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立夏 第十九候 蛙始鳴

今年は雨季入りが早いという予報が出たうえに、五月に入ってから、もうとっくに雨季ではないか?というような雨が夕方から夜にかけて降るようになりました。
それに合わせて夜になると「キヤットキヤット」と、あまり蛙らしからぬ可愛い声で鳴くモリアオガエルの仲間や、ウシガエルが歌い出し、芝生に小さな蛙が跳ねるようになりました。

とはいえ、本格的な雨季は五月下旬にやってくるもの。
そして北回帰線の内側にあるタイは年に二度天頂に太陽が至る日があり、その一回目は五月十四日と目前ですから、日差しときたら雨季に入った後にやってくる夏至の頃よりも激しく、肌はぴりぴりと痛めばまるで何か重さや圧力を有しているような存在感を日光は持ちます。
それゆえいまだ兆しのようなささやかな湿気を帯びた気団が去ってしまえば、どんな雨の後もからりと晴れて、地面や草むらはみるみる乾き、蛙たちには非情な日がもうしばらくは周期的にやってくるのが現実です。

それでも、今年はなぜか総じて最高気温も最低気温も2度ほどここ数年に比して低めです。
特に夕方、三十二〜三度の高温からみるみる涼しく気温が下がる様子は、まるで北アフリカのカスバ街道の村を思い出すような急激さで、おかげでもっとも暑い時期ながら、いつもよりは過ごしやすく、また、日の出前の気温23度前後の揮発質の冷たさを感じる静かな空気とささめく蝉の歌の中、薄くなっていく名残の星や月を見上げる空の透明さも格別です。これが、この少し不思議な天候のせいなのか、ロックダウンによって人の移動が多いに減ったことによる貴重な恩恵なのかはわかりませんが。

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とまれ、昼間は蛙達のようにそっと緑陰の反影でほのくらく、草いきれの甘い香りがする風が通り抜ける部屋の中に身を隠すように置き、日ざしが優しくなる夕暮れや明け方の冷気を楽しみながら、土が倦み孕んだ熱を天の水が洗い落としていくような雨季を待ちたいと思います。

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