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僕とエアコンの取り替え工事


エアコンが故障した。
タイマーの文字が常に点滅しており、エアコンが一向に動かない。
エアコンの説明書を確認すると、エアコンに異常があるとタイマーの文字が点滅すると記載されている。

電気屋さんに修理を依頼し、エアコンを見てもらうが、そんな時に限ってエアコンとしての性能を遺憾なく発揮するのである。

困った子だ。僕みたいにそんな所で見栄を張る。

「すぐにバレるから止めとけ」と心の中で念じる。

しかし、一向に運転を止めない。そんな様子から、電気屋さんは「故障していませんよ、正常です」と言い残し現場を後にする。
電気屋さんが帰ってから、
間もなくして異常ランプが点滅し、起動しなくなった。

「ほら、見たことか、無理をして取り繕うとするからだ」とエアコンに声をかけた。

就職活動の面接で見せた僕の姿と入社後の姿が異なるように、
エアコンも姿を変えてきた。今年は6月から真夏日のような日々が続き、
故障したエアコンと共に過ごすには乗り越えられる気がしなかった。

3月末に3年間という短い会社員生活にピリオドを打ち、4月からイラストレーターとしての活動を始めた。2024年に30歳を迎える中での決断となった。


少し自己紹介をするが、
私の20代は明らかにレールを外れて歩いていた。
20歳を過ぎた頃に、交番で働く警察官としての役目を自ら捨て、

「俺、漫画家になる」

と痛々しい言葉を元職場に言い残し、ニートとなった。

警察官を辞めて良かったのかなと思うことも時々あるが、辞めたから今の自分があるんだよとセルフカウンセラーの僕が語りかけてくれる。

漫画家を志し、少年誌の編集部へ持ち込みをするも、特にこれといった事も言われず、その場限りの出会いとなった。ここで奮起し、再起を図ればいいものの3ヶ月かけて描き上げた作品が5分足らずの対応で終了したショックで漫画家になれる気がしなくなった。その後、漫画を描かないただのニートとなってしまった。

警察官を辞めて半年を過ぎた頃、家族から大学進学を勧められた。当時は将来への不安も大きく先が見えないため、大学進学すれば人生の起動修正をできると思い、受験勉強を始めた。

絵を活かせる大学に行きたいと思い、
美術系の大学へ照準を合わせた。
力量を知るために、武蔵野美術大学の一般入試に申し込んだ。
大学進学をすると決めた時期は年末で、センター試験の出願が間に合わず国公立大学を受験することができなかった。そのため、武蔵野美術大学のみ受験をしたが、案の定不合格となる。良かったことは、美大受験をする人たちや大学の雰囲気を記念受験で知ることができた。
それからデッサンと受験勉強をコツコツと始め、富山大学芸術文化学部に入学した。卒業後は富山県にある会社に入社し3年勤務した。

そして今に至る。

少し自己紹介と言ったが、長くなってきたので後半は割愛した。
これは別の機会にまとめてみようと思う。

話を戻すと、イラストレーターとしての活動を始めた
訳だが、4月は会社員生活からの開放感で、
のほほんとした時間を過ごすダメダメな時間を送っていた。流石にこれでは良くないと、
営業活動やとりあえず絵を描き続ける日々を送っている。

故障しているエアコンは買い替える事にした。

日常生活への支障と家での作業がメインのため、
流石に暑さに耐えられなくなった。

そしてこの文章を書いているのは、エアコンの取り付け工事をしている最中の事である。取り付け工事で、電気屋さんが家の中にいると、これほど手が動くのかと驚きながら作業を進める。

それは恐らく、緊張感が高まっているからだ。
電気屋さんに「平日から家にいてこいつは何をしているんだ」と思われているのではないかと考えながら、作業を始めた。

最初は絵を描いていたが、人の気配が気になり、ほとんど描けないため、文章を書く事にした。
キーボードを叩いていると、仕事をしているように見えるのではと、浅ましい動機も少し含まれていた。

大まかな内容を書き終える頃に電気屋さんから
「取り付け完了したから確認してください」と爽やかな声で話かけられた。

「これで、快適な生活を送れますね、それとエアコンは大体10年が取り替えの目安なのでまた時期が来たら取り替えの事考えてくださいね」

と続けて言ってくれた。

10年か、

10年後の僕は何をしているのだろう。

絵を描き続けているのか、

それとも収入に繋がらない絶望感から逃げ出しているのか。


新しいエアコン君、君と過ごす10年間はどうなるのかな、楽しみだ。

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