見出し画像

85. 旅の行方

日ごとに会話がかみ合わなくなっていったが、カナダの自然が重苦しい空気を時々だけど、かき消してくれた。

画像1

バンクーバーで2日間をすごしたあとカルガリーへ_。そして、一番楽しみにしていたカナディアンロッキーに辿りついた。目の前には、あのドラマ「ライスカレー」で見た風景が広がっている。息を呑むほど素晴らしい景色。その全てに釘付けでますます会話は減っていった。

画像2

部長もその風景を楽しんでいる。この素晴らしい景色が続く限り、感動に包まれていられるから、お互いのことを気遣う必要はないかも・・・・。そう思うとちょっとホッとした。

1日中、時間を惜しむように歩き回って、夜は夕食を2時間近くかけて食べる。(フルコースなんだけど、次の料理が出てくるまでにかなり時間がかかった。)その頃には、もうぐったりで、もう話す気力は残っていなかった。

ツアーの他の参加者達も、みな大人しい方ばかりだったので、つられてひっそりとお通夜みたいな夕食をとっていた。

ホテルの宿泊客のほとんどは、日本人。“カナダといえば、このホテルに泊まりたい!”そう思ったのは、私たちだけではなかったようだ。
ここは、本当にカナダなのかな?と思うくらい、右を見ても左を見ても日本人だった。

画像3


やがて、広いホールの真ん中で、ハープの演奏が始まった。真っ白いドレスを身にまとった、きれいな女性の奏者が、有名なクラッシックのナンバーを奏ではじめる。そして、それが何曲か続いた後、突然、聞き覚えのある曲が・・・。

山口百恵の「いい日旅立ち」だった。演奏者が私たちに気をきかせて演奏してくれたのだろう。

わたしは、その曲を聴きながら、“もう日本に帰りたいなぁ~!”と思っていた。帰ったら帰ったで、二人の生活が待っているんだけど、ここで気を遣ってすごすよりは、まだマシかなと思っていた。


“ほんとうに、うまくやっていけるんだろうか?”

美しいハープの音色に聴き入っている部長の横顔を見ながら、また、そんなことを考えていた。しかし、翌日、ますますその気持ちが強くなっていくような事件が起こった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?