102. 復帰
1ヶ月の休暇が終った。
悲しくて泣き続けたこと、居場所がなくて不安に襲われたこと、このままでは終りたくないと奮い立ったこと、そしてまた、新しい目標を見つけて歩き出したこと・・・。
たった1ヶ月なのに、何年もの月日がたったような気がした。いろんなことがあったから、そんな風に感じたのだろう。
「ほんとうに辛かったと思うけど、あのことがあったおかげで、いろいろと考えさせられたよ。仕事とか付き合いとか言って、おまえのことを気遣ってやれなかったこと。あのことがあったから、おまえのことが ちょっとわかってやれたかな?まだまだ本調子じゃないんだから、無理せずにやれよ」
そう、この休暇は、部長と私の心の距離を近づけるためにも、必要だったのかもしれない。
今までお互いに、自分自身のことでいっぱいいっぱいで、相手の気持ちをくみ取ることをせずに、すれ違いの生活を送っていた。
寄りかかりすぎるのも相手の負担になるけれど、どうせわかってもらえない!と心を閉ざしていたわたしにも責任はあった。
それを気付かせてくれるために、子どもが犠牲になったとは思いたくないけれど、いつかまた生まれてくる子どものために、お互いの心の距離を、もっと近づけていかなければいけないなと思った。
だけど、ひとつだけ心にひっかかっていることがあった。しかし、
“ほんとうに、職場のみんなは、わたしのことを迎えてくれるんだろうか?”
佐伯所長から、
「あとのことは心配ない。気が済むまでゆっくりと休むように。そして、元気になったら戻って来い!」
と言われていたけれど、本当に、みんながわたしのことを迎えてくれるのか?復帰する日が近づくにつれ、だんだん心配になってきていた。
“どんな顔をして会社にいけばいいんだろう?まず謝ったほうがいいよね。そのあと、ちゃんと仕事があるんだろうか?何からはじめたらいいんだろう?”
復帰前夜_わたしはそんなことを思い悩んで、なかなか眠れなかった。
そして、朝を迎えた。
「無理せずに、ボチボチやれよ!」
部長からそう励まされて家を出たが、足どりは重かった。だんだん会社が近づくにつれて、胸がドキドキしてきた。会社の入り口はひとつ。正面からしか入れない。
“あ~~どんな顔して入ったらいいんだ?”
とうとう玄関の前に辿り付く。すでに事務所には灯りがついて、すりガラスごしに人の影が動いていた。思い切ってドアを開け放ち「おはようございます!」と言いながら入っていった。
「おおっ!ムネちゃん、おはよう!」
それは、ごくごく自然ないつものあいさつだった。
でも、とっても懐かしい響きだった。
長いブランクが、その言葉で埋まったような気がした。ありふれた、朝のあいさつだったが、心にジーンと染み込んできた。
「また、一緒に頑張ろうな!」
佐伯所長の言葉にうなづきながら、自分の机に座り、みんなの仕事振りを眺めていた。
少しずつ、仕事が回ってくる。さっきまでの不安や胸のドキドキはすっかり消えてしまっていた。
“わたしの居場所は、まだここにあった!さぁ、前を向いて、また頑張ろう!”
心の中で、そうつぶやきながら、わたしは仕事をはじめていった。