【松田恵里】この1年やってきたことを正解に、花形冴美のベルトは私が受け継ぐ！ 2022年2月25日
◇IBF女子世界アトム級王座決定戦10回戦
1位 松田恵里（TEAM 10COUNT） 5戦4勝（1KO）1分
×
2位 宮尾綾香（ワタナベ） 26戦20勝（6KO）5敗1分
ともにベルトへの思いをより強くして臨むリングになる。
松田恵里は昨年3月、プロ5戦目で前王者の花形冴美（花形＝引退）に挑んだものの、1－0判定で引き分け。この試合で約12年半に及ぶキャリアにピリオドを打つ花形から、王位を受け継ぐことができなかった。
元WBA世界アトム級王者の宮尾綾香は2020年、1階級上のWBOミニマム級王座を懸け、元同級3団体王者の多田悦子（真正）と2度にわたって拳を交えるも1分1敗。念願の王者返り咲きはならなかった。
この機にそれぞれ自身のボクシングを見つめ直し、あらためて自分の良さと向き合ったと口をそろえる。サウスポーの松田、オーソドックスの宮尾ともにスピード、特に俊敏なフットワークを持ち味とする。まずはスピーディーな主導権争いから、戦いの幕が上がることになりそうだ。
「冷静さに欠けたところがあったなとは、あとあと思いましたね」
世界初挑戦となった花形戦を松田は苦笑まじりに振り返った。前半は持ち前のステップを駆使して、ポイントをリード。だが、前に出て、インファイトを仕掛けた後半、挽回を許してしまった。
「もともと、よくスパーリングをしていただいて、お世話になった先輩だったし、スパーでは冴美さんがガッと来て、自分もガッと行くっていう展開がよくあったんですよ。それを思い出して、真っ向勝負を挑みたくなったというか。これが最後だし、『打ち合いでも冴美さんに勝ちたい！』っていう気持ちだけで突っ走ってしまいまして……」
技巧とスピードのスタイルもあり、理知的なボクサーという印象があったが、「放っておくと、どんどん行きたいタイプ」という。流れが変わった試合終盤、コロナ下で声援が禁じられるなか、応援席から思わず漏れた「恵里のボクシングじゃねえぞー！」の声に「んなことねえよっ！ 私は打ち合いでも負けねえ！ みたいな反発心も出て（笑）」。
試合が終わった瞬間は自分の気持ちに素直に戦った選択に後悔はなかったという。が、結果が出て、応援席のほうを見たとき、はっとした。
「みんな、何とも言えない表情をしていて、『ああ、こんな顔させちゃった……』と思いました。よくよく考えれば、冴美さんの土俵で戦うのは違うよなって」
花形は自分のボクシングを貫いたからこそ、引き分けに持ち込み、ベルトを死守した。自分は「どう戦うのがベストなのか」。この1年、深く考えさせられた。
「いい経験になりましたし、また冴美さんに教えられてしまったな、と思って」
実に5度目の挑戦で世界を獲った花形からは「そんな簡単にはならせないよ」という手厳しい言葉に続き、「恵里ちゃんには世界チャンピオンになってほしいし、この経験が絶対に力になるから」とエールを送られたという。
「冴美さんが返上したベルトなので『私が獲らないと！』っていう気持ちは強いです」
2戦目で東洋太平洋王座、3戦目で日本王座を獲得。順調すぎるほど、順調にステップを駆け上がってきたが「もともと私の原動力は悔しさだから」。松田は快活に笑った。
神奈川県中部の伊勢原市で育ち、父親がスポーツトレーナーという環境で、さまざまなスポーツに親しんだ。
5歳で始めた空手では小学2年のときに全国優勝、小学生から並行して始めたテニスでも全国大会出場を果たした。中学では陸上部に入り、短距離走で県大会に出場する一方、駅伝のメンバーにも駆り出されるなど、運動神経抜群、活発な女の子だった。
中学3年のとき、ジムに入会してきた松田を「教えたことはすぐにできるし、何でもできるし、ただ者じゃなかったですよ」と鳥海純会長も振り返る。
ところが翌年、入学した高校に女子のサッカー部があったことから興味を惹かれ、1年の“寄り道”。一度はジムから遠ざかった。
「スポーツでは何をやってもある程度の成績を残せたし、つい好奇心から、いろんなことをやってみたくなっちゃうんです（笑）」
そんな松田の思い通りにならなかったのがボクシングだった。高校2年のときに出た初めての公式試合は2ラウンドでストップされる完敗だった。
「それがめちゃくちゃ悔しくて。動くことに関してはやりたいようにできるのに『なんで勝てないの！？』って。だから、楽しかったんだと思います。やってきたことが1勝に結びついたときはすごく嬉しかったですし」
鳥海会長のもと、大学進学後もアマチュアでボクシングを続け、全日本選手権、国体に出場。大学で区切りをつけるつもりが1年延長し、いずれも最高成績はベスト8だった。だが、もう“ある程度”では満たされなかった。
「ずっと悔しい思いをしてきて、その悔しさを持って、プロに来て。で、ベルトは2本獲ったけど、まだ、その上のレベルの人とは戦ってないって、冴美さんに思い知らされて。まだまだなんだ、まだ上があるんだって思ったら、もう楽しくて仕方ないですよね」
宮尾とも大学生のころから折りに触れ、スパーリングをしてきた間柄だが、それだけではなかった。まだサッカー部に在籍していた高校1年のとき、鳥海会長に誘われ、女子のプロの試合を後楽園ホールで観戦したことがあった。
「『女子でもこんなふうに戦えるんだ！ カッコいい！』みたいな感じになって」
今、思い返せば、本格的にボクシングを始めるきっかけになった興行のアンダーカードには、その2年後に世界王者になる宮尾も出ていたのだ。
「ずっと軽量級の第一線で活躍している選手ですし、『え？ 宮尾さんと戦うの！？』って、周りの反応も違うので。この人に勝てば、すべて奪えるじゃないけど、松田恵里が軽量級のトップだって、認めてもらえると思うので楽しみです」
この年末年始は父方の祖父母が暮らす宮崎で徹底的に走り込んだ。起伏に富んだ公園、負荷のかかる砂浜、コースもメニューも父親が考えた。大学2年の頃からフィジカル面をサポートしてくれているが、これまで以上に「同じ目標に向かって、一緒にやっている」と感じる。
「会長からは『勝てば、やってきたことは正解になる』って、ずっと言われてきました。いい意味でまだ自分のボクシングは完成してないし、まだ正解を探してる途中ですけど、次、勝って、この１年やってきたことを正解にしたいですね」
＜船橋真二郎＞
●ライブ配信情報
▷配信プラットフォーム：ＢＯＸＩＮＧＲＡＩＳＥ
▷ライブ配信：2月25日（金）18時00分～試合終了時刻まで
▷料 金：月額会員制 980円／月
▶視聴サイトはこちら
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