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【鈴木雅弘】「夢の続きを突っ走る」前王者は日本タイトル“逆2階級制覇”を狙う! 2021年10月30日

◇日本ライト級最強挑戦者決定戦
 1位 利川聖隆(横浜光) 14勝8KO5敗
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 2位 鈴木雅弘(角海老宝石) 6勝4KO

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 アマチュアで東京・駿台学園高、東京農大といずれも名門校でファイトし、プロに入ってからは無傷の6連勝4KOで日本スーパー・ライト級王座を獲得。“エリート”というフレーズがしっくりきそうに思えて、意外にも本人によれば、悔しさと劣等感にさいなまれるボクシング人生を送ってきたという。

「高校のときは全国大会で準優勝が1回、3位が3回ありました。いつも李健太(現帝拳)に負けて、彼には通算7勝を献上しています。大学では寮で同部屋だった桑原拓(現大橋)、中野幹士(現帝拳)が日本一。僕は稔弘(世界ユース選手権銅メダル、ユース五輪銀メダルなど活躍)の兄という見られ方でしたから」。

 全国2位でもたいしたものだと思うのだが、優秀なボクサーに囲まれていたからだろう。日本一になれないという事実は、いつしか鈴木にとって小さくないコンプレックスとなっていた。

「だから前回、日本タイトルマッチのチャンスをもらったとき、このタイミングで取れなかったらボクシングを辞めようと思ったんです。僕は日本一にはなれない人間なんだと。計量の前の日、勝てなかったら辞めるという話を母親にしました」

 家の近所にボクシングジムがオープンして、父親のすすめでグローブを握ったのが小学校5年生のとき。中学時代はU-15全国大会で優勝を経験するが、高校、大学と名門校に在籍しながら日本一になれなかったのは既に書いたとおりだ。ボクシングに青春をかける兄弟を応援し続けた両親は、いつも弟と比較される兄の心中を痛いほど分かっていた。

 大学卒業後、どうしても日本一になりたい、ボクシングをしてきた証を残したい、という思いでプロに転向。しかし4戦を終えたところで思わぬ事態が発生する。父親がバセドウ病などいくつかの病気を併発して入院、家族が窮地に立たされてしまったのだ。これを受けて鈴木は2020年、ボクシングをしながら働ける仕事を斡旋してもらえる角海老宝石ジムに移籍。闘病生活を送ることになった父、経済的に苦しむ母の姿を目の当たりにし、鈴木のボクシングに打ち込む気持ちに変化が生じた。

「父親が倒れたのは大きな転機になったと思います。金銭面が厳しくなったので、専業主婦だった母親もいまでもコンビニや近くのゴルフ場で働くようになりました。(プロ転向を表明した)弟もいまは怪我でボクシングができる状態じゃない。自分がやらなくちゃいけない、頑張らなくちゃいけない、という気持ちは強くなったと思います」

 鈴木は6月、日本スーパー・ライト級王者の永田大士(三迫)に挑戦。鋭いジャブと左フックのカウンターを有効に使って序盤にリードしながらも、タフな永田の追い上げをくらい、徐々に苦しくなっていく。鈴木はもともと「テンションの高いときと低いときの差が激しい」タイプであり、永田の巻き返しにすっかり飲み込まれそうになっていた。

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 たちこめてきた暗雲を吹き飛ばそうと、セコンドを務める田部井要トレーナーは「男たちの大和/YAMATOを思い出せ!」と鈴木を励ました。戦艦大和に携わった人たちの悲劇を描いた戦争映画は、鈴木が心を強く打たれた作品だった。

「田部井さんが試合中に映画の話をしてくれて、あの人たちは生きるか死ぬか、飛行機に乗ったらもう死んでしまう境遇なんだと。お前はここであと10分、10分だけがんばればいいんだと。あの映画、父親が好きな映画でもあるんです。主題歌を入場曲に使ったのもそれが理由です」

 鈴木は終盤、折れそうになっていた気持ちを奮い立たせ、最終10回に渾身の攻撃でTKO勝ちをつかみ取る。ずっとトップに立てなかった実力者は「昔の自分だったらあのまま負けていたかも知れない」と苦しみながら栄冠を手にした試合を振り返った。

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 ベルトを腰に巻いた鈴木は大きな満足感に包まれ、肩の荷が下りたような気持ちにもなった。そしてようやく夢を叶え、一番高いところに立ったことで新たに気がついたことがあった。

「思ったのは『取れない、取れない』と苦しんでいた時間が大事だったということです。悔しい、なんとかしたいという思いが強さの秘訣になったのかなと思いました。そう考えるとまた新しい挑戦がしたい。そう考えるようになったんです」

 鈴木はせっかく手にした日本タイトルをあっという間に返上。本来の階級ともいうべきライト級で再び上を目指す決意を固めた。運にも恵まれ、すぐに日本タイトル最強挑戦者決定戦のチャンスが巡ってきた。こうして階級を下げての“逆2階級制覇”へのレールが敷かれたのである。

 チャンピオンになるという夢を叶えた今、鈴木はこんなふうに考えている。

「今は夢の続きを突っ走っていて、これからはやりたいことをやっていくというイメージなんです。大学の先輩でもあるチャンピオンの吉野修一郎さん(三迫=日本、東洋太平洋、WBOアジアパシフィック王者)という新たな目標があって、仮に負けたとしてもそこに挑むという気持ちが大事だと思っています。強い人に向かっていくからこそ応援もしてもらえる。自分はチャンピオンにはなったけどまだ強い人じゃない。そこから抜け出すためにも突っ走って、まずは気持ちが強くて防御のうまい利川くんという壁を壊す。そんなふうに考えているんです」

 30日の試合は、まだ社会復帰できていないものの症状の回復してきた父親が母親と一緒に応援に駆けつける予定だという。日本一というノルマを達成して一回り大きく成長した鈴木が最愛の家族の前で“夢の続き”を披露する。
<渋谷淳>

●ライブ配信情報
 ▷独占ライブ配信:10月30日(土)17時45分~試合終了時刻まで
 ▷アーカイブ期間:11月2日(火)23時59分まで
 ▷視 聴 料 金:3,000円(税込)一般チケット
 ▷特 別 解 説:京口 紘人 (WBA世界ライトフライ級王者)
          赤穂 亮 (元東洋太平洋・日本王者) 
 ▶販売サイトはこちら

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