産後ケア

一日中泣いて手が付けられない子に比べたら大したことないだろうけれど、
うちの子供も生後3週目ごろから、
朝からずっと寝なくてあやし続けなければいけない日が増え始め、
疲労困憊して心折れていた。

授乳してお腹いっぱいにしても寝ず、
外の世界に興味津々で、
そのくせしばらく経つと飽きたか寝れないかで泣き出した。
一度泣き出すと落ち着くのが大変で、
抱っこして狭い家の中を数十分歩き回り、
ベッドに置いてしばらくするとまた泣くのを永遠に繰り返した。

そんなとき、自治体の産後ケアが受けられると聞いていたので
行ってみることにした。
私の入院した産院が自治体の産後ケア施設に登録されていたので、
馴染みの電話番号に電話すればよかった。とても歓迎された。

朝から夕方まで子供と母を労わってくれるということで、
当日の朝に現地に向かった。
産院の隣にある戸建てのような場所だった。

「お待ちしてました」と保育士さんに招かれ中に入る。
「新生児の赤ちゃんが来ると聞いて楽しみにしていたんですよ」

そこには既に3名の先客がおり、
なるほど、おぎゃあおぎゃあとステレオで泣く。
「隣の子は4か月だから少しお姉さんかなー」
「ちょうど人見知り場所見知りで」

隣の布団に寝かせた我が子は一回りも二回りも小さく見えた。
泣きじゃくるお姉さま方につられて騒ぐかと思いきや、
ストンと寝静まって動かなかった。
施設の説明を聞いている間も、なんだか全然動かなかった。

数時間の預かりの間、母は別室で休息した。
託児スペースからは常に誰かの泣き声が聞こえ、
保育士さんが一人で何人もの子供をあやしていた。
スポーツみたいだった。

ふと泣き声のする方を見ると、
おぎゃあおぎゃあと泣いているのは変わらずお姉さんたちである。
その中で小さくふぎゃあと蚊の鳴くような声が聞こえ、
それが我が子だとすぐにわかった。
小さな身体でミルクをねだっていた。

「朝から本当によく寝て、起きてきませんでしたね」
「でも家だと全然寝なくてよく泣くんです」
「家だとリラックスして甘えられるのかもしれないですね。ここにいるときに泣いてくれたらみんなであやせたのに。圧倒されたかな。」

この世に生まれて数週間、
我が子は外界のすべてと闘っている。
この小さき天使を見ていられるのも、あとどのくらいだろう。
腕の中で寝落ちした顔を、あと何回見られるんだろう。

疲労困憊するのは、もう少し後でもいいような気がした。
もちろん月齢を重ねたら重ねただけいろいろな貴重さがありそうだけれど、
新生児期は1か月しかないのだ。

その夜、家に帰ってきた我が子は、
いつもになく鋭い声でぎゃんぎゃん泣いた。
私は夜が明けるまでそれを眺めていた。

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