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“2世ボクサー”湯場海樹がプロ初黒星から再起 “マッスルボクサー”近藤哲哉と正念場の一戦 2022年2月5日

◇スーパー・ライト級8回戦
湯場海樹(ワタナベ) 10戦7勝(5KO)1敗2分
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近藤哲哉(横田スポーツ) 10戦6勝(4KO)4敗

 エリートと叩き上げ――。

 手垢のついたフレーズではあるけれど、両者のバックグラウンドを分かりやすく表現すればそういうことになる。湯場は日本タイトル5階級制覇の記録保持者である忠志さんを父に持ち、高校時代はアマチュアの全国選手として活躍した。一方の近藤は血統書もアマチュア経験もなく、敗戦も乗り越えてA級まで這い上がってきた。両者の共通点は一つ。前回の試合に敗れ、今回の試合に今後のボクシング人生をかけていることである。

2021年7月 日本ユースSライト級 タイトルマッチ  VS佐々木尽

 日本ユース・ライト級王座を保持する湯場は昨年7月、キャリアのターニングポイントとなる大一番を迎えた。1階級上の日本ユース・スーパー・ライト級王者、強打で売り出し中の佐々木尽(八王子中屋)に挑戦したのだ。結果は1、2回にダウンを奪う好調な滑り出しながら、3回にまさかの逆転TKO負け。タイトル挑戦が遠のく手痛い黒星となったが、周囲から厳しい声は少なく、むしろ好ファイトだったと賛辞された。1敗の重みを感じたのはしばらくたってからだった。

「みんなにいい試合だったと言われて、自分も『ミスしちゃったな』という気持ちが大きかった。でも1ヶ月くらいして、『負けは負けだし、何も残ってない。ランキングもない』と実感しました。それからですね、本当の悔しさが沸いてきたのは」

 すごく「勉強になった」という試合で課題はいくつも見つかった。すぐにでも練習に取りかかりたいところだが、湯場にはその前にしなければならないことがあった。佐々木戦からおよそ2ヶ月後、プロ初黒星からの再起を期すサウスポーは手術台の上にいた。

「プロ3戦目のフィリピン選手との試合です。インターバル中に心臓がバクバクして体力が戻らない。その試合は何とか足使って逃げて勝ったんですけど、終わって、控え室に戻って、吐いて、熱を出して、1週間入院……。診断の結果は心房粗動と心房細動といって若い人には珍しい病気だそうです。その時から手術をして治したほうがいいと言われていて、佐々木戦で負けて、そのタイミングになりました」

 3戦目以降、前回の試合を含めて再び心臓がバクバクすることはなかったとはいえ、「いつか出るかもしれない」という不安は常にあった。アスリートでなければ薬による治療という選択肢もあったが、プロボクサーとして万全を期するために手術は必要だった。

 10月に練習を再開し、徐々に体力を戻してトレーニングの強度を上げていった。長身サウスポーたる湯場の課題はやはり接近戦。インファイトに加え、飛び込んでくる相手への対処などに日々取り組んだ。

2月5日の試合は今後を考えれば正念場とも言える大事な試合となる。

「自分のほうが格が上だと思うので、どうやって差を付けて勝つかを見られると思います。だからこそ前回の試合よりもプレッシャーはあるかもしれない。近藤選手は倒しにくると思うので、そこに飲み込まれず、しっかり勝ちたいですね」

 高校時代から「あの湯場の息子か」と注目されながらキャリアを重ね、プロに転じてから5年がたった。初黒星も喫し“ピカピカのホープ”を卒業した23歳は「今年は日本タイトルマッチがやりたい」と2022年を飛躍の年にしようとしている。

 名前のある湯場との対戦を心待ちにしているのが近藤だ。強い選手との試合は大歓迎。もちろん湯場戦のオファーを聞いた時は即答で「やります」だった。

「基本的にオファーがあればだれでもやります。断るのって嫌だし、正直ランカーといっても下のランカーだったら勝てると思っているんで。だったら上のランカーとやって勝って一気に知名度を上げたい」

 近藤は対戦相手を選ばない。昨年7月は日本ウェルター級4位の小畑武尊(ダッシュ東保)と対戦して判定負け。9月には日本ウェルター級4位につけたことのある安達陸虎(大橋)と69キロ契約で拳を合わせて0-2判定負け。本来はライト級なのに69キロ契約の試合を受けるとは尋常ではないが、本人曰く「断る理由がない」というから頼もしい。

2021年9月69.0Kg契約8回戦 VS安達 陸虎

 そのキャリアは雑草というフレーズがピッタリだ。

小学校の時に空手を習っていたものの、中学と高校でほぼスポーツと無縁の生活だった。それでも17歳の時、思うところあってボクシングジムに入会した。警察官の採用試験に受かるためにはボクシングをしていると有利――。そんな情報を耳にして、高校在学中にプロデビューするというプランを立てたのだ。ところがジムに入会はしたものの、「バイトと遊びが忙しくて」ボクシングに身が入ることなかった。

 高校を出て警備会社に就職し、羽田空港の国際線の警備を担当した。24時間勤務、時に36時間勤務という重労働に辟易しながら、最初にもらった給料で中型バイクを買った。夜勤明け、家からバイクを出して走っていたら睡眠不足がたたったのか自爆。けがはなかったが、50万円出して買ったバイクがわずか20日ほどでパーになった。心の中で何かがはじけた。

「こんなにがんばって働いて、一瞬にしてお金がなくなった。ショックでしたね。それでなんか一発やってやろう、何か自分の可能性にかけようと。それまで挑戦とかしてなかったんで、18、19歳じゃ遅いかなとその時は思ったけど、思い切ってやってみようと思ったんです」

 今度は真剣にボクシングをやろうと思った。就職した会社を3ヶ月で辞め、住み込みの新聞配達の仕事を見つけ、ボクシングジムを探した。横田スポーツジムに足を運ぶと、車いすに座った横田広明会長がいた。

「会長になんで車いすなのか聞いたらバイク事故だって言うんです。自分はバイク事故をきっかけに仕事を辞めて、ボクシングをやろうとしている。キモいですけど、これは運命だなと思いました(笑)」

2017年11月デビュー戦

高校時代から「男は腕が太くなくちゃダメでしょ」との思いから筋トレだけはしていた。だからなのか、技術はなくとも腕っぷしは強かった。デビュー戦は黒星。それにもめげず、スパーリングでボコられる度に「クソっ!」と向かっていって力をつけた。東日本新人王ライト級準決勝で前出の佐々木に初回TKO負けした時は、「あんなパンチの強い選手はいない。佐々木とやったらだれとやっても怖くなくなった」と敗戦を肥やしにした。

2019年9月東日本新人王ライト級準決勝 VS 佐々木尽

 筋トレ好きから“マッスルボクサー”を名乗り、試合ではたくましい上半身をグイグイ前に出してパンチを振り回すエキサイティングなファイトを身上としている。最近はガードの重要性を意識してディフェンスを強化したり、上半身に比べて弱かった下半身を鍛えたりと弱点強化にも取り組んだ。今回は湯場戦に向けては、苦手だった走り込みにも力を入れた。

「中高ではネットゲーム1本でやっていたような人間で運動もしてなかったですけど、そういう人でも挑戦したらいけたよとか、仕事をしながらボクシングしていても気持ちで勝てるよとか、そういうストーリーを見せたいですね。2月5日、もちろんKOを狙っていきます!」

 現在、防水関係の仕事で生計を立てる24歳は格上のサラブレッドを蹴落として一気に成り上がるつもりだ。

<渋谷淳>
●日テレG+放送予定
 ▷生放送 2月5日(土)17時45分~
 ▷再放送 2月19日(土)0時00分~
 
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