息抜きの外出
「子供を見ておくからリフレッシュしてきなよ」
と夫が突然言うので、2時間ばかり時間ができた。
出産後、近くのスーパーにちょっと買い出しに行ったりはしていたけれど、
生活に関係ない外出は初めてのことである。
予約も何もしていなかったので、
とりあえず隣のターミナル駅まで行こうと思い、
最寄り駅まで歩いていく。
駅前のロータリーをふと見ると、
ストリートピアノが空いていた。
半年前に引っ越してきてから、
近くに音大があることで有名なこの街のストリートピアノは
いつも旋律であふれていた。
お年寄りから小さな子供まで、上手い人も普通の人もいたけれど、
みんな一生懸命に丁寧に旋律を奏でていた。
(楽譜を持ってわざわざ弾きにきている人もしばしばいた。)
自分も少しピアノを弾くので、
いつか練習してあそこで一曲弾ける人になりたいと思った。
この日は平日の昼間だったからか、辺りは閑散としている。
私はピアノに近づいて、蓋を開けてみた。
勝負曲があるわけではないので、和音をいくつか弾くと、
重厚感のある振動が身体の芯に響き渡る。
ぶおーん、ぶおーん
さらに大きな音で鍵盤を叩く。
ピアノの木材全体が震えて何かに誘われているようだった。
あまりにもレパートリーがないのでストリートピアノは早々に後にして、
その足で隣駅の楽器屋に向かった。
昔のようにキーボードの試奏をすると、時間が飛ぶように過ぎた。
家に帰り、気合いを入れて玄関のドアを開けると、
夫の隣で子供はすやすや眠っていた。
いつも少し子供と遊んで部屋に戻ってしまう夫は
実はこんなに自然に子供と戯れられる人だったのだ。
平和な空間に拍子抜けした。
後から実感したが、いざというときに頼れるという事実だけで、
こんなにも心が軽くなるのだ。
そのあとすぐに部屋を片付けて、
しまい込んでいたキーボードを弾けるように配置した。
音を鳴らして、4小節くらい作った。
いつかこの一瞬を曲にするために、
私は今を生きている。
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