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ちいこきいのち

呑んだくれが吐いたげろを、一羽のハトが啄みました
酒呑みのげろです。酒気を帯びた吐瀉物はお腹を空かせたハトの好物でした

おいしい、おいしい

久しい味の濃い食事にハトは大満足
夢中で貪りました
するとそこへ別の呑んだくれが近づきました

「そんなもん食べちゃいかん」
ハトを追い払おうと呑んだくれは両手を広げて暴れました
逃げては戻り 食べては逃げる
ハトは呑んだくれとげろを何度も行き来しました

他の人間達はハトにもげろにも興味が無いのに、この呑んだくれはとてもしつこく暴れました

ハトは知っていました
人間は大きくて怖いけど沢山食べ物を落としてくれるし、自分が何をしてもさほど怒らない優しい生き物だと

諦めた呑んだくれはその場に座り込みハトとげろをじっと見つめていました
余計にお腹を空かせたハトは遂にげろを平らげました

呑んだくれはげろ臭いハトに気分を害し、げろを吐きました。しかし、喉に何かがつっかえて呑んだくれはもがきながら死にました

さっきよりも少ないげろに不満だったハトは男の喉にまだ吐瀉物があると気が付きました
幸い、呑んだくれは口を大きく開けたまま死んでいたので喉に詰まった餅巾着を引きづり出すのは簡単でした

おいしい、おいしい

流石にお腹いっぱいになったハトは呑んだくれが流した水を飲み、寝床に帰ることにしました

ハトは知っていました
生き物は死んだら誰かの食べ物になると
食べられた相手の中で生き続ける事を

呑んだくれが自分の中に生きているかは分からなかったが、ハトはなんだか良い気分でした

空を飛ぼうと羽ばたくといつもより身体が重く感じました。呑んだくれが自分の中に居る様な重さでした。加えてなんだか目が回り千鳥羽で夜空を舞い電柱に当たってしまいました

地面に落ちたハトは気が遠くなるのを感じました
気持ちいい感覚に加えて吐き気が強くなりました
横たわったままげろを吐いたら何かが喉につっかえてそのまま死んでしまいました

おいしい、おいしい

お腹を空かせたネズミがげろを啄みました

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