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【松田恵里】目標の世界チャンピオンへ、リスタートを切る試合。「圧倒的な差を見せたい」 2022年9月1日

◇東洋太平洋女子アトム級王座決定戦8回戦

 前・東洋太平洋女子アトム級王者
 松田恵里(TEAM 10COUNT) 6戦4勝(1KO)1敗1分
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 前・日本女子アトム級王者
 長井香織(真正) 13戦6勝(2KO)4敗3分

”謎のセーブ”が働いた

「圧倒して勝たないといけないな、と思っています。やっぱり、松田は世界チャンピオンになれるって、みなさんに思ってもらいたいですし、レベルが違うな、と感じてもらえるぐらい圧倒的な差を見せたいですね」

 “圧勝”を力強く宣言した。2018年8月にプロデビュー。早くも2戦目で東洋太平洋女子アトム級王者となり、次の3戦目で日本王座も奪取。瞬く間に世界への階段を駆け上がるかと思われたサウスポーは、しかし、大きな壁に突き当たった。

 コロナ禍でやや期間が空いた昨年3月、5戦目で世界初挑戦が実現。当時のIBF女子世界アトム級王者・花形冴美(花形)に挑戦するも、結果は引き分けに終わった。前半は持ち味のスピードを利した出入りのボクシングで優勢に試合を進めながら、後半は花形の土俵で打ち合いを挑み、ポイントを吐き出してしまった。

 これを最後に引退していく花形と「真っ向勝負を挑みたくなって、冴美さんに打ち合いでも勝ちたい、勝てるという気持ちだけで突っ走ってしまった」という松田は、それからの1年、「どう戦うのがベストなのか」、自分のボクシングを見つめ直した。

 そして、今年2月、花形が返上した王座の決定戦が決まる。相手は元WBA女子世界アトム級王者の宮尾綾香(ワタナベ)。自分と向き合った1年の答えを出すべく臨んだが、0-2の判定で敗れた。思うようにさせてもらえない前半戦を経て、ようやく終盤、前に出て懸命に追い上げたが、届かなかった。

 今度は「自分はこうじゃなきゃいけない」という“あるべき姿”に縛られ、判断が遅くなったという。

「あと2ラウンドでも早く切り替えができていたら、また違った展開になったのかな、と思うんですけど。『行かない練習をしてきたじゃん』っていう“謎のセーブ”が働いて。行っていいのか、迷ってしまって……」

宮尾綾香選手(ワタナベ)とのIBF世界アトム級 王座決定10回戦。
0-2判定負けと悔しい結果で終わった

アマ時代の“戦友”がくれたきっかけ

 あれから半年――。「本来、このほうがうまくいくだろうっていうボクシングと、自分のやりたいことが合致してきた」と松田の表情は明るい。

「デビューしたての頃は、楽しそうに動いてたよなって、思うんですけど、今、そういう感覚を久々に思い出しています」

 積極的に行なってきたのが出稽古だった。自分で判断する力を磨くとともに、外からの視点で自分を見つめる機会にもなった。

 きっかけをくれたのはアマチュア時代の“戦友”だったという。

 宮尾戦から約1週間で練習は再開したものの、「どうしようかな? このままでいいのかな?」と、自分のやるべきこと、方向性が定まらなかった。

 そんなとき、連絡をくれたのが同い年の和田まどかだった。全日本女子選手権5連覇、2度の世界女子選手権銅メダルなどの実績を持つトップアマチュアは、松田が高校2年のアマチュアデビュー戦で敗れた相手で、それ以来、親交を持ってきた。

「まどかちゃんが『大丈夫? もう、こっちに来ればいいじゃん!』って、誘ってくれて。『どうしようもならんから、とりあえず行くわー!』みたいな感じで(笑)」

 3月下旬から4月初旬まで、和田が拠点にする芦屋大学で練習をともにし、久しぶりに手合わせした。まだ長井戦が決まる前で、真正ジムにも足を運んで山中菫とスパーリングもした。外に出たことで、視界が開けてきた。

 東京に戻ってからは、現在は現役を退き、コーチをしているという小村つばさを頼って、自衛隊体育学校に出かけた。全日本3連覇、アジア女子選手権銅メダルの実績を残した小村は、松田が3年続けて全日本の2回戦で敗れた宿敵だった。旧交を温めるとともに東京五輪フライ級銅メダリストの並木月海とも拳を交えた。

 多くの時間を費やしたのが花形ジムでの出稽古だった。宮尾戦でサブセコンドに付いてもらった木村章司トレーナーに指導を仰いだ。「普段の練習を見てないから、アドバイスのしようがなかった」と試合後、もどかしい気持ちを伝えてくれていた。

 自分と向かい合ったことのある和田、小村という両サウスポーの話を聞き、また花形戦で、対戦相手としても自分を見ていた木村トレーナーに助言をもらい、あらためて客観視できたのが自分のよさだったという。


突きつめてきた対応力、判断力

自分の生命線は足。スピードがあり、フルラウンド、動き回るスタミナがあることをしっかり自覚し、自分の軸となるボクシングを再確認した。その上で展開に応じた対応力をスパーリングで身に着け、引き出しに蓄えてきた。

「例えば、スパーでパンチをもらっても、前までは、もらっちゃった、気をつけなきゃ、で何となく済ませても、勢いで何とかなってたんですけど、ここ2戦、上のランクの人に勝ててないのは、そこなんだろうなって。なんでもらったのか、うまくいかないのか、一つひとつ掘り下げて、いろいろ試して、体で覚えてっていうことを普段からやらないと、試合で出せるわけがないよな、と思って」

鳥海純会長にも感謝する。松田が高校生の頃から二人三脚で歩んで10年以上。距離が近すぎて、自分にも見えないところが出てきているから、と出稽古に送り出してくれたが、逆に「どれだけ会長に頼っていたか」を思い知らされた。

「スパーでも、言われたことに反応するのは早いけど、自分で打開する強さがなかった、というか。次、何をするか、自分で考えて、対応するのは次回のスパーになってたから。でも、試合に次はないじゃないですか。自分で判断して、ラウンドの中で変えられるように意識してきました」

 今回の試合は「知らぬ間にはく奪されていた」ベルトを取り返す戦いではない。

「もう一度、世界チャンピオンという目標に向かって、リスタートを切る試合です」

 対戦相手の長井は、直近の2戦、宮尾戦では足を使い、千本瑞規(ワタナベ)戦ではファイターになり、戦い方を変えてきた。だからこそ、追求してきたことを証明するには「いい相手」と“圧勝”のイメージを描く。

「どっちで来たとしても、しっかり対応して。ここ、というタイミングで決めにいきたい。今までKO負けがない選手をストップできれば、インパクトを残せると思うので」

<船橋真二郎>

●ライブ配信情報
 ▷配信プラットフォーム:BOXINGRAISE
 ▷ライブ配信:9月1日(木)17時45分~試合終了時刻まで
 ▷料  金:980円 ※月額会員制
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詳細はこちら

(カバー画像:ボクシングモバイル撮影)

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