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空と引き分け

「せーの」
震えた声。制服を着た二人の女の子。高い所。
飛んで行った。「バン」鈍い衝撃音。

泣いてもいいでしょうか

階段を上り続ける様な日々でした。
あとどれくらい上れば、生き永らふ事なく、死に損なう事なくサヨナラ出来るのでしょうか。
たまに身を乗り出してみても、まだ地面の模様を描ける程です。コツコツやってみます。

いつの間にか高い所まで来ていました。頭が痛いです。最期に一服と思い、ポケットをまさぐりますが、どうやら忘れてきてしまったようです。一旦取りに帰ります。そんな往復が私の日々でした。

死ぬなんて馬鹿らしいと思ってました。
自殺なんて弱さだとも思ってました。
すぐに死にたいと宣う奴が大っ嫌いでした。
でも思えば、私も生きたいとは思えない人間でした。
生にしがみつかなくても生きていける時代で、何かのきっかけできっかけなんか無くたって、自死に傾倒するのは今時難しいことでは無いらしいです。
戦時中に生まれ、祖国に命を捧げる普遍に生きたかったとさえ、最近では考えてしまいます。

世界が嫌いです。出る杭を打とうとする社会が嫌いです。故人にSNSでご冥福をお祈りするお前等が嫌いです。指で数えられる人間に愛を抱こうとする普遍が嫌いです。欺瞞的な善し悪しが嫌いです。自殺動画を平気で拡散する糞野郎が嫌いです。

また上り始めます。

寒すぎない朝が、えらく馴れ馴れしい。
こじんまりとした拝み所で手を合わせるご老人がいました。そんな事したってなんも変わんねーのに。
私が神様だったらこんな世界つくんねーよばーか。

川。水が流れる川。空を写す川。太宰が死んだ川。
死は恐怖の対象ですか。
泣いてもいいでしょうか

これからは川の沖に歩む日々になりそうです。

好きな作家も、好きな人間も、好きな映画の人物も、皆こぞって自殺する。
太宰治、三島由紀夫、巽早紀、ねこぢる、青山正明、三浦春馬、二階堂奥歯、川端康成、矢川澄子、フィンチ、ゆかちゃん。

まだまだ居たのに忘れちゃったよ。でも忘れないで。死ぬってそういう事でしょ。

太宰を想って荒川を見つめていた。
眼前の川は穏やかでドロドロしていてちっとも死の香りがしない。なんだか目がゲシュタルト崩壊を始めて、川が川であってもどっかで観た油絵の川みたいに見えてきた。芸術家とは凄い人間の状態だなと、いつかの油絵を想い感嘆したけれど、なんだか絵描きより川の方から擦り寄っていったんじゃないかなと思い始めた。
川を描いた絵描きより、絵描きが描かされた川みたいな関係性の方が素敵だと思う。

そんな朝を絵描きも川も過ごしたのかもしれない。

堤防に沿って歩いていたら、花が手向けられていた。こんな死化粧もあるんだな羨ましい。
花を見つめているのに視界は空で圧勝する。
空に打ち付けられたらどんな音がするんでしょう
誰もびっくりしない、誰も泣きたくならない、空から私に擦り寄るような、そんな朝を過ごしたい。

誰かが自殺しても、生きている幸福なんて抱けない。そこにはただ一人、自殺されちゃった私がいるだけ。

頭が痛い ポケットをまさぐる
煙草を忘れてしまったようです。

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