキがかける川越(以降「トキカケ」)」ではどうなっていたか。トキカケと大爆破の違いから見ていく。

トキカケと大爆破の違い・・・最も大きいことは、ストーリーが違うということだろう(別の公演だから当然といえば当然だが)。大爆破における参加者はテロリストという非日常的な立場だったが、トキカケでは参加者のありのままが物語の立場になっていた。そのため、物語の導入時点から立場を受け入れがたいという、大爆破の1点目の指摘点は今回クリアしていた。しかし、トキとの出会い後、巾着袋を返しに行くのに参加者自身がタイムトラベルしなければならないということが、1回目の参加の人に伝わりにくかったようだ。その結果、博士と小説家のいずれかから「君らはタイムトラベルをしなければ返せないのだ」という説明を受けることになる。実際は参加者自身が博士か小説家のところへ行く時点で気付いているのがベストだったはずなので、参加者が目的を飲み込む方法が今後の改善点かもしれない。だが、とにかく「またトキに会いたい!」という参加者自身の意思で物語を進められるのは、楽しかった。
そして、立場が分かりやすければ物語が分かりやすく、物語が分かりやすければエンドのシチュエーションも分かりやすいので、トキカケは大爆破に比べて「あそこで間違えたか~/足りなかったか~」という反省ができた。因みに大爆破と比べて、トキカケは分岐がとても多い。そしてなんとなく、こうすれば分岐するのかということも分かりやすい(ブラフが少ないからね)。とはいえ、登場人物の定性的な判断で分岐が変わるため、実際に反省した点を頑張っていたら行きたかったエンドに行けたかは定かでない。大爆破の指摘点の2点目は、半分クリアといったところか。
最後に3点目だが、こればかりは今回も攻略ができるような仕組みになっていなかった。トキカケはそもそも分岐が多いので、参加を2回してもすべての分岐を回りきらない(そのことは2回行ってみて明らかな分岐だけでも整理すると気づく)。それでも「他の分岐にも行きたい!」といって私の友人が1人、3回参加した。それ以外の友人はノーマルエンドが悔しくて、トゥルーエンドのために2回参加というパターンが多かった。要するに、分岐が明確ではないので攻略が不能=下手したら1回目とあまり変わらない物語になってしまってうから2回目は行きたいかも、という気持ちにならないのである。このことがとても勿体無いという声は私自身もあるし、周囲から多く聞こえるので、分岐すべてを公開するということではなく、せめて攻略方法が見れる仕組みがあるといいなと思った(例えば。2回目以降の参加では、最初に分岐箇所のヒントだけ書いてある攻略カードを裏返しの中から1枚引けるとか)。

トキカケ特有の話。

先にも書いたけど、今作は参加者自身の意思で物語の展開が変わる感じは、感情移入をできた人にとって至極楽しい作品になっていたと思う。後は川越というロケーションも良かった。場所×物語の設定から、浴衣や着物で参加する参加者が居たことも頷ける。そして今作は分岐が多い分、出会える登場人物も多く、その性格は多彩だった。参加した日によって登場人物・・・の役を演じている人だが・・・の様子が違うことも、面白みの一つだっただろう。
指摘点はまず、渋谷と違って巡る場所の”幅”が狭いために、移動中の参加者が別の物語線の登場人物/ポイントに偶然遭遇してしまうことである。ポイントの巡り方は明示的に指定していないことも要因だが、これは土地の問題な気がするので公演場所によって解消するだろう。また、川越の街を楽しんでもらう形式は否定できないが、時間を忘れて楽しんだために登場人物に途中で急かされるのも残念な気がするので、大爆破のように元からある程度時間の制約がある雰囲気は設けても良かったのではないかと思った。あと、指摘点とは違うが、私個人は恋愛物語という特性上シングルライダー(お1人参加)をおすすめしていた。冬場は割引があったためか1人参加が多かった印象だったが、1~2人の少人数で来るメリットがもう少し長い期間あればよかったのになぁと感じた。

出演した感想。

本当に楽しかった。大変だったけど楽しかった。それに尽きる。

イベントキャストを長くしてきているが、脚本を程々ガッツリ覚えて臨む経験は多分これで2回目である。しかし、ここまで参加者の自由さと物語の制約のギャップが発生する可能性があり、その時々で内容や態度を変えて会話しなければならないことは初めてだった(台詞と対応が1:9~3:7が殆ど。今回は個人的感覚で5:5~6:4くらい)。これに雨などの天候問題、冬場と夏場の気温問題が加わり、正直大変だった。でも、参加者とのやり取りの楽しさが、大変さを超えた。色々な参加者がきたので面白かった。博士役の時にはドン引きされたり、例の台詞を繰り返し言わされたり、「その研究成果出たらまた連絡してください」とか「応援してます!!」とか言われたり、嫁を地面に落として「嫁ーーーーー!」って一緒になったり(笑)。友人役の時は、目の前で手を握りながら泣かれたり。反省する瞬間や参加者が怖くて怖気づく瞬間もあったが、人の喜怒哀楽を見ることがそもそも好きなので、その様をゼロ距離で見ることができたので出演できてよかったなぁと思っている(参加していただいた皆様、ありがとうございました。またCooch運営陣様、この度は大変お世話になりました)。
そして、川越の人たちにもたくさん支えてもらった。他の登場人物からも聞きましたが、とにかくご協力いただいている川越の方々が優しく。私の場合は博士の居た場所の真向かいの八百屋さんによくしてもらってた。ついでにその八百屋の息子さんがシャーロキアンだった(どうなったかはご想像にお任せします)。友人役の時には芋屋さんにとても良くしてもらった。ご協力をいただく前提でCoochさんからお声がけをした店舗以外の方にもご理解をいただいて、半年という長い期間公演ができたのも街の人のお陰だなぁと感じた(川越の皆様、ありがとうございました)。
・・・・・・苦言を呈するなら。是非、Coochさんは運営メンバーを増やしていただいた方がいいのではということである。当日の運営だけでなく出演者の整備なども、団体として大変忙しい時も団体内の人員で裁いていたので・・・多分、これだけ良いイベントであれば、運営を手伝ってくれる方はいるのではと思っている。

街歩き系の体験型演劇(あるいはイベント)が増えつつあるが、規模と仕組みで考えると、リアシネと比較できる団体は今いないと考えている。次回も考えているそうで、その開始がいつになるか分からないが、とても楽しみだ。

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