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【日野僚】 満を持して2度目のタイトルアタック「挑戦者なので攻め続けます」 2021年11月27日

◇日本フェザー級タイトルマッチ10回戦
 王者 丸田陽七太(森岡) 13戦11勝(9KO)1敗1分
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 挑戦者7位 日野僚(川崎新田) 18戦14勝(9KO)2敗2分

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2019年12月、日本フェザー級王者の佐川遼(三迫)に挑戦して以来、2度目のタイトルマッチが日野のもとに巡ってきた。復帰戦を1試合挟んで再びチャンスをつかんだサウスポーは「こんなに早く来るとは。キターッ!という感じですね」と明るい表情で答えた。

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世界ランキングも保持する佐川とのタイトルマッチは日野の良さと悪さがはっきりと出た試合だった。良かったのは前半戦だ。独特のリズムで距離の長い左ストレート、コンパクトな右フックを打ち込み、守っては懐の深さをいかして佐川に思うようなアタックをさせなかった。前半を終わってのスコアは49-46、48-47で佐川、48-47で日野。「王座交代もあり得る」と感じさせる戦いぶりだった。

ところがここからが勝負という6ラウンド以降、日野は佐川のパワーとスタミナに押し込まれてあえなく失速してしまう。後半は逆転するどころかラウンドを重ねるごとに突き放され、97-93×2、98-92のスコアで敗れた。

「負けたらこれで最後にしよう。佐川選手との試合前はそう思っていたんです。でも悔いが残った。全然やりきれていなかった。あの試合前、スパーリングは最長で5ラウンドなんです。十分な練習が積めていませんでした。ここで辞めてしまったら情けない。そう思って再起することにしました」

 あろうことか初のタイトルマッチで納得のいく準備をすることができなかった。けがもあったが、大きな理由はプライベートにあった。言い訳をするつもりはない。だが、日野の話によると次のような環境の変化があったという。

 試合から遡ること半年前、日野はKANTOモータースクールという自動車教習所の会社に就職した。それまではパチンコ店の店員、スポーツ用品店の店員などいろいろなアルバイトをしていたが、アルバイトで生計を立てる生活に限界を感じていた。正社員でかつボクシングも続けられる仕事を。そんな条件で職探しをしていたところ、スポーツ選手をアスリート枠として採用する会社を見つけた。それがKANTOモータースクールだった。

 入社して間もないころにタイトルマッチの話が舞い込んできた。もちろん断らなかった。でも、「マジか!?」と思ったのも事実だった。

「自分の仕事は指定自動車教習所指導員と言うんですけど、国家試験を受けて合格しないとなれません。2019年6月に入社して、まず3ヶ月は国家試験に受かるための研修と勉強をします。これがけっこう大変でした。9月に試験を受けて合格したんですけど、そこからド新人としてスタートです。で、試合が12月。入社して以降の毎日がいっぱい、いっぱいでメンタルはかなりやられていました。人の命もかかっている仕事なんで緊張感もあります。ボクシングと仕事がまったく両立できていませんでした」

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 これが佐川戦で「悔いが残った」理由だ。あれから2年、今では教習所の仕事にも慣れ、仕事とボクシングを両立できるようなった。残業はなく、有給休暇もあり、ボクシングの練習時間をしっかり取れるようになった。収入も安定し、気持ちの面でだいぶ楽になった。

 自分のボクシングを見つめ直し、何はさておき体力が課題だと考えた。佐川戦の反省である。ロードワークはもちろん、ジムでは負荷の高いハードワークで連日追い込んだ。前回、最長5ラウンドに終わったスパーリングも、今回は10ラウンドの通しを何回もこなした。「はっきり言って自信ありです」。日野の表情はすこぶる明るい。

 大きな変化がもう一つある。デビュー当時からコンビを組んでいた孫創基トレーナーが4月に独立、新たに笠康次郎トレーナーの指導を受けるようになったことだ。2人のトレーナーの指導方法はかなり違う。孫トレーナーはあまり細かい技術指導はせず、基本は「お前の好きにやればいい」というスタンスだった。これに対して笠トレーナーは技術的なことを細かく教えるタイプだという。どちらがいいという話ではない。ただ、日野が日々新鮮な気持ちでトレーニングと向き合っているのは間違いない。

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「最初に笠トレーナーにミットを持ってもらったとき、まったく合わなかったんです。相性の問題じゃなくて、基本がけっこうできてなかった。そう気がつきました。笠トレーナーからはパンチの打ち方を含めて技術的なことをたくさん教わっています。追い込みの練習もよく見てくれます。トレーナーが代わって最初の試合がタイトルマッチ。逆にチャンスだと思ってます」

 帝京大学4年生の秋に川崎新田ジムに入門。自宅から大学までバイク通学する道のりのちょうど真ん中にジムがあった。それだけの理由だった。プロになるつもりもなかった。それなのに「今しかできないことをやろう」とプロ入りを決意するまで半年もかからなかった。就職が内定していた不動産会社に断りを入れ、大学を卒業した年の10月にプロデビュー。両親には反対されなかった。9歳離れた兄の浩太郎さんもプロのリングに上がった経験があったからかもしれない。

 こうしてプロになり、日本タイトルマッチのリングにまで上がったのだ。内定を蹴ってプロボクサーに舵を切った選択はきっと正しかった。そう問いかけると日野は笑いながらこう答えた。

「正しかったって言えるのはチャンピオンになってからじゃないですか。僕がいきなりプロボクサーになって、周りのみんなは驚いてたんですよ。その人たちが今でも応援に来てくれています。丸田選手は強いとは思いますけど、評価の高い選手と試合ができるのはうれしいですね。今回は10ラウンド戦う準備ができています。挑戦者なんでずっと攻めるつもりですよ」

 万全の準備を整えたチャレンジャーのハートに決して小さくはない自信が宿る。個性派のサウスポーは真価の問われる2度目のタイトルマッチを今か今かと待ちわびている。

<渋谷淳>

●ライブ配信情報
 ▷独占ライブ配信:11月27日(土)17時45分~試合終了時刻まで
 ▷アーカイブ期間:11月30日(火)23時59分まで
 ▷視 聴 料 金:3,000円(税込)一般チケット 
 ▶販売サイトはこちら

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