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81. 暗闇の中

年が明けると、結婚の準備も仕事もますます忙しくなってきた。
1月の終わりに式場の内見会のため、広島から母に来てもらい、部長のお母様と4人で、引き出物や貸衣装の打合せをし、2月には住む家を決め、3月16日に引越し。3月23日に実家で結納を終えた。

その間、会社では上司の定岡さんが1月に結婚をし、3月の一番忙しい時期に手術のため1ヶ月近く入院をしてしまった。ちょうど決算時期と重なって大変なときだったのに、わたしはそりの合わない先輩の倉田さんと組まされて、険悪な状態の中で仕事をすることになった。


まだまだ1人前に仕事ができないのに、仕事の内容をろくに把握もせず、口を挟み、中途半端に関わってくる倉田さんにわたしは切れまくり、1日中不機嫌な顔で仕事をしていた。こんなところを、上司の定岡さんに見られたら、烈火のごとく叱られるんだろうけど…。

忙しい中でなんとか仕事をこなし、休みになれば結婚の準備。わたしの気持ちは、休まることがなかった。


「そんなに深刻に考えなくても、今の生活の延長線上に『結婚』があると思って、気を楽に持ったらいい」

部長に相談すると答えはいつも同じだった。その部長とも、ほんとうにうまくやっていけるのか、日を追うごとに不安になってきていた。

いままでは、月のうち何度か会って過ごしていただけ。電話で話していただけ。それが、結婚が決まった頃から毎日のように準備のことで連絡を取り合い、会って色々なことを話し合っていくようになり、見えなかったものが見えてきた。

考え方が根本的に違う。性格も正反対。自分から動いてくれない・・・。けんかになることも増えてきた。「勝手にしたらいい!」と怒鳴られて電話を切られることもしょっちゅうだった。

楽しいはずの結婚の準備がだんだんと苦痛になり、新しい生活が始まることが不安に思えてならなかった。わたしが何もかも、自分の思い通りに運ぼうとするから悪いのだとわかっていた。わかっていたけど・・・。


「大変だけど、頑張れよ」とか「おつかれさま」とか、せめて一言でいいから、そんな言葉をかけて欲しいと思った。その言葉さえかけてもらえば、この闇の中から抜け出せるのに・・・。

「おめでとう。もうすぐだね」_そんな祝福の言葉が日ごとに増えていく。
「ありがとうございます」_わたしは、その言葉に笑顔で答えながらも、心の中では泣いていた。


“ダレモ ワタシノキモチナンテ ワカッテハ クレナイ・・・”

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