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【大嶋剣心】 雌伏2年3ヶ月 人生をかけてバンタム級のベルトを再び帝拳に_2022年2月5日

◇日本バンタム級王座決定戦
 1位 澤田京介(JB SPORTS) 16戦14勝(6KO)2敗2分
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 2位 大嶋剣心(帝拳) 9戦7勝(3KO)1敗1分

 「オレらだけだな、こんなに試合してないの」

 ジムの大先輩、WBAミドル級スーパー王者の村田諒太が大嶋にかけた言葉だ。村田は元ミドル級3冠王者、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン=現IBF王者)との統一戦が延期になるなど、2019年12月を最後に試合から遠ざかっている。大嶋が最後にリングに上がったのは19年11月のこと。確かに帝拳の“試合枯れ”は村田と大嶋が筆頭だ。

 大嶋は20年3月7日に予定していた試合がコロナ禍発生で10日前に中止となった。以降、ジムからは何度か「試合を組まなくていいのか」と打診されたが、大嶋の答えは「タイトルマッチ1本でいきます」。こうして2年3ヶ月もブランクが空いてしまったのである。

「いつタイトルマッチが来るか分からなかったので、自分から試合は断っていました。結果的に『だから言わんこっちゃない』というくらい空いてしまいましたけど、それは結果論。そもそも調整試合ってあまり好きじゃないんですよ。勝つか負けるかの相手に挑むからその準備期間で強くなれる。そういうモットーがあるんです」

 そんな大嶋もコロナには正直なところ翻弄された。試合はいきなり中止となり、ジムは90日間も閉鎖された。「なんで練習できないんだ」という苛立ちもあったが、「何ができることはないか」と考えた末にイメージトレーニングを重ねるようになる。気がつけば試合動画を四六時中見るようになっていた。

「今まで他人の試合なんてほとんど見なかったのに、試合動画を見るのが超好きになったんです。見て、真似する。メイウェザーも、パッキャオも、ドネアも。公園に行って見よう見まねでシャドーしました。その流れでディフェンスにも目が向きました。たとえばこの前の大みそかの井岡選手。2年前の何も分からない僕だったらチャンネルを変えてRIZINを見てたと思います(笑)。でも、今の僕は井岡選手のディフェンスのすごさ、負ける要素を一つ一つつぶしていく強さが分かるようになりました。まさにスイートサイエンスと呼ばれるボクシングの醍醐味ですよね」

 コロナという逆境の中、他人のボクシングから学ぶことを覚え、ジムワークができるようになると早速ボクシングの改革に取り組んだ。ポイントは「今まで目を背けていたことに取り組む」だ。たとえばディフェンス。今までは足とボディワークでかわしていたが、10、12回戦になれば、それだけではダメだとガードを学んだ。たとえばインファイト。前に詰めてプレッシャーをかける今までにないスタイルも取り入れるようになった。

「今、この2年間があって良かったと思ってます。自己を高めるいい期間になったし、何よりメンタルが鍛えられました。今までの僕とはまったく違うと思います。子どもから大人になったような感じです。それを試合で見せるのが楽しみです」

 ホープ揃いの帝拳にあって、大嶋は決して目立つ存在ではなかった。青森・弘前工高時代は県のトップ選手として活躍。東北大会では最優秀選手賞を受賞するなど好成績を収めた。一方で5度出場した全国大会ではほとんど勝つことができず、全国の壁を嫌というほど味わった。

 高校卒業にあたっては大学進学を家庭の事情で断念し、兄の背中を追って自衛隊に入隊した。青森で2年、自衛隊生活を送ったあと、2016年1月の成人式を終えると同時に上京。プロボクサーを目指して帝拳ジムの門を叩いた。

「自衛隊は国家公務員だし、ボーナスも出るし、家賃も飯代も心配ない。家にお金も入れられる。何も言うことはありませんでした。でも、気がついたんですよ。ここだとがんばっても、がんばらなくても同じ給料をもらえる。青森の人と結婚して子どもができて、一生安泰の生活を送ることができる。そこまで見えて、ダメダメダメ、こんなのダメと。がんばれない人間になるのは許せなかった。それで、もう1回ボクシングだと決めました」

 2年間でためた120万円を手に、東京に出てジムと住む家を見つけた。希望した新人王にはアマで27勝していたため出られず、2年のブランクに不安を感じながらもB級デビュー。2戦目で敗れたが、大和心トレーナーとの二人三脚でその後は負け知らず。デビューから6年目で日本タイトルマッチにたどりついた。

 無名の存在からよくここまで来たという思いは正直ある。自分の中の優しい心は何度も試合が流れた澤田の不運に同情し、「本当は澤田選手に一度チャンピオンにならせてあげたかった。チャンピオンになった澤田選手に勝ちたかった」との思いもある。しかしこの試合、絶対に譲れない決意が大嶋の心には何より強くある。

「どんなにズタボロになってもいいし、鼻が折られても、目を骨折してもいい。ここで勝てたらこの2年間やってきたこと、この6年間やってきたことが正しかったと自分に証明することができる。負けたら2年間、何もやってなかったのと同じですから。この2年間、めっちゃ考えて、ボクシングに人生捧げてきましたから」

 日本バンタム級王座は大先輩である大和トレーナー、そして大和トレーナーとタッグを組んだ“神の左”山中慎介さんも腰に巻いた帝拳ゆかりのベルトだ。2022年、ジム初のタイトルマッチに勝利し、尊敬する村田の世界戦につなげたいという思いも、大嶋のモチベーションを高めている。

<渋谷淳>

●日テレG+放送予定
 ▷生放送 2月5日(土)17時45分~
 ▷再放送 2月19日(土)0時00分~
 
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