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2022夏期 授業法研究ワンデイセミナー 質問とその回答

ワンデイセミナーにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
事後アンケートでもとても良い評価をいただき感謝しております。
今後ともよろしくお願いいたします。

さて、いただいていた質問の回答を徒然と書いていこうと思います。なお、ご質問は原文ママです。
すべての質問にお答えしているわけではありませんが、ご了承ください。

数学の内容に関するご質問

Q.解答の記述の仕方について,どのように生徒に指導してよいかわからないので,基本的なところから教えて欲しい。

A.自分が考える記述答案の書き方の基本は「操作ではなく理由を書く」だと思っています。
よく「両辺を2乗すると」という記述が見られますが、採点者からすれば次の式が2乗された結果であることは見れば分かります。
そんなことより、2乗しても同値であることの保証として「両辺ともに0以上なので」などの理由が大切です。
結局のところ、このようなことを理解していないと『同値変形』ができないから解けなくなってしまうのだと考えます。

Q.12番の問題のような軌跡の問題で,普通(?)は交点を求めて,パラメータを消すという作業をする生徒が多いと思うんですが,「交点を求めない」という視点を持たせるためにはどのように指導をしていけばよいのでしょうか?

A.今回のセミナー(とくに第3講)でご理解いただけたでしょうか?
数学は「言葉で言われた条件の数式化」がとても大切です。

難関大対策についてのご質問

Q.東大や京大,東工大などの難関大学の入試問題で解けない問題があります。
この場合,教員はどのような学びをすると解けるようになるのでしょうか。
生徒が入試を突破するためには全問解けなくても良いと思いますが,教える側としては,もう少し自身の学力向上を図りたいです。
大山先生がされている学びや,過去にしていた方法などありましたら,お教えください。

A.教師も神様ではないので、すべて解ける必要はないと思います。自分も解けないことがありますし(苦笑)
ただ、毎年多くの入試問題に触れ、それをどう解説するか、とくにどうやってその解法にアプローチするかを考えることが大切なのだと考えます。

Q.東大・京大などの難関大学の指導を初めて担当させていただいており,自分自身がまだ勉強不足であり,日々試行錯誤しながら進めているところです。
指導の観点としてもれなく伝えられているか,指導時期は適切か,偏りなく扱えているか、などいろいろ悩みが尽きません。
難関大学指導をされる上で,実践されてきたことなど,今後の参考にさせていただきたいと考えておりますので,ご助言いただけますとありがたいです。

A.ひとつ上の質問への回答と重複する部分以外を答えますと、難関大を志望する生徒であっても、基礎がきちんとできている生徒は稀だと思います。
1学期から夏にかけては基礎の徹底・基礎の精度を上げることが大切だと考えます。
レベルの高い問題を扱うときでも、すでに学んだ基礎とどう繋がっているのかを意識できるよう学習させることが重要です。
この段階をクリアできれば、指導者が悩まなくても生徒は勝手に伸びます。

Q.いわゆる「捨て問(難しすぎる問題など)」を授業で扱う価値はありますか?

A.上位層には「あり」だと思います。
試験会場では捨てるべき問題(時間の都合など)も、日々の勉強の一環としては時間をかけて深く考えるトレーニングになったり、新しいアイディアに触れられたりと、有効な場合が多いです。

学力下位層への対処についてのご質問

Q.生徒にやる気を出させるには,どうしたらいいですか?
「覚えればいいんですよね?」という生徒へ,どう対応したらいいか。

A.学校では予備校以上に様々な生徒がいて大変だと思います。
まず、「やる気」についてですが、正直に言って、高校生にもなって他人にやる気を出させてもらおうという他人任せの甘い考え方を持った生徒の相手をしている場合ではないと思っています。
ただ、そのような生徒でも「分からなかったことが分かるようになる面白さ」を感じてもらえれば、少しは変わるきっかけになるかもしれません。
次に「覚えればいいんですよね?」という生徒には、今回扱ったような問題を出してみればよいのではないでしょうか?

Q.同じ教室に上位の子も下位の子もいる場合,両者にとって満足度の高い(得るものが大きい)授業をするために意識していることなどあれば教えていただきたいです。

A.これは学力差よりも目的意識の差の方が大きいと思います。
学力差があっても同じレベルで目的意識を持っていれば、上位にあわせた授業・教師が望むレベルでの授業を展開して問題ないでしょう。
一方、難関大を目指す生徒もいれば定期テストでなんとか赤点を免れたい生徒もいるような場合、自分は基本的には下のレベルにあわせて授業することになると思います。
もちろん基礎の徹底は上位の生徒にも必要なことですし。
ただし、上位の生徒には追加のプリントや問題演習の指示をプラスするとかしてフォローするのが現実的でしょうかね。

Q.現在高校1年生と2年生に向けて授業を行っている者です。
本校は進学校と言われるレベルの高校ではなく,多くの数学嫌いを抱えています。
最近の生徒の傾向として計算力の低下が気になっています。
授業の進度もあり基礎的な練習に時間を注ぐことも難しく,計算力を身につけさせる何か方法をアドバイスしていただけますでしょうか。

A.授業の進度を理由に、生徒を置いてけぼりにしてしまうのは本末転倒に感じます。
数学嫌いの生徒に、教科書の応用例題・発展事項をすべておしえる必要があるのでしょうか?
まったく触れないというわけにもいかないのでしょうが、そんなことよりも基礎計算の練習に時間をかけた方がよっぽど有意義だと思います。
指導者にとって大切なことは「何を教えるかではなく、何を教えないか」だと思います。

Q.すぐに答えの出る問題には取り組むが、じっくり考える必要がある問題(証明問題など)は投げ出してしまい取り組まない。どうすれば忍耐を持って取り組むことができるか。

A.昨今の世相を表している感じがしますね。
指導者側がうまくスモールステップを踏ませてあげるしかないですかね。
例えば穴埋め形式にしてあげるとか、条件を書き出す時間と条件を組合わせる時間、そして計算する時間という風にリードしてあげるとか。

授業の進め方に関するご質問

Q.授業において,教師の講義や解説と,生徒の問題演習のバランスをどのようにとればよいですか。
先生の見解をお聞かせください。
授業で取り上げる問題や教材について,先生が意識されていることを教えてください。
特に,生徒の学力に差があるクラスでは,どれくらいのレベルを意識したらよいですか。

A.まず、授業中の解説と演習のバランスですが、これは学年や扱う問題のレベルによって変わると思います。
基礎・原理の部分は何度も生徒たちに反復させることが大切なので演習の時間をしっかりとってほしいと思います。
一方、入試対策などの考え方が大切な時期では、教師が話すべきことがいくらでもあると思います。
解答途中の式変形ひとつとって選択肢がある中でなぜそれを選んだのかなど、解説すべきことが多々あるので、演習は自習でやってほしいものです。
次に問題や教材についてですが、基礎事項の習得時期においては「ひとつの問題でひとつのテーマ」を話せるように、難関大対策では「複数のテーマの組合せ」を解説できるように、そして常に『基礎の大切さ』を話せるように選んでいます。
学力差がある場合でも、目指すレベルによってどこまでは出来て欲しいかをきちんと伝えながら授業することが大切だと考えています。

Q.授業をしても,全然生徒は問題が解けるようにはなりません。
授業は分かると言うのですが,問題をひたすら解かせるしかないでしょうか?

A.生徒たちが「解法の理由」を理解しているかがカギな気がします。
ただ「解法の手続き」を覚えるだけだと短期記憶はできても、すぐ忘れてしまいます。
指導者もそのことを意識して伝えることが大切だと思います。

Q.教科書を使わずに,プリントのみで授業をする教員が増えてきているような気がします。
プリントだけで授業をすると,プリント整理ができなかったり,教科書,参考書を自分で読むことができる生徒が育たないような気がしています。
また,素晴らしい教科書があるのに,どうして教科書を使わず,プリントのみで授業するのか,私には,疑問です。
大山先生は,プリントのみの授業をどう思われますか?

A.はい、自分にも疑問です。
教科書を使わずにプリントだけで授業することに何のメリットがあるのでしょうかね?
教科書の扉ページに肖像画があったりして、その人がどんなことを研究したのか話すだけでも小一時間楽しめると思うのですが。

Q.私も数学において定義や論理が重要だと考えており,今年度の1年生を相手に学校の授業ではそれらを重視して授業をするよう心がけています。
とはいえ,試験の結果という観点から見ると,それらよりも反復練習を先行させた方が結果が出ているように感じます。
常に考えてきた問題ではあるのですが,特に数学の初学者にとっては,まずは反復練習をさせた上でぼんやりと各分野の像を掴ませ,その上で定義や論理を紹介することでぼんやりと掴んだ像をクリアにしていく方が良いのではないか,と考えるようになりました。
この点において,つまり初学者にとって数学のスタート地点である定義や論理を重視するのか,それともある公式を一旦前提としたうえで反復練習によって公式に馴染ませ,後程定義や論理を紹介することを重視するのか,大山先生のお考えをお聞かせいただけると幸いです。

A.「定義をあとから紹介する」というのが全然理解できませんが、論理にこだわりすぎると初学者にとって難しく感じるのはその通りだと思います。
その辺りはクラスの様子を観察しながらウマくバランスをとっていくしかないでしょうね。

その他

Q.オンライン授業をする際に意識していること

A.生徒の様子(ノートも含めて)が見えないことが一番の問題だと思います。
なので、話すのも板書もややゆっくりにして待つ時間を作ることを意識しています。
また、面倒な図・グラフは最初からテキストに入れておいて生徒がノートを取りやすいようにすることもあります。

Q.教科書での勉強ではなく、チャート式で勉強している生徒が多くいます。解法暗記になってしまい、成績も伸びていませんが、周りが取り組んでいるので一向にやめる様子もありません。そのような生徒には、どのようにアドバイスをしていますか?

A.どのような参考書でも「使い方」が大切です。
チャート式は高1・2年生が学校の進度にあわせて基本問題の反復練習をするのには適していますが、受験生が使うのには分量も多すぎるし、初見問題へのアプローチ方法は書いてないし、論理が甘い部分も多いのでオススメできません。
今回扱ったような問題・解説を提示して、生徒自身に気付いてもらいたいところです。

Q.高校数学でのつまずきの一因として,中学校で「やり方を教わって解く」ことに慣れてしまう(自分であれこれ試行錯誤することなく)ということがあると思います。大山先生が中学生に教えるとしたらどのような点に留意されますか。

A.中学数学を教えたのはもう20年近く前になります。
そのときの記憶で言うと、中学生の試験(高校入試も含む)は1問あたりの時間がとても短く、覚えているかどうかで勝負が決まる問題が多かった印象です。
しかし、上位のクラスでの授業では「なぜ」の部分にこだわって解説していました。
「くだらない公式を覚えて短時間で解くのは試験の時だけにしろ!」
と言っていました。(今でも似たようなことを言っていますが…)

Q.数学の問題を作問するときに意識していることや大切にしていることはありますか?

A.模試などで作問するときに意識していることは
①勉強して欲しい内容を入れて
②難しくなり過ぎないようにして
③苦手な生徒でも途中までは手が出せるように誘導をつける
です。
やはり、基礎をきちんと勉強している生徒の努力が結果に結びつくような問題を作りたいと常に思っています。


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