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18.課題との格闘

研修アシスタントを務めた後、Sさんからの仕事の誘いは少しずつ増えていきました。
まだ、子どもが小さいこともあって、「少しずつ慣れていったらいいからね」と、月に、1~2本のペースに留めてもらい、内容は全てアシスタントということにしてもらいました。

しかし、Sさんのことだから、いつ、わたしに、どんな役割を振られるかわからないのです。
打ち合わせどおりに運んだためしはありませんでした。突然、私の名前を呼んで、発言や講義の舞台に引っ張り出されるのです。

それは、10分程度の講義だったり、研修生に対するコメントだったりと、それほど重要な役ではありません。しかし、アシスタントとはいえ、いちおう人前に立っているので、“ぎょえ!”っとも言えず、半分ひきつりながらその役をこなしていました。

ですから、出番が全然なくてチャートの張り替えや、ホワイトボードに話された内容を書く仕事だけでも、研修の間中ビクビク、ドキドキしていました。しかし、その緊張感は、次第に心地よい快感になっていきました。

Sさんの研修を見ることで、プロの講師になるためには、何が必要なのかを考えることもできました。

「机に向かって勉強するのも大切だけど、実際に現場に出て、自分の目で確かめることも大切よ。そして勉強したことは、たとえ失敗してでもいいから、実際の仕事の中で試してご覧なさい。わたしが、そのチャンスを見つけてあげるから、しっかり頑張るのよ!」

遠慮がちに立っていると、研修の帰り道や休憩時間にSさんはそう言って力強く励ましてくださいました。
しかし、優しくてあたたかいだけでなく、厳しい一面もありました。わたしが担当した役割について、必ずと言っていいほど、シビアなコメントが一つは返ってきました。

「もっと間を取りながら、話しなさい」
「講師なんだから、もっと堂々と!ぺこぺこしすぎです」

 一つクリアできても、また新しい課題が出来てきて、毎回、毎回、注意の連続でした。受講者にとっては、メインでもアシスタントでもないのだから、当然といえば当然のことです。でも、あまりにも、情けなくて、何度もその場を逃げ出したいという気持ちになりました。

しかし、それをやらなかったのは、研修講師になることがわたしの目標だったからです。

“できない!”と思う前に、“次は、できるようになろう!”
と、言われたことを何とか実践しようと努力しました。

すると、何度か繰り返しているうちに、自分にしっくりと馴染んできました。これが、『出来るようになること』なんだなと実感しました。

しかし、ひとつだけ、毎回のように注意されて、どうしても直せないことがありました。それは、「エレガントな立ち居振舞い」でした。
.マナーを指導するものにとって、必要不可欠なこのスキルを、わたしはどうしても身につけることができませんでした。そのことが、ずっと後々までコンプレックスとなって、わたしのことを苦しめていったのです。

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