7.心が痛い
7.心が痛い
「マサミさんが誰と付き合っているか知ってます?」
同じ寮で、わたしたちに遅れてあのサークルに参加した後輩のアキナが、申し訳なさそうな表情で私に声をかけてきた。
「知らないよ。マサミに、彼氏ができたの?」何にも知らず、ニコニコしながら聞くわたしに、彼女は
「タカシさんなんです。二人で一緒に歩いてるとこ、私見ちゃったんです!」
「えっ?」
彼女が、あまりにも、早口で一気に話すから、最初何を言ったんだか、よくわからなった。でも、タカシと、マサミの名前と、二人一緒というフレーズが耳に残った。
「うそでしょ。間違いだよ」
「そんなことないです!だって、二人とも最近、練習に来てないでしょ?」
“そんな・・・。誰とも今、付き合いたくないって、わたしに言ってたじゃない。なのに、どうして・・・。よりによって、マサミと付き合ってるの?隠れてそんなのしてほしくなかったのに・・・。マサミだって、どうして本当のこと言ってくれなかったの!”
タカシに振られたショックは、電話を切ったあの瞬間から少しずつ薄れていった。 わたしは、自分の気持ちを伝えたんだから、それでいいとも思っていた。
でも、別に付き合いたい人がいたんだったら、もっとハッキリ言ってほしかった。マサミだって、わかっててどうしてわたしに、告白するようにけしかけたの?勝ち目は、ないってわかってたから…?
“裏切られた。2人してわたしのことを、わたしの気持ち弄ぶようなことして…!”
でも、マサミには、それが事実かどうか、直接確認する勇気はなかった。マサミのことだから、絶対わたしのことを思って、「そうよ」とは言わないだろうし、それを確かめてますます落ち込むのは辛かった。
失恋して、初めて流す涙。それも、こんなに時間がたってこんな思いで涙が溢れてくるなんて、思ってもみなかった。
これからは、男の人のことを意識するのはよそう。友達同士で、ワイワイ楽しく過ごすのが一番!彼らと同化して、男の子みたいに振舞って、明るいキャラでいよう!
これ以上、惨めな思いはしたくなかったから、そう心に決めるのに、時間はかからなかった。
みんなで楽しく過ごした夏。日差しはだんだん翳りを見せ、季節はひと恋しい秋へと移り変わっていった。
高校3年生のタカシたちのサークル活動も、そろそろ終わりに近づいてきた。
「卒業記念に、内輪でライブをやってみないか?君、ドラム叩いてみたいだろ?」
カズマがご機嫌な提案をしてくれた。でも、ドラムって、タカシがいない状態でわたしは誰に教えてもらえばいいの?
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