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【鈴木なな子】女子ならではの華やかさ、きれいなボクシングを見せたいダイヤモンドグローブ・インタビュー 2022年8月9日

◇日本女子ミニマム級タイトルマッチ6回戦
 王者 鈴木なな子(三迫) 8戦6勝(1KO)2敗
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 3位 一村更紗(ミツキ) 15戦4勝10敗1分

 8月9日、東京・後楽園ホールで行われる『ダイヤモンドグローブ』のセミファイナルは、日本女子ミニマム級タイトルマッチ6回戦。チャンピオンの鈴木なな子(三迫)が3位の一村更紗(ミツキ)を挑戦者に迎え、初防衛戦に臨む。昨年12月、青森北高、日体大にかけてアマチュア通算40戦31勝、全日本女子選手権ジュニアの部・優勝者で、元ワタナベジムの同門でもあった瀬川紗代との王座決定戦に2-1判定で競り勝った。

 3月には立教大を卒業した。レポートのテーマは「減量とパフォーマンス」。スポーツ系の学科で学んだ。在学中は授業やテストと試合、試合に向けた準備期間が重なることもあり、両立には苦労もあったが、フライ級とフェザー級、全日本女子選手権を制覇した元自衛隊体育学校のトップアマチュアで、現在は同門の晝田瑞希(ひるた・みずき)と自主的にフィジカル系のトレーニングに取り組むなど、ボクシングに集中できる時間が増えたという。

ストレートが主体のボクシングから「多彩なパンチを打てるようになってきた」、晝田と実戦練習を数多く重ねるようになり、「(攻防の)テンポが自然と速くなってきた」と、椎野大輝トレーナーはタイトル獲得からの8ヵ月の成長を語る。それでも鈴木は「まだまだ強くなりたいし、もっともっと上手になりたい」としっかり足もとを見つめている。

 成長を実感できることがボクシングの楽しさという。4歳から始めた空手は「習慣みたいな感じで、どうやって上達したのか、技を身に着けたのか、何も覚えてないんですよね。ボクシングは高1で始めて、あ、これができるようになってきた、上手になったな、とかが分かるから。それが楽しくて」。着実に実力をつけてから、さらにアジア、世界へと一歩一歩、ステップを上がっていきたい、という23歳の初々しいチャンピオンに聞いた。

まだまだ強く、もっともっと上手に

――昨年の12月に初めてタイトルを獲ってから、気持ちの面で変わってきたところはありますか。

鈴木 変わったところか……。でも、前は自分のボクシングに自信がなかったし、「私、すっごい下手だな」と思ってたし、それは今も思ってるけど(笑)、最近は自分でちゃんと考えて、課題を見つけて練習することを意識するようになりましたね。自分で考えるのはすごく大事だけど、その前に基礎をしっかりつくりたいな、と思ってたから、教わることが私のベースだったんですけど。

――以前、ジムで話したとき、「自分の実力がしっかりついたときにタイトルに挑戦したいから、全然、急いでいない」と言っていたのを覚えているんですけど、しっかりと基礎ができて、タイトルに見合った実力もついて、自分自身、納得したタイミングで挑戦して、チャンピオンになれたという感じですか。

鈴木 そうですね。でも、まだ自信ないですけどね(笑)。まだまだ強くなりたいし、もっともっと上手になりたいし。自分のスパーリングを見返しても「下手だな、下手だな」とか思いながら見るし、そんな感じですけど。

――試合後、「悔しい」と繰り返していたのが印象的でした。どこがいちばん納得できなかったところですか。

鈴木 もっと足を使って、出入りしたかったのに……。相手のうまさ、強さに乗せられて、めちゃくちゃ打ち合ってしまった。「うわっ、やっちまった」と思って(笑)。

――自分の思い描いていたボクシングじゃなかったんだ(笑)。

鈴木 ほんとは、もっと足を使った“きれいなボクシング”をやりたいんですけど、それと真逆をやっちゃったんで。私って、ずっと空手をやってたから、空手のクセが抜けなくて。近い距離で、足を止めて、めっちゃ打ち合うみたいな。ようやく去年ぐらいから、ちょっと出入りができるようになってきたな、というところだったから、相手が強くて、全部、飛んじゃいました(笑)。

2021年12月9日日本女子ミニマム級 王座決定戦6R VS 瀬川 紗代(ワタナベ)

――初めてのタイトルが懸かった試合で緊張は?

鈴木 あんまり意識してなかったんですけど、ありましたね、きっと。周りに「ちょっと引くぐらい表情が硬かったよ」って言われて、あとあと見てみたら。自分が思ってる以上に表情がめっちゃ硬直してて、「ほんとだ!」って(笑)。

――自分で課題を見つけて、ということでしたけど、タイトルマッチのあと、どんなことを意識して練習してきましたか。

鈴木 なんだろ……。条件マスを増やしましたね。自分のやりたいことはこれだから、とか、できないことはこれだから、とか考えて、晝田さんと一緒に。

同門の晝田瑞希選手と

――晝田選手は、女子のなかではステップワークが際立った選手だと感じるんですけど。自分が求めているものと重なるところがある?

鈴木 そうなんですよね。好きなボクシングスタイルだから、すごく学べるし、教われるし、一緒に練習できて嬉しいです。

――あのステップワークは筋力の強さも関係しているのかな、と。

鈴木 だから、一緒に朝、サーキットトレーニングをやったりもしています。晝田さんを見ていると、筋量とかも私は全然、足りてないし、まだまだですね。

――今年の春で大学を卒業して、ボクシングに割ける時間が増えてきたところはありますか。

鈴木 それは確かにあります。テストと試合がかぶることがなくなったので、いちばんは気が楽です。テストとかぶったら、何か絶対に落としちゃうんですよ(笑)。出席が足りなくて、単位がダメだったこともあるし、そういう意味では、今はボクシングに集中できますね。

一歩一歩、着実に

――環境も変わって迎える初防衛戦ですが、挑戦者の一村選手のことは、どう見ていますか。

鈴木 パワフルだなと感じました。あと気が強そうだなと思って。打ち合いになったら、“沼にハマる”じゃないけど、また前回みたいになっちゃうから。今回は落ち着いて、自分のやりたいボクシングができたらな、と思いますね。まあ、打ち合いになったら打ち合うし、打ち合いになっても負けないですけど。

――そこは性格的に?

鈴木 やっぱ、やられたら、やり返したくなっちゃうから。

――とはいえ、コントロールしながら(笑)。

鈴木 そうですね。そこが課題(笑)。

――初防衛戦という意識は?

鈴木 うーん……。せっかく獲ったから、絶対に負けたくないっていう気持ちはめちゃくちゃ大きいです。そんな一発目で獲られたくないし、挑戦するときも、負けたら終わりだな、と思ってましたけど、今回も同じです。

――負けたら終わり、という気持ちは常に?

鈴木 負けたら、遠回りになっちゃうじゃないですか。上に行くのに。だから、負けたくないですね。

――この前は30歳までに世界チャンピオンになりたい、と。

鈴木 でも、最長で、ですからね(笑)。

――それぐらい一歩一歩、着実に、という気持ちが。

鈴木 あります。その考え方はずっと変わらないですね。日本を獲って、次は東洋、それから世界。飛ばしたいと思ってないし、飛ばせると思ってないし(笑)、しっかり実力をつけてから。

――それも性格?

鈴木 性格ですね。自分の実力に見合ってないこと、あんまりしたくないし。それって、自分がいちばん分かるじゃないですか。例えば、インスタグラムでも、めちゃくちゃ加工して写真をのっけるとか、現実と全然、違うことを絶対にしたくないんですよ(笑)。

――自分を大きく見せないというか、等身大でいたいというか。

鈴木 大きく見せたくない。自分が苦しくなるだけだし。

試合に勝ったとき、「生きててよかった」と思う

――空手を始めたのは4歳ですよね。ずっと1対1で戦う競技を続けているわけですけど、何がいちばんの魅力ですか。

鈴木 なんだろ……。しんどいじゃないですか。痛いし(笑)。でも、勝ったときの喜びが大きいから。負けたら全部、自分の責任だけど、勝ったら自分の努力の成果の表れだから、それがすごく嬉しいから、やってますね。

――ハマった瞬間というか、ずっと続けようと思ったきっかけみたいな出来事はありますか。

鈴木 高1のときか。空手をやらなかった時期が3ヵ月、4ヵ月、あったんですよ。もう空手は辞めようと思ってたから。でも、その間もボクシングジム(ワタナベジム)には行って、練習はしてたのかな。けど、空手は毎月ぐらい試合に出ることもあったのが、そういう目標がなくなったら、なんか、すごく寂しくて。つまんなくなって、生きてるのが。だから、何かやらないとダメだ、と思ったのはありますね。

――ボクシングは高1から? 最初は空手と並行して。

鈴木 そうです、そうです。空手と一緒にやってました。でも、ボクシングのほうが楽しかったですね。空手は4歳からだったから、習慣みたいな感じで、どうやって上達したのか、技を身に着けたのか、何も覚えてないんですよね。ボクシングは高1から始めて、あ、これができるようになってきた、上手になったな、とかが分かるから。それが楽しくて。

――自分が成長する実感があるから楽しい。でも、試合がないのが寂しくて。

鈴木 試合がないと目標がないじゃないですか。つまんなかったですね。生活してて、メリハリがないし、休みの日も別にいつもと変わんないし。

――そういう目標があったほうが。

鈴木 頑張れますね。しんどいけど(笑)。

――しんどい分、休みの日が楽しくなるし(笑)。

鈴木 楽しくなります。めっちゃ(笑)。

――で、とにかく試合をしたくて、プロに。

鈴木 多分、ボクシング部のある高校に行ってたら、アマチュアでやってたと思うんですけど、環境が。だから、プロテストを受けて、プロで試合をしたら、 “女子高生ボクサー”とか(笑)。そんなふうに書かれると思ってなかったし、不思議でした。部活がないからプロになっただけなのにな、とか思いながら。

―― “女子大生ボクサー”になるし(笑)。

鈴木 そう(笑)。そうやって世間は見るんだ、と思って。不思議でしたね。ただただ、普通に生きてて、ボクシングをやってるだけだから。

――実際にボクシングの試合をして、いちばんの面白さをどこに感じてますか。

鈴木 なんだろ……。1勝の重みが違うじゃないですか。空手はトーナメントで、1日に4試合とか普通にするんですけど、ボクシングって、3ヵ月ぐらいかけて、ひとつの試合をやるじゃないですか。勝ったときの喜びが。生きててよかった、と思うし、やっててよかった、と思うから。その感覚が好きです。

――1年に2試合とか、3試合ぐらいですもんね。

鈴木 なかなかできないですよね。空手は負けても、また次があるし、みたいな感じだったんですけど、それがないから。それもよさでもあるし。

“ツヨカワ”でいきたい

――足を使って、打たせず打つボクシングが理想?

鈴木 だし、あんまりガチガチにインファイトしたくないし(笑)。

――気が強そうだから、そのほうが逆に好きなのかな、と(笑)。

鈴木 いや、だから多分、真逆をいきたいんですよね。きれいにやりたいです。もらいたくないし(笑)。

――きれいなボクシングで相手を完封する、フルマークの判定で勝つのが理想の試合ですか。

鈴木 でも、倒せたらカッコいいな、と思いますよね。男子みたいに倒し切るとか、筋力の違いもあって、なかなか難しいな、と思ってるけど、倒せる選手にはなりたいですね。

――まず足を使うボクシングのベースをつくって、いずれは。

鈴木 そうですね。まだまだ遠いですけど(笑)。

――重なるところもあるかもしれませんが、今回は、どんな試合、どんな自分を見せたいですか。

鈴木 今回は、特に男子の試合に挟まれるじゃないですか(笑)。男子みたいな力強さとか、キレとか、そこで勝負できないんで。女子ならではの華やかさだったり、きれいなボクシングを見せられたらなって思います。

――鈴木選手が考える“華やかさ”というのは?

鈴木 例えば、女子は髪の毛を三つ編みにできたり、衣装をかわいくできたりとか、そこも含めてですね。

――そういう部分でも自分を表現して。プロですからね。

鈴木 はい。自分の個性を出していきたいですね。アマチュアみたいに衣装が決まっているわけじゃないから。かわいく。“ツヨカワ”でいきたいですね。なんか、ふざけてるって言われそうですけどね(笑)。

――どうして?(笑)

鈴木 そんなのいらないよ、とか(笑)。でも、大事だと思うんですよね。私は。絶対に大事だから、かわいさは、って思うから。

――晝田選手も自己プロデュースというか、自己表現しているから、そういうところでも考えが合うんじゃないですか。

鈴木 うん。あります、あります。私も個性を出して、“ツヨカワ”で(笑)

(取材/構成 船橋真二郎)


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