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日本拳法10冠とアマチュアボクシング3冠が激突! 2022年2月8日

◇スーパーフェザー級8回戦
 日本フェザー級10位
 前田稔輝(グリーンツダ) 8戦8勝(4KO)
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 日本フェザー級16位
 木村蓮太朗(駿河男児) 5戦5勝(3KO)

 ともに負け知らずの若きサウスポーが激突する。現時点のランクは関係ない。ファンにとっては想像をかきたてられる魅力的な顔合わせであり、将来を期待される2人にとってはリスクたっぷりの危険なカードである。

だが、前田稔輝も木村蓮太朗も守りに入ることは決してない。注目の一戦で自らの力を証明し、それぞれが信じる明日につなげるという自信にあふれている。

 より試されるのは日本拳法出身の25歳、前田になるのだろう。2019年の全日本新人王を勝ち取り、ここまで全勝を続けてきたが、アマチュアで3冠、通算88戦72勝(26KO・RSC)16敗の戦歴を誇る木村は、プロデビューから間もなく3年、9戦目で初めて実戦で向かい合う“本格派のボクシング”と言っていい。

「着々とキャリアを積んできているのを見て、どこかで絶対に交わるんやろうなと思ってました。間違いなく、今までで一番の強敵やし、しんどい展開、苦しい試合になることも想像してます。すごく評価されてる木村蓮太朗選手とできるのが嬉しいですね」

 大阪府守口市の出身。6歳のときに日本拳法と出会い、主将を務めた大阪商業大学まで16年間、突きや蹴りの打撃、投げに寝技もある総合格闘技に打ち込んだ。全国大会優勝は10度を数え、体重無差別の1対1の戦いで実績を残してきた経験とプライドがある。

「異種対抗戦じゃないけど、そういう対決として見ても面白いと思うので、ぜひ注目してもらいたいですし、僕自身、今まで以上に緊張感もあって、ワクワクもしています。正直、向こうのほうが有利という声が多いと思いますし、最近はアマチュアエリートに叩き上げは負ける傾向がありますけど、自分は普通の新人じゃないぞっていうのを見せて、下馬評をひっくり返したいですね」

2020年8月9日58.5kg契約6回戦 VS 飯見 嵐

 最大の武器は、一瞬のタイミングを逃さず突く踏み込みの速さ、左ストレートの切れ味の鋭さ。「自分の体に染みこんだ」日本拳法仕込みの武器で相手を斬って落とすような鮮烈なダウンシーンを演出してきた。特に新人王獲得後の2020年は、2017年の東日本新人王MVPで、パワフルなファイターの飯見嵐(ワタナベ)を3度倒し、181cmの長身を誇る大久保海都(寝屋川石田)を左ショート一撃で沈め、圧巻の連続KO勝ちを飾った。

 だが、昨年の2戦はダウンを奪えないまま判定勝ちにとどまる。独特の間合いとリズムを持つサウスポーの藤田裕史(井岡)には逆に初のダウンを喫し、変則的な猛ファイターの東祐也(北海道畠山)には慎重な試合運びに終始し、「新しい壁にぶち当たっている」と吐露した。さまざまなタイプと手を合わせ、「キャリアとして今後に生きる」と受け止める一方、「対応できなかった自分に納得はしていない」と悔しさをにじませる。

2021年4月11日 フェザー級8回戦 VS 藤田 裕史

 そんなタイミングで迎える“過去最強”の木村との一戦。本石昌也・グリーンツダジム会長は「もともと前田がやりたいと希望してきた相手ですが、大きな山を越えようとするとき、ボクサーとして、人間として、成長につながるんやな、とあらためて感じました」と実感を込める。対戦が決まったときから、明らかに前田の目の色が違ったという。

「自分自身が成長するために厳しい道を選んだっていうのもありますね。敢えて『前田、負けるんちゃうん』っていうような、周りの目が厳しい道を行ったほうが自分の伸び幅も違ってくると思うし、クリアしたとき、自分の価値も上がると思うので。ラクして、上に上がるような選手にはなりたくないです」

 当初は昨年12月9日に予定されていたが、木村の負傷で2ヵ月、延期になった。「今の気持ちのまま、練習を続けていけば、さらに強くなるから」と本石会長が声をかけ、前田も応えてきた。前田とともに、これからのジムの2枚看板として期待される同い年の長身サウスポーで、日本スーパーバンタム級8位の下町俊貴をはじめ、元WBA世界スーパーバンタム級王者の久保隼(真正)、そして苦い経験を味わわされた藤田らと「右との感覚が分からなくなってきたぐらい(笑)」、昨年9月頃から継続してスパーリングを重ねるなど、「気持ちの入り方が違うし、充実した日々を過ごしてきました」。

期待の下町俊貴(左)もパートナーとして一役買った(写真提供/グリーンツダジム)

「勝てばタイトル挑戦に大きく近づく。負ければ遠回りする。3年のボクシングキャリアで、いちばんのターニングポイント」。今までは「自分の間合いで倒すキレイなボクシング」を志向してきた。「今回はお互いに落とせない大一番。意地と意地のぶつかり合いのような展開もあり得るし、自分の殻を破るじゃないけど、これまでとはまた違った気持ちの部分を見てほしい思いもあります」。この先、左だけでは上には行けないと、接近戦を含めて、「他の武器をいろいろ創っているところ」だが、それは体に染みついた“自分だけの武器”をさらに輝かせるため。どんな展開になろうと一瞬のタイミングを虎視眈々と狙う――。

 トップアマチュアとして活躍し、プロに転向した木村。日本拳法からボクシングに転向してきた前田をどう見てきたのだろうか。

「上位ランカーとやりたくても決まらないなか、その次に僕がやりたいと思っていたのが前田選手でした。同じサウスポーで、スピードは速いし、カウンターを取るのも巧くて、注目もされてるし、しかも1回も負けてないので」

 静岡県函南町出身の24歳。小学2年から極真空手を始め、飛龍高校からボクシングに転じた。2年の選抜で全国3位になったが、大きく躍進するのは東洋大学進学後である。

 1年から国体準優勝に続いて全日本選手権優勝を成し遂げ、年間新鋭賞にも選出。翌年の国体も制した。大学最後の年には、主将として関東大学リーグ戦全勝で創部58年目の初優勝を牽引、リーグ戦のMVPにも選ばれ、国体優勝も果たした。アマチュアのリングで数々のトップボクサーたちと拳を交え、しのぎを削ってきた自負がある。

「前田選手のことは評価してますけど、ボクシングに来て、やったのは8戦だけで、まだ強い選手とはやってないっていうことを僕がしっかり見せてあげようかなっていう気持ちもあります。僕は技術的にはプロよりアマチュアが上だと思っているし、ファンの人たちにもアマチュアはプロよりも下と思われないように。それは大前提としてありますね」

2021年6月10日フェザー級6回戦 VS 福永 輝

 飛躍のきっかけのひとつになったのが、現・NTC(ナショナルトレーニングセンター)専任コーチで、プロで2度の世界挑戦経験を持つ竹田益朗さんの存在だったという。当時の東洋大学特別コーチだった「竹田さんのミットでみっちり教えてもらうようになって、一番変わりました」。繰り返し叩き込まれたのが「頭、手、足の3点セット」。これらを常に動かし、“よける”、“打つ”の動きをオートマチックに連動させることで、テンポの速い攻防のなかで力を発揮できるようになった。

アマチュアの10オンスグローブで鮮やかに倒し、1ラウンドでストップした大学2年のリーグ戦初戦で「倒す感覚」をつかんでからは、さらに自信を深めた。その左アッパーが今でも得意とするパンチである。

 ここまでのプロ5戦、果敢なインファイトを仕掛けたり、華麗なステップを駆使したりと“オールラウンド”な戦い方を見せてきた。が、「正直、いろんなことをやりすぎた」と振り返る。昨年9月の5戦目。大学1年の国体で勝利したことがあった齊藤陽二(角海老宝石)に初回から初ダウンを喫すると4回にも倒され、あとがない状況に追い込まれた。一転、5回から攻めの姿勢を貫き、薄氷の8回判定勝ちをつかんだ。「あの5ラウンドから見せた姿勢が本来の自分」と見つめ直す試合になる。

2021年9月5日Sフェザー級8回戦 VS 齊藤 陽二

「アマチュアのときから、打ち合いが得意で、一度も気持ちで負けたことはなかった」と胸を張る負けん気の強さが根っこにある。その上に大学時代に培った攻防技術が生きる。「むしろ近い距離、中間距離のほうが集中力も高くなる」と、ここからは攻めるスタイルを軸に据え、展開に応じて“手札”を切っていきたいという。

 自身のケガで延期になり、しばらく実戦練習から遠ざかった。1月から東京の三迫ジムで元日本スーパーライト級王者の永田大士、元高校王者で世界ユース3位の実績を持ち、フィリピンでプロ転向した逆輸入ボクサーの保坂剛らと連日のスパーリング。遅れを取り戻し、最後は横浜の大橋ジムで仕上げる。しっかり2月8日に照準を合わせ、微塵の焦りもないところにも経験値を感じさせる。

1月に入り、三迫ジムで永田大士(左)、保坂剛(右)とスパーリングで調整

「ここから上に行くためのひとつ目の通過点」。前田の実績には敬意を表する。「10冠獲るというのは普通ではできないことなので、何かしら僕らが経験したことのないものが絶対にあるし、想像できないことが起きるかもしれないと思ってます。日本拳法の踏み込みは速いし、リズムも独特で、外して打つっていう動きも速いので」。それでも「向こうも僕とやって、これは違うなと思うことが絶対にある」と突きつけることも忘れない。

サウスポー同士、互いの左ストレート、互いの右フックが同時に交差するタイミングが頻発し、「当たったら、どちらかの意識が飛んじゃうので、1秒たりと気が抜けない展開になる」とイメージする。つまり、ヒリヒリするようなタイミングの取り合い。「判定まではいかない。中盤までのKO決着」と予想した上で「楽しみですね」と笑みを浮かべた。

<船橋真二郎>


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