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散歩をしているときの脳内

散歩に行こうかと思う。

今日は大学へ行き、授業が終わった後にちょっとだけ映像編集をした。

それが終わり、東西線で最寄り駅まで運ばれて、「まいばすけっと」を2店舗通り過ぎる奇妙な帰路についた。

まあそれなりに授業や編集などで頭は使ったが、振り返る価値のあるようことは無かった。思い返せばここ3日くらいそんな日々を送っているような気がする。4日前は確か嬉しいことがあったが、効き目はとっくに切れていた。そして5日前を振り返るほど、今の自分は悠長ではなかった。

この大学から帰って適当な時間の使い方をした後の20時過ぎ、いつも焦りが出てくる。今日何もしていないじゃないか、という焦りである。

来ると分かっていた焦りを感じたその時、すぐに散歩をしようと決めた。自問自答をしなければいけないという衝動に駆られたためである。
自問自答なら自室でもできるが、狭い部屋の中での自問自答をしているとどうにかなりそうになる。見慣れた壁に囲まれていると一生ここから出られないような気がしてくるのだ。
また、歩いた方が自問自答も捗る。これは受験期に参考書を歩いて読んだ方が頭の中に入る、アリストテレスも悩んだ時にはよく散歩をしていたと受験指南的な本で読んだためである。結局一般受験はしなかったし、その本はいつの間にか失くした。

始まりかけていた自分への質問攻めを打ち止めにして、荷物(財布、スマホ、モバイルバッテリー、カメラ、イヤホン)をサコッシュかズボンのポケットに入れて靴を履き、夜の街へと繰り出した。

夜の街へ繰り出すつもりだったが、外に出てもただの住宅街が広がっているだけだった。住宅からでてきただけだから、当たり前である。

まずどこへ向かうかを考える。大抵は駅に向かう。そうでなければ家の近くの線路沿いを歩く。どちらへ行くかは完全に気分だが、なるべく他人を目にしたいという気持ちがあるため駅へ向かうことが多い。

目的地を決めて歩き始めてから、すぐにTwitterで「散歩をしている」という内容のつぶやきをする。こいつはどうしようもないな、という気分になりながら。
散歩をする僕の儚さを知ってほしいのだ。散歩をする癖に孤独に強いわけではない。何なら孤独が怖いから散歩をしている。そんなやつ別に儚くとも何ともないのだけれど。

そしてツイートして、その指を流れるようにApple Musicへと進ませる。radikoの時もあるが、音楽を聴くことの方が多い。

散歩をしている自分の映像のBGMを、なるべくセンスのあるものにしておきたい。僕の散歩を収めたDVD「歩く歩き」がリリースされた際に、その映像を見る人が僕に好印象を持ってほしい。良い映像だと思ってほしい。そんな人物はもちろんいないのだけれど。というか映像化もない。


音楽が流れ、いよいよ散歩がスタートする。

まずは夜の気温と音楽の良さを全身で味わう。これが散歩の醍醐味である。
ちょっと涼しいくらいの今の時期、本当に夜風が気持ち良い。
全身にある季節を感じるアンテナが活性化しているのを感じる。

そして耳からシンセとラップが魅力的なあの曲のイントロなんて流れてきた時には、この星で命を授かったことに感謝すらしてしまう。
母なる大地と母と父、いつもありがとう。どうか今日も穏やかに眠っていますように。大地は動きながら休めるものなのだろうか、危なくない程度に居眠りしてほしい。


そんな風に夜を楽しみながら、歩いていると自問自答が始まる。

今日の動画編集いい感じだったな。割とオーダー通りの映像ができていっている感じがする。早くみんなに見て欲しい。褒められるだけそれを褒めてくれ。感銘を受けて、時間を割いてくれ。考察してくれ。
休みの残機を持て余している人、ぜひ検討をして欲しい。

しかしもう少し編集ソフトについて勉強しないといけないな。今はやれることが限られていて、制作している中で歯がゆいと感じることが多い。翼が欲しい、もっと映像でもって自由に羽ばたきたい。残りの夏休みで勉強したい。

でも、動画編集をして何になるのだろうか。
楽しいし、芸人さんの支えになるし、少しだけお金にもなるじゃないか。いやそうではなくて、人とのつながりの話をしているんだった。僕は今孤独を感じている。思えばここ最近のテーマは孤独の解消だった。

ノートパソコンのボタンをテンポよく押したところでそれが解消されるのだろうか。多少それによって広がった繋がりもあるけれど、基本は孤独で承認欲求の満たされ方に不満を抱いている。
多くの大学生のように、いや多くの人間のように、もっと人間と依存をして生きていった方が良いのではないか。人のおかげとか人のせいにする生活を導入した方が良いのではないか。

そんな中、路上で男女がキスをしているのを見かける。路上というか駅前の商店街。駅は近いものの、こんな時間では終電ももう残っていない。
正直最高だと思う。別にその行為を視覚的に楽しんでいるというわけではない、恐らく。

僕は人と人の恋愛を目撃したときに、爆破させたいとかいう衝動を持つことが一切ない。純粋に良いと思う。
こんなにも他人に恋をしてしまい、その思いを伝えることに成功し、その相手も真剣に検討をした末承諾をして、今のこの光景である。いや素晴らしい。そりゃ素晴らしい。これからの行く末を軽く祈ってすらいる。

いや別にそこまでの関係じゃないかもしれないが。ちょっと架空の馴れ初めを創造しすぎてしまった。実は思いついていた2人のバイト先やハマっている芸人のYouTube、田舎の実家の間取りを急いで白紙に戻す。

水曜日のダウンタウンの企画でクロちゃんがリチと付き合ったとき、感極まって泣いてしまったことを思いだす。あの二人は路上なんて比べ物にならないくらい人の目にさらされた状況で愛という正義を最後まで貫き、二人だけで最高になったのである。あの日テレビにかじりついていたロビンソンの歌詞も「この番組、私のことだ…」と呟いていることだろう。

自分の選択のせいでこうなっているのは知っている。自分の目に映る、この世のすべての事象は自分のせいだと本気で思っている。信じているとかではなく、事実そうなのだ。
中学生のころ読んだ『嫌われる勇気』にこのようなことが書いてあり、それからずっとこうである。「人は今この瞬間から幸福になることができる」のだと思っている。それ以外の内容はあまり覚えていない。割とマジで誰にも嫌われたくない。別にそういう本じゃないかもしれない。

きっとそうなれる瞬間は何度もあった。他人と一緒にいられることは何度もあった。一緒にいて欲しいと言ってくれたこともあった。
それでも友人や恋愛対象の人間と一緒にいることを拒んだりしたことがあった。急に帰ったり、行かなかったり、辞めたりした。元の道に引き返してしまった。

そういえばこの前は直進したのに、行き止まりになったことがあった。今まで他人にしてきたことにツケが回ってきたのだろう。母なる大地はよくできている。こういう人間にツケを回すシステムが整備されているんだろう。

自分のせいだと分かっているのに、その自分を変えられない。


いつの間にか駅はとっくに通り過ぎ、来たこともない公園に来ていた。
帰り道をマップで検索すると1時間20分と表示された。
こんな散歩で、僕は何を得たんだ。とっくに気づいている自分の矛盾点を改めて指摘するためだけに、足に疲労を溜めていたのか。これからまたあの道を歩かなければいけないのか。散歩なんてせず、布団の上でYouTubeを見ていたら良かった。

気が付けば、ずいぶん遠くまで来てしまった。



皆を引っ張りたいという曖昧な理由で生徒会長をやっていた中学生の頃、僕は何を考えていたのだろうか。
『嫌われる勇気』を読んでいるだけで、難しい本を読んでいて偉いと言われていた。明るい性格だと自己紹介していた。全校集会の劇でどこかの芸人さんが言っていたことをそのまま言ってウケていた。生徒会の選挙で「この学校を変えるのはあなたです!」と言って話題になった。声が大きかった。ポジティブキャラだった。

そして僕は偉いと思いながら、何か事件でも起きないかなと日々退屈だった。当時から東京の大学に行きたいと思っていた。そうなればきっと刺激の強い日常にクラクラしながら、それに酔っている自分と他人と生活を愛することができると思っていた。偉い僕にはそれがお似合いだと思っていた。

望み通り都内の大学に入ったが、お笑いサークルで滑り、自分を顧みる生活が始まった。客観視に継ぐ客観視に苦しみながら今日である。
生徒会長という地位を得て、人とのつながりに溢れた生活を送る、ポジティブな自分はいつの間にかいなくなってしまった。

でもそれは成熟のためには大切だと知っていた。当時の自分よりも現在の自分の方が思いやりがあるし、賢いし、好きだ。
実はあの日滑っていて本当に良かったと思っているのだ。そうでないと僕は今よりよっぽどエモーショナルで、依存症で、主観的だった気がする。



そうだ、結局自分のことが好きだった。



何だこんなことか、とっくに気付いていた気がする。これだけのために散歩をしていたのか。というか別に目的なんてなかった。自問自答をしなければという衝動に駆られたんだった。まあでも衝動に駆られて良かったし、思い出せて良かった。散歩をして良かった。


でも多分また忘れてしまう。自分が自分のことを好きだということを僕はすぐ忘れる。何なら今もどんどん忘れていっている。でもしょうがないんだろう。だからきっとまた散歩をする。散歩をする目的を思い出すために。





アルバムを聴き終えてしまった。まだ結構家まで距離がある。
radikoを開き、タイムフリーで三四郎のオールナイトニッポン0を聴く。
今日も過去のエピソードを振り返っている。やっぱりめちゃくちゃ面白い。

タイムフリーを消化できた。散歩をしたおかげだ。


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