変身か、躍進か タイトル挑戦2度の実力者・富岡に、ビジネスと二刀流の豪腕・藤田が挑む! 2021年10月30日
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変身か、躍進か タイトル挑戦2度の実力者・富岡に、ビジネスと二刀流の豪腕・藤田が挑む! 2021年10月30日

◇63.0kg契約ウェイト8回戦
 日本ライト級7位
 富岡樹(角海老宝石) 12戦7勝(2KO)4敗1分
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 藤田裕崇(三迫) 8戦7勝(6KO)1敗

 長身を生かしたアウトボクシングでチャンピオン級と渡り合い、玄人をうならせてきた富岡と、豪快なノックアウトでファンを沸かせてきた藤田。両者のスタイルを短く表現するならそういうことなのだが、今回ばかりは過去のイメージに引きずられるとちょっと見誤るのかもしれない。理由は明快だ。

 富岡樹、洪東植トレーナーの門下に入る――。

ジプシーのごとくジムを渡り歩き、その場、その場で好選手を育ててきた名伯楽、洪トレーナーはファイター作りの名手として知られる。富岡は今年2月、REBOOT.IBAジムから角海老宝石ジムに移籍。その心はズバリ、洪トレーナーの指導を受けたかったからである。

「今まで僕にファイターをやれと言うトレーナーはいなかったんです。みんなジャブを突いて足を使って距離を取れって言う。でも洪さんは僕にも『ガードを上げて下がるな』。面白いと思いました。出稽古によく来て人柄も知っていたので、けっこう前から洪さんに教えてもらいたかったんです」

 それにしてもジムの移籍はデリケートなテーマだ。富岡はすんなり移籍できたのだろうか?

「移籍ってすごく大変って聞いていたのでめっちゃドキドキしてたんですけど、射場会長が快く送り出してくれました。土曜日に話をして月曜日には移籍完了。周りから『バイトの面接かよ』って突っ込まれたくらいです(笑)」

 もともと祖父がボクサーという家系。親の代でボクシングをした者はいなかったが、その血は孫たちが受け継いだ。正月に親戚で集まれば、富岡家の子どもたちは畳の部屋でヘッドギアなし、鼻血出しまくりのスパーリング大会。やがて従兄弟たちがボクシングを始め、富岡も気がつけば小学校5年生でグローブを握っていた。

 中学、高校とボクシングを続け、高校ではインターハイに出場したものの上位に進出したわけではない。それでも高校卒業後は1年の準備期間をへて迷わずプロの世界に飛び込んだ。

「どのチャンピオンに憧れたとかはないんですよ。ただ、トランクスやガウンがキラキラしていたり、ヒラヒラしてたりするのがかっこ良くて。そういうのに憧れてプロボクサーになりました」

 プロのリングではデビュー戦からジャブとフットワークを生かしたスタイリッシュなボクシングで白星を重ねた。7戦目で世界ランカーでもある東洋太平洋ライト級王者の中谷正義(現帝拳)に挑戦して善戦したものの11回TKO負け。2度目のタイトルアタックとなった20年2月の日本タイトルマッチでは、王者の吉野修一郎(三迫)からダウンを奪いながらも8回に眼窩底骨折を患いTKOで敗れた。

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 4敗はいずれもチャンピオンかチャンピオン級の選手。本人は「声をかけてもらえたので、それはやりますよね」と涼しい顔だが、キャリア12戦にしてこれほど骨太な相手と拳を交える選手はなかなかいない。

 今回の試合は20年12月、スーパー・ライト級で日本とWBOアジアパシフィック王座を獲得した岡田博喜(角海老宝石)に敗れて以来の再起戦だ。対戦相手となる藤田のことを聞いてみると、「前のジムでは対戦相手のことを気にしたんですけど、角海老に来て練習はきついし、やらなくちゃいけないことが多くて自分のことで精一杯です」との答え。洪トレーナーのボクシングを体に染みこませることで頭がいっぱいなのだろう。

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 ジムを移籍してからは手を着けていなかったフィジカルトレーニングにも取り組み、この9ヶ月間で自らの成長を強く実感している。ボクシングジムのトレーナーと車検関係のバイトをしながらチャンピオンを目指す24歳は「以前の僕を知っている人に『全然違うじゃん!』と思わせる自信はめっちゃあります」と満面の笑み。自分への大きな期待を胸にリングに上がる。

 そんな富岡に挑むのが国内外でさまざまな事業を展開する大企業、リクルート勤務という肩書きを持つ26歳の藤田だ。こちらも本人の希望で今回から椎野大輝トレーナーとタッグを組むようになった。新たな出発という点では移籍してトレーナーの代わった富岡に似ている。

 アウトボクサーにファイターの要素を取り入れようという富岡に対し、藤田は持ち味である強打を全面に押し出したアグレッシブなスタイルを身上としている。今回の試合を前に「90%の人が富岡選手の勝ちを予想しているかもしれませんが、僕は勝って当たり前というくらいのところまでやっています」と言うから気も強い。

 その藤田がボクシングを始めたのは早稲田大学に入ってからだ。ボクシング部で4年間汗を流したが、さすがに高校からバリバリやっていた選手を超えることはできず、大学では7勝3敗という戦績を残したのみ。ちなみに同期の岩田翔吉(帝拳)、井上稜介(one two sports)もプロ入りしており、3人しかいなかった同期が全員プロというのは珍しい。

 アマチュアでの実績だけ見れば、第三者は「大学卒業とともにボクシングともお別れ」と考えることだろう。ところがここで藤田がプロボクサーを選択、新たな物語が始まるのだから面白い。最初はボクシングだけで食べていこうと考えたが、「少なくとも自分の生活は自分で責任を持とう」と考えてリクルートに就職。面接で「仕事をしながらプロボクサーをやります」と堂々と言ってのけた。

 会社では不動産情報サイトSUMO(スーモ)の営業担当となった。ただし、仕事は面白いとは到底思えず、すぐに辞めたいと思うほどだった。プロボクシングのリングに上がりながら迎えた社会人2年目、悩んだ末にチャンピオンと自分を比較してみようと思い立つ。デビューから4連続KO勝ちをマークし、新人王戦を駆け上がっていたころの話だ。

 当時の日本スーパー・ライト級チャンピオンは細川バレンタイン。ボクシングと並行して銀行員としてバリバリ働いていることでも知られていた。伝手を頼ってLINEをゲットし、「仕事を辞めようと思っています」と思い切って伝えた。その答えは…。

「普通に働きながら全日本新人王も取れないようじゃこの競技でトップに立てないよ。そうバッサリ言われたんです。いや、正直にめちゃくちゃむかつきました(笑)。でも、その言葉をもらって、自分はまだがんばれるな、もっとがんばろうと思ったんです。面白いもので覚悟が決まると、仕事でも結果が出て、周りの人たちも背中を押してくれるようになりました。今ではそんな同僚に甘えることもあります」

 覚悟を決めてボクシングにも仕事にも励むようになると、会社の上司から「藤田くんは顔つきが変わった。ボクサーとしてではなく、ビジネスマンとして変わった」と言われるようになった。営業の仕事だから接待もある。そんなときは練習が終わってから接待に顔を出し、お酒には手を着けずにお茶を飲んだ。そんな藤田をお客さんは温かく迎えてくれた。

「練習を終えてから遅れて接待に行くと、『なんだ、遅れてきたのか』ではなく、むしろ『練習のあとにわざわざ顔を出してくれてありがとう』と反応してくださる方が多かったです。お酒を飲まないのも、逆に『さすがプロボクサー、徹底してるね~』みたいな。ほんとにいいお客さまばかりです」

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2019年の全日本新人王決定戦では逆転TKO負けで涙をのむことになったが、翌年の東京転勤に合わせて愛知県の名古屋大橋ジムから三迫ジムに移籍。デビューから7試合、計量前日と計量日に半日休、試合の日は休んで翌日が平日なら必ず出勤というペースを崩していない。

 なぜ、それほどまでにボクシングをがんばるのか? 藤田の答えはストレートだ。

「ボクシングはもちろん好きなんですけど、ボクシングをやっている自分が好きですね。ボクシングって本気度が、質が違うと思うんです。ボクシング以上のものを僕は見つけられません。中途半端が通用しないシンプルな競技じゃないですか。そのシンプルな競技に全身全霊をかけている自分が好きなんです」

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 高いKO率を誇りながらノックアウトにこだわりはまったくないという。大事なことは絶対に勝つこと。新人王で負けて以来、もう2度と負けないと心に誓っている。そして藤田がリングで力を発揮するならば、結果的にエキサイティングなノックアウトが待っているに違いない。

<渋谷淳>

●ライブ配信情報
 ▷独占ライブ配信:10月30日(土)17時45分~試合終了時刻まで
 ▷アーカイブ期間:11月2日(火)23時59分まで
 ▷視 聴 料 金:3,000円(税込)一般チケット
 ▷特 別 解 説:京口 紘人 (WBA世界ライトフライ級王者)
          赤穂 亮 (元東洋太平洋・日本王者) 
 ▶販売サイトはこちら


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