ポストコロナ社会におけるダンサーの役割

ダンサーはポストコロナ社会において、どのような役割を担うことになるのでしょうか?
どのように考え、行動していけばいいのでしょうか?

著作権というものの考え方を知ることが、
ダンサーの今後について考えるキッカケになれば、と思ってこの記事を書きました。

少し長くなりますが、お付き合いください。

はじめに

著作権法というものは時代にあわせて変化していきます。

これは著作権法が
・創作者(権利者)の保護
・利用の促進
のふたつのバランスをとることを目的とした法律だからです。

著作権法はいまや万人のルール」(福井健策弁護士)

といわれるように、
インターネットが普及した現代は、
誰もが創作者であり、利用者であり、
利用することによってさらに別の創作物を生み出すような時代です。

そして、ダンサーは音楽を利用する立場作品を作る立場の両方の立場から著作権に向き合う必要があります。

それでは実際に法律を作る国会ではどのような議論がなされ、どのようにして法改正されているのでしょうか?

ちょうどいま、
「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律案」が衆議院で審議されています。

そのなかで、5月20日に行われた国会審議での福井健策弁護士の答弁が素晴らしく、感激しましたので、その答弁内容ををご紹介させていただきます。

※この記事はこの法改正案について賛成や反対を表明するものではなく、あくまで著作権について知るキッカケになることを目的としています。
特に今回の法案には「ダウンロード違法化」が含まれていますが、反射的に「#法改正案に抗議」等するのではなく、ご自身でその内容を読んで判断した上で議論していくべきだと思います。


福井健策弁護士の答弁ご紹介

福井弁護士は、芸術活動を支援する骨董通り法律事務所の代表パートナーとして幅広い活動をされている方で、僕が知るかぎりでは一番わかりやすく著作権のことを説明してくださっている方です。

実際の国会審議のビデオライブラリのなかでぜひ観ていただきたいと思った箇所をピックアップします。
(読みやすさのために一部省略や成形している部分がありますがご了承ください)


➤著作権の考え方〜ダウンロード違法化に関する懸念など

1:52:15〜 

著作権の生命線は
・新しい作品を生み出し続ける創作者を保護すること
 (つまりフリーライドから守って収入の糧、生活の糧を守る)
・既存の作品を利用して新たな創作を行うことを含めた利用を過度に制約しない、萎縮させない
この両者のバランスにあります。
このバランスラインが
保護に寄りすぎれば、コンテンツの生まれない暗黒の社会になりかねない。
自由利用に寄りすぎれば、少なくともプロのクリエイターが生きていくことは困難な社会になってしまう。(いわゆるパクリ天国)
このバランスラインを我々はいつも技術やビジネスの変化の中でギリギリで探り続けなければいけないものです。

(海賊版は)卑劣な行為です。
クリエイターの生活の糧を奪う最も簡単な方法であり、しかも正規版をどんなに充実させても海賊版とも競争には勝てません。なぜなら創作のためのコストを負担していないからです。
だから大事な自由を守るためにも海賊版は抑え込まなければならない。
私的な複製というとても大事な自由なんだけれども、
悪質な海賊版、アップロードと知りながらそれをダウンロードするのはさすがに難しいんじゃないか。それを規制しようというのがこのダウンロード違法化。
(編注:「知りながら」という部分に関しては動画の別の部分で解説されています)

なんとかバランスを取り、妥結点を探していったのが今回の改正法案かなと感じておりますので、私は評価をしております。
この段階を過ぎてポストコロナのさらなる著作権の議論を進めていかなければいけないなと思っているところでございます。

著作権という仕組みについて、これ以上ないほど、非常に分かりやすく答弁されていました。

僕が個人的に興味を持ったのはコストの負担という部分で、
ダンサーとして音楽家のコストに対してどのように負担すべきかということを考えました。

まったく負担しないというのはおかしいように感じますね。
CDや配信曲を購入する、
クレジットやリンクをつけることで間接的な手助けをする、
収入の一部が公平に分配されるようなしくみを利用する、
音楽のプロモーションに参加する、
音楽家と一緒に作品作りを行う、
自分で曲から作る、
などなど、
いろいろなオプションを状況に合わせて組み合わせ、使い分けていく必要があると考えました。

ダンサーが公正に音楽利用できる仕組みを作ることも検討したほうがいいのかもしれません。
たとえばダンサー向けオーディオライブラリのプラットフォームをつくり、
・音楽権利者はそこに登録しておけば利益分配が受けられる
・ダンサーはそこに登録されている楽曲は自由に利用できる
ようにするとか。
まぁ課題点もいろいろありますが、うまくいけば今よりはお互いに活動しやすい環境になるかと思います。

➤ポストコロナの著作権制度

0:47:39〜

今回コロナ禍で人々が外出できなくなったとき、例えば欧米のオペラ劇場は過去の高画質の舞台映像を無料で配信するということを直ちに始めて、出かけられない人々に力を与えました。
しかし、日本のライブイベント界はそれが出来なかった。
なぜか。
権利の壁、アーカイブが進んでいなかったから、配信するコンテンツが十分になかったからです。
こうした権利の壁に阻まれることによって、過去の、あるいは現在、クリエイターたちの生きた証である作品が人々に届かない、これは大変に悲劇的なことです。
作品は人々に観られたがっています。
作品が人々に観られ、聴かれることで、そして適正な対価がクリエイターに還元される。
それこそがポストコロナの本当の著作権制度だというふうに考えるんです。


➤ライブイベント支援について

1:28:34〜 

ライブイベント支援、私も取り組んでおりますが、まさに危機的な状況です。
ご存知の通り、多くのライブイベントは他の業種よりも6週間以上早く2月26日、突然ともいえる要請を受けて、これに全面的に協力し全てのコンサートあるいは舞台公演等は、中止を致しました。
これらはそれまでも公演準備にかけられた全経費が一瞬にして損失に変わる瞬間です。
チケット代は全て払い戻しをしておりますので、すべてが損失になり、
最近行った緊急調査によれば、我が国を代表するような演劇団体16団体で5月末までで延べで約3000ステージが中止され、純損失が160億円です。
事業継続は困難などの回答が4割以上を占めました。
大変な状況です。
しかし今のところ正面からの保証というものは行われません。
政府が正面からの保証を行えないことはよく理解しました、しかし
倒産するものは倒産します。
もし日本を代表するようなライブイベントの団体が潰れれば、それは必ずや中小・フリーランス全てに波及します。
これを放置して、それをコンテンツ立国と私は呼ばないと思うんですね。
彼らには緊急の支援が必要です。
今現在潰れてしまった公演の後始末のために奔走し、資金繰りのために奔走し、秋からの再開を信じて講演準備のために奔走している彼らは休業などできません。よって雇用調整助成金は一銭も降りてません。
その10億単位の損失は100万200万の持続化給付金では残念ながら焼け石に水です。
これを何とか救ってあげていただきたい。
必ず人々が立ち直ってコロナ後の社会を築いていくために必要な存在なはずです。
ありがとうございます。 

要請を受ける直前の2月22日、僕はBallroom Expressという舞台に立っていました。
要請前に公演を行うことが出来た最後の週末です。

この公演によって、僕は社交ダンスの舞台作品に初めて出演するという経験が出来ました。
そして、社交ダンスの可能性をあらためて感じることが出来ました。
この公演は僕の中で非常に大きな存在となりました。

もし、この公演が開催不可になっていたら…

公演中止になってしまった舞台に携わられていた全ての方の心中は察するに余りあります。

また、次の週末に幕張で行われる予定だった、スーパージャパンカップという競技ダンスの全日本戦に向けての練習も並行して行っていました。
しかし、残念ながら、大会は中止となりました。

その大会で引退を考えていた選手や
初めて選抜に選ばれて、その大会での作品発表を心待ちにしていた選手もいると聞いています。

このような経験があったので、
福井弁護士の国会答弁の内容は非常に心に響き、涙しました。

ダンス界の未来のために、今できることをしっかりやろう。

と決意を新たにしました。


官公庁の資料リンク

(文化庁サイトの埋め込みリンクが何故か貼れないので通常リンク↓)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/


まとめ

オンライン化が進む今後、ますますダンサーのクリエイターとしての活動が増えていくと思います。

そういった状況のなか、
ダンサー自身が
音楽などを利用する立場
それを利用して新たな作品を生み出すクリエイターとしての立場
このふたつの立場から著作権というものを考えていく。

興味を持って調べたり、議論を交わす。

そういったひとつひとつの行動が、
ポストコロナ社会においてダンスはどのように貢献できるのか、ということを考えるキッカケになると思います。

どうか難しい問題だと目をそらさずに、少しでも考えを巡らせてみることから始めていきましょう。

少しでもそのお手伝いができれば、と願ってこの記事を書きました。


ダンサーたちの輝ける未来のために!

――――――――――――――――――――
【 ダンサーのための著作権プロジェクト 】
――――――――――――――――――――

ご意見・ご感想などは
公式Twitterアカウント(https://twitter.com/DancerCopyright
  もしくは
dancers.copyright@gmail.com
までお願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?