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【中川健太】37歳の今、自分が感じている可能性を感じてもらえる試合にダイヤモンドグローブ・インタビュー 2022年8月9日

◇日本スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦
 王者 中川健太(三迫) 26戦21勝(12KO)4敗1分
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 1位 梶颯(帝拳) 16戦15勝(9KO)1敗

 経験豊かな王者に若き挑戦者が挑む――。8月9日、東京・後楽園ホールで開催される『ダイヤモンドグローブ』のメインイベントで行われるのは、日本スーパーフライ級タイトルマッチ。中川健太(三迫)が通算3度目の同王座の初防衛戦を迎える。今年4月、大阪で元同級王者でもある久髙寛之(仲里=引退)と空位の王座を争い、6回に右アッパーで鮮やかに倒すなど、大差をつける判定勝ちで1年4ヵ月ぶりにベルトを奪還した。

 試合の2日前、中川は37歳になる。久髙とは、ともに1985年生まれの“同級生ベテラン対決”だったが、中川がプロデビューした2004年の全日本新人王でもあり、約20年のキャリアで計4度も世界に挑むなど、偉大な足跡を残してきた。そんな久髙とのサバイバルを勝ち抜き、「1度目より2度目、2度目よりは3度目、強いチャンピオンになっていると思う」と自信を示す。

対する梶颯(帝拳)は、試合の翌日に25歳の誕生日を迎える指名挑戦者。これが2戦連続、2度目のタイトルアタックになる。昨年10月、当時の日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王者、スーパーフライ級の3冠王座を独占していた福永亮次(角海老宝石)に挑戦し、僅差0-2の判定で敗れた。幼い頃から空手、さらにキックボクシングを経て、17歳のプロデビューから継続してきた無傷の連勝は15でストップしたが、続けて巡ってきたチャンスに臨む決意は言わずもがなだろう。

王者は言う。「福永選手をものさしに考えれば、『中川、危ないんじゃないか』と言われるのは当然、分かる」。大激闘の末、10回TKOで敗れ、2度目の王座を奪われたのが一昨年の12月、サウスポーの王者同士、3冠を懸けた福永戦だった。それでも「今の自分は、あのときの自分じゃない」と言葉に力を込める。ちょうど一回り年齢の若い梶より、「自分のほうが成長している」という中川に3度目の初防衛戦に懸ける思いを聞いた。

まだまだ大きく変われる

――4月に大阪で久髙選手に勝って、ベルトを取り戻した試合について、映像でも振り返っていると思いますが、自分ではどう評価していますか。

中川 まだ少しですけどね、練習してきたことを出した上で勝てた試合だったので、よかったと思います。

――まだ少し出せたというぐらい?

中川 そうですね。まだまだ。もっとできたなと思うし、これからもっと成長できると思えた試合だったので。

2022年4月23日日本Sフライ級 王座決定戦10R VS 久高 寛之(仲里)

――今年で37歳の同い年同士で、お互いに負けられない試合でもありました。

中川 ほんとに勝ったほうが生き残るっていう試合だったので、普通にホッとしたのと、久髙選手に勝てたことが嬉しかったですね。ずっと昔から見ていて、憧れていた選手でもあったので。

――「雲の上の存在」とも言っていました。

中川 昔はそうでしたね。そういう選手に勝てたのは大きかったです。

――3度目のベルトは、1度目、2度目と意味が違うところもあるのではないですか。

中川 うーん……。よく言われるんですけど、まあ、3度目だからっていうのは特にないですかね。何回獲っても嬉しいものですよ(笑)。ただ、この歳で自信を持って現役を続けるためには大事ものだと思っていますし、1度目より2度目、2度目よりは3度目、強いチャンピオンになっていると思います。

――これからもっと成長できると思えた試合ということでしたが、昨年暮れに椎野(大輝)トレーナーと組んでから久髙戦が初めての試合で、試合後に練習が終わるのが寂しかった、もっともっと教えてもらいたかった、と言っていたのが印象的でした。

中川 まだまだ大きく変われるんじゃないかって、自分に可能性を感じたんで。試合前に。だから、もっともっと時間が欲しい、というのがあって。そうなると結果が必要になるじゃないですか。そういう意味でのプレッシャーはすごくありました。

――長くやってきて、年齢も重ねてくると、ちょっとしたことが変わるだけでも大きいと思うんですが。

中川 大きいですね。うん。

――それが大きく変われるんじゃないか、と思えるぐらいの可能性を感じた。

中川 ほんとに若い選手がガラッと飛躍するぐらいの可能性を僕は今、感じているんですよ。だからこそ、楽しいですね。毎日が。

――どういうところが変わってきたというか、可能性を感じているところですか。

中川 単純なことなんですけど、本格的にフィジカルトレーニングを始めて、すごく変わりましたね。なんだろ。昔だったら、しんどかった動きが、ラクにできるようになったり、前までは苦労していた動きが、スムーズにできるようになったり。もっと早くやっておけばよかったな、と思って(笑)。

――いつ頃から始めたんですか。

中川 半年ぐらい前からですかね……。あ、違うか、11月の(福永戦からの)再起戦の前なんで、8ヵ月ぐらい前ですか。

――誰かに付いて?

中川 今は椎野さんにパーソナルで見てもらっているんですけど。

――始めたときは?

中川 加藤(健太トレーナー)さんが合同でやっているフィジカルに参加するようになったのが最初ですね。で、それとはまた別に椎野さんにマンツーマンで見てもらっていて、ボクシングとの連動性を意識して、動きにつながるものと、腕立てとか懸垂とか、普通の筋トレを組み合わせたもので、すごくキツイので、メンタルトレーニングにもなってますね(笑)。

――中川選手の練習を見ていて、以前と比べて下半身の安定感が増したな、と感じるんですが、それもフィジカルトレーニングの効果ですか。

中川 ああ、それは嬉しいですね。自分でも感じていることで、それは明らかにありますね。それが結構、デカくて。

――下がしっかりしてくると、いろいろな動きができますよね。

中川 はい。まさにそうですね。そこが大きいんですよ。でも、もっともっと伸びると思うし、まだまだよくなると思うんで。だからこそ、時間が欲しいんですよね。

絶対に世代交代はさせない

――梶選手については、どう見ていますか。

中川 若くて、ホープで、身体能力が高くて、難しい相手だと思うんですけど、前回が王座決定戦で、それも僕が負けた相手(福永)が返上したベルトだったので、今回、勝ってこそ、中川はまだ健在だって示せると思うので、申し分のない相手だなと思いますね。

――梶選手は前回、福永選手とのタイトルマッチを経験して、採点上も競った試合をしました。

中川 結果が逆になっていてもおかしくない試合でしたよね。

――そういう試合を落としての今回だから。

中川 もちろん、気合いも違うと思うし、若いので、あれからの成長もあると思うんですけど、それを上回るだけの自信はあるんで。福永選手をものさしに考えれば、「中川、危ないんじゃないか」と言われるのは当然、分かるんですよ。でも、今の自分は、あのときの自分じゃないし、一回り若い梶選手より、自分のほうが成長していると思っているんで。だから、自信はありますね。

――それぐらい練習の手応えが大きい。

中川 大きいですね。

――で、これは、まったく気にしていない、と言われるだろうと思っていて、あえて聞くんですけど(笑)、帝拳ジムの選手とは3度目になるじゃないですか。過去2敗していて(プロ2戦目でのちの日本スーパーバンタム級王者・石本康隆、6年のブランクを経たカムバック初戦となる4戦目、東日本新人王準決勝で蔦野哲平にいずれも判定負け)、意識はしますか。

中川 ああ、ありますよ。次こそっていうのは、少しは(笑)。それに2度目にチャンピオンになったとき、梶選手を意識していたところがあったんですよ。当時、まだ無敗だったじゃないですか。福永戦をクリアしたら、自分が初黒星をつけてやるっていう気持ちがあったんですけどね。

――どんな試合をイメージしていますか。

中川 基本的には打たせずに打つ。で、最後は気持ちで負けない。そこですね。どんなに相手が強いパンチを打ってきても打ち返す。仮にダウンしても絶対に立ち上がって、また打ち返す。試合後に手を上げているのは自分っていう強いメンタルですね、最後は。ただ、気持ちだけじゃ勝てないんで、やっぱり技術と両方が大事になると思いますけど。

――厳しい試合になる、と。

中川 それは間違いなくあると思うんで。

――もちろん、椎野トレーナーと梶対策もしっかり。

中川 やってます。そこも頼りになるんで。前回の試合でも椎野さんが試合前に言っていたことをやったら、そのまんまの展開になったんで。自分の1歳年下ですけど、ああ見えて、すごいんですよ、彼(笑)。

椎野大輝トレーナーと

――それから久髙選手との試合後、これまでの2度はベルトを獲られたから、3度目は自分からベルトを返せるように、と。

中川 そうですね。だから、ここで終わりじゃないよっていう気持ちですね。勝ち続けていけば、いずれ日本タイトルを返上するときが来ると思ってるんで、そこまで行けるように。

――今、練習していることを積み上げていけば。

中川 そのレベルでも戦えると僕は思っていますし、次の試合で見せられたらな、と思いますね。

――中川選手のキャリアで、どういう位置づけの試合だと捉えていますか。

中川 僕は通過点だと思っています。中川、日本レベルじゃなくなってきてるな、もう1個上のレベルでも戦えるなって、今、自分が感じている可能性をお客さんにも感じてもらえる試合にしたいですね。多分、世代交代をイメージしている人が多いんでしょうけど、絶対にさせないよっていう。

――自分が感じている可能性を証明する試合にしたい。

中川 そういうことです。今回、(現WBC世界ライトフライ級王者の寺地)拳四朗とも結構、スパーリングをやってるんですけど、別格ですよ、ほんとに強い。でも、キツイし、やられちゃうんですけど、自分が成長していることも感じられたので。

――前にスパーリングしたときと比べて、自分が変わってきているということを感じられる。

中川 はい。ただ、世界は遠いなっていうのも感じるんで、僕の中で彼の存在はほんとに大きいですね。現役の世界チャンピオンとスパーリングできるって、軽量級の特権だと思うんですよ。実際に体感できるのはデカいですね。キツイですけど(笑)。

――世界との現実的な距離感を確認できる。

中川 そうです、そうです。想像だけじゃなくて、現実を見せてくれるので。

――勘違いじゃないですけど、だいぶ近づいてきたなっていうことを修正してもくれるし、逆に想像しているよりも遠くはないということも。

中川 はい。いけるって思ってても「そんな甘くないよ」って、へし折られるし、超、手を伸ばせば、自分でも届くんじゃないかっていうのも感じられるんで。しかも拳四朗もどんどん強くなってますからね。すごいです。尊敬しますよ。楽しいですね。

――そこが三迫ジムに移籍してからずっと変わらないところですね。まだまだ成長できると感じられるし、練習が楽しくて。

中川 楽しいですよ。昔は嫌いだったんですけどね(笑)。もっともっと練習したいです。だからこそ、勝たないと。

(取材/構成 船橋真二郎)


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