74.帰省
部長と結婚することを決めたものの、大きな問題が待っていた。それは、
父と母が、家を出ることを許してくれるかどうか_。
部長のことは話すには話してはいたけど、大学の写真部の部長で、いろいろお世話になっているという程度しか話していなかった。それに、ほったらかしにされてるのか、信用されているのか、両親はわたしのプライベートなことを 日頃からあまり聞こうとはしなかった。
ただ、卒業して少したった頃から、「こんな人がいるんだけど・・・」というお見合いの話をそれとなく持ちかけられたことがあったし、いつかは広島に帰ってきてくれるだろう_と思っているようだった。
二人姉妹だから、二人とも家を出てどこかに嫁いでいくんだろうと思っていたけど、まさか関西の人と結婚して、そのまま関西に残るなんて想像もしてなかっただろう。
そんな雰囲気が、話さなくてもなんとなく伝わってきていたから、部長のことを切り出しにくかった。そういう環境だったから、部長とのことも、キチンと考えられなかったのかもしれない。
ずっと家を出て暮らしていたので、経済的にも精神的にも、両親に苦労をかけているという負い目があった。
でも、いつか向き合わなければいけない問題。越えるには勇気がいる。部長と話し合った日の週末に、わたしは一人で長距離バスに乗り、広島の実家に帰った。
「めずらしいね。こんな時期に帰ってくるなんて・・・元気にしてるの?いつもろくな物食べてないんでしょ?ゆっくり出来るの?」
突然の帰省にビックリしながらも、大喜びの母はウキウキしていろいろ尋ねてくる。質素だけど、久々に食べる母の手料理はあったかく美味しかった。岡山の短大に在学している妹も帰省していて、久々に家族が揃って家の中は会話が弾み、明るく華やいでいた。
でも、その雰囲気にわたしはひとりとけこむことが出来ない。みんなの話も上の空。心の中にあるのはたったひとつ。
“いつ切り出すのよ・・・・!”
わたしの気持ちなどお構いなく、時間ばかりがどんどん過ぎていった。