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時空を超えたメリークリスマス作戦 エンディング その5

時空を超えたメリークリスマス作戦のエンディングSSの5個目。上毛ヨシコ、イロハ、神室会長、南野ちゃんです。

上毛ヨシコのクリスマス

上毛ヨシコは地味を愛する少女である。クリスマスの今日も目立たないように道のはじを歩きながら登校している。派手なことは苦手で、だからイベントの時は殊更気配を消して日々を過ごしていた。

バレンタインやホワイトデーの日は欠席し、試験では上でも下でも名前を張り出されない順位を計算してコントロールし、クラスの係は美化係という、掃除の時間があるのだからほとんどやることのない係をしていた。

それでも、何故か水前寺南野に気に入られており、何かというと前に出る役を『極秘任務』として与えられるのだ。

「はあ、なんであんなに目立つ人が私なんかに…」

特に昨年のヤオヨロズ勧誘ビデオは、今思い出しても赤面してしまう。

大山ガミ君と2人で高笑いしてヤオヨロズのすごさを伝えるという台本だったのだが、『ヤオヨロズ1のゴージャス美人』とか言うセリフがあってクラクラしてしまった。ひどい。

何とか撮り終えたけれど、しばらくは目立ってしかたなかった。

「あら〜りんごちゃん、おはようございます〜」

「あ、市原さん…おはようございます…」

上機嫌で歩いてきたのは市原紗綾だ。

(この人も南野さんとは別の意味で目立つ。特に上半身。というか、胸がすごい目立つ。私がリンゴなら、メロンかスイカ…)

「今日はクリスマスですね〜あら、そのクマさん、今日はサンタさん仕様なんですね〜」

「あ、これは…その…」

とっさに通学カバンにつけているクマのキーホルダーに手をやる。いつもはただのクマだが、今日は赤と白のサンタ帽をかぶっていた。

「もしかして誰かからのプレゼントですか〜?」

「え…いや…その…」

市原紗綾はたまにやたらと鋭い事がある。そう、このサンタ帽はクリスマスプレゼントだ。

誰かは分からない。

朝起きたら枕元にプレゼントボックスが置いてあった。

メッセージには『人気投票3位おめでとう』なんの事かはまったくわからない。

でも、なんだか心が暖かくなって、お気に入りのクマのキーホルダーにかぶせた。

正直に答えて変な噂になっても目立ってしまう。ただ…

「はい、クリスマスプレゼントです。とても…気に入っています」

嘘をつくのも誤魔化すのも嫌で、素直に答えることにした。

「そうですか〜とってもかわいくて素敵ですね〜」

「…はい。ありがとうございます」

そのまま2人で登校する。学校に近づくにつれて、通学路の人も増えてきた。

上毛ヨシコは地味を愛する少女である。派手なことは嫌いというより苦手だった。

それでも、誰からも見られたくないわけではなかった。

存在を無視されたいわけではなかった。

誰かが見ていてくれる。誰かはわからないけれど。

それが、彼女の今後の人生の大きな力になっていくことになる。

[上毛ヨシコに、『カバンについている熊用のサンタ帽子』を届けました]

イロハのクリスマス

山田は夜中にイロハからの緊急コールで目を覚ますと、3秒で支度し、イロハの部屋に飛んで行った。到着まで30秒かからない早業である。

「イロハ、入るよ!」

イロハは最近寝込みがちだ。顔色も悪く、食も細っている。何かあったのかもしれない。焦るように扉を開けると、そこには大きなくまのぬいぐるみを抱えた、イロハが座っている。

「山田、見て。サンタクロースが来た」

「サンタクロース?」

「山田、さっき来たサンタクロースは、頭を撫でていった気がする」

「そうなの?」

「このぬいぐるみは少し監察官の匂いがする」

「そうかな…?」

山田は、くんくんと鼻を動かしてみるが、新品のぬいぐるみの匂いしかしない。

「おかしい。監察官はサンタクロース?でも、昨年は監察官もクリスマスにいた。アリバイは成立している」

「アリバイって犯罪者じゃないんだから…」

その間もイロハはクマのぬいぐるみに抱きついて離れない。

「山田…」

「ん?なんだい、イロハ」

「今年もイロハはいい子にしていたから、サンタクロース評価はA。来年もいい子にしていたらサンタクロースは来てくれる?」

「そうだね。ちゃんと好き嫌いせずにご飯を食べて、運動して、元気になったらきっと来てくれるさ」

「ニンジンとピーマンは拒否権を発動する。それ以外は善処する」

「ニンジンもピーマンも食べなきゃダメ。そのかわりデザートつけてあげるから」

「山田は政治がうまくなった。しかたない。それで手を打つ」

「さあ、まだ朝まで時間があるから。もう一度おやすみ」

「うん」

イロハはごそごそと布団の中にくまのぬいぐるみと一緒に入った。山田が掛け布団を整える。

(監察官殿、どこで何してるかわかりませんけど、来年も来てくださいよ)

[イロハに、『大きなクマのぬいぐるみ』を届けました]

神室友美と水前寺南野のクリスマス ②

「さて、お腹も満たされたし、残りのプレゼントチェックといこうか」

「うん、次は…なんだろ。ちょっと固くて重いような…」

神室友美が箱を振るとガタガタと音がする。そこそこの重みがある品のようだ。

水前寺南野は、おやつの空き箱を片しながら怪訝な顔をした。

「ええ?本当に爆弾とかじゃないでしょうね?」

「スティーブ君がチェックしてるから大丈夫だよ、よいしょ」

リボンをとってボックスを開くと出てきたのはBPチャージャーだった。

「あ、BPチャージャーだ。久しぶりに見たね」

「あー委員長が好きでガクガク揺れながら使ってたよねー」

「うーん、好きだったのかわからないけど、夜中のBPチャージャーは効くって言ってたね…あ、ナンノちゃん、見て!」

BPチャージャーをひっくり返すと、『勝利の証』と彫り込まれていた。

「あーそういえば、これ委員長が皆に彫り込んで渡してたねー」

「うん、あの休戦からもう半年以上たっちゃったね」

「まったく。あのバカは。こんな美少女JKたちを放っておいて何処をほっつき歩いてるんだか」

机の上に置かれたBPチャージャーを見て、なんとなく黙り込む。

「ま、とりあえず、プレゼントを開けちゃおうか。あんたのはそれで最後でしょ」

「うん。えーと、衣料品て書いてあるね。なんだろ……わぁっ」

中から出てきたのは着物だった。鮮やかな青のグラデーションに上品な銀を基調とした帯。小花を連ねたような簪も入っている。

「な、ナンノちゃん!」

「うわーこれは随分高そうだねー」

人工人間である2人には、戦争にも日常生活にも関わりの薄い着物の知識はインストールされていない。それでも高そうだと思うくらいには高級感のある着物だった。

「いやーこれはジジイども泣いて喜びそうじゃん。年始に挨拶に行く時着て行って、お年玉ふんだくってやろうよ」

「ナンノちゃん、それは酷いよ…あ、ナンノちゃんのほうにも衣料品て書いてあるボックスがあるよ」

「ほほー、これはW美少女JKの着物初詣だね」

水前寺南野は隣に積んであったボックスを開ける。

中から出てきたのはギリースーツだった。渋い緑のグラデーションに所々焦げ茶色を基調とした枝パーツ。全身を隠せるようにフード部分にもかぶる為のネットが入っている。

なお、ギリースーツとは、山岳や密林などで兵士を隠蔽するための装備である。もっさもさの葉っぱや木が沢山ついており、かぶると景色と同化して発見されづらくなる。またもっさもさなのでマンシルエット(人の形)を隠すことができるのもポイントだ。なお、これを使う時は顔部分には泥を塗りたくったりして肌の色を隠すことになる。

「な、ナンノちゃん!」

「これは…これも随分高そうだね…」

人工人間である2人には、戦争に関わりの深い装備類の知識はインストールされている。だから、これがギャグで送るには高すぎると思うくらいには高級な装備であることは分かった。

「作戦変更。友美がジジイどもをヘラヘラさせてるところに、私がこれで隠れて麻酔銃で眠らせる。それでお年玉をふんだくる」

「ナンノちゃん、それは酷いよ…」

「まあ、それは冗談だけど、このセンス。やっばり委員長だよね」

「うん、このセンスは委員長だね…悪気はないと思うよ」

「うん。わかってる。心配性だったしね……さて、次の箱を開けてみようか。大きい順に」

次の箱の中に入っていたのはヘッドセットだった。音質がクリアで低音の響きと高音の伸びがよく聞こえるほか、何種類かのモードと細かいチューニング機能があり、自分の好みにあわせられる。ダクシス謹製の高級機種だ。

「おおーこれいいじゃん。欲しかったんだー」

「良かったね、ナンノちゃん!」

「島根じゃなかなか手に入らないからねー」

「うんうん」

「次はっと…あ、にゃーんだ!」

出てきたのは猫のワンポイントが入った手袋だった。かなりしっかりした作りで、ワークグローブとしても使えそう。

「わぁ、可愛いね」

「ちょうど整備の時に使ってたグローブがボロボロだったんだよねーでも、作業用につかうのはちょっともったいないかも」

「そうだね。よし、今日からにゃーんはうちの子だぞー先輩のにゃーんとも仲良くするようにね」

「そっか、ナンノちゃんの家、猫飼ってるんだっけ」

「そうだよ、元ノラだけどねーでも最近ちょっと太り気味でさ…」

「いいなあー私も見てみたい」

「あ、じゃあ今度うちおいでよ」

「うん、お土産もってお邪魔するね!」

「ふふっ、楽しみにしてる。さて、次でラストかな」

最後のプレゼントボックスを開けると、そこには1冊のアルバムが納まっていた。

中には2041年の日々の写真が入っている。

「うわ、アルバムじゃん。懐かしい」

「あ、これ私が最初に宣戦布告の放送した時だ」

「あの頃あんたよくお腹壊してたよね」

「私だって緊張してお腹痛くなることもあるよ」

「わかってる。あ、こっちはおイモ食べてる友美の写真だ。こっちは、フラチキ??なんか、友美の写真多くない??私のプレゼントだよね?」

「なんか食べてる写真たくさん撮られてるような…」

ペラペラとアルバムをめくる。石巻、淡路、川崎…様々な場所での思い出。

「あ、これは物資が大量に手に入った時のやつだ」

「ナンノちゃん嬉しそうだね」

「それまで貧乏だったからねー」

「うん、まあそれで自分たちの戦いがうまくできなくなっちゃったんたけど…」

「まあねーいまも貧乏に逆戻りってね」

「あ、これは海だね、楽しかったな」

「こっちはハロウィンかー懐かしいね」

「ナンノちゃんのいたずらの後始末が大変だったんだからね」

「ごめん、ごめん」

そして、最後のページには、休戦記念の日の写真が貼ってあった。

カスミガセキとダクシスに一撃を加えて、皆でバラバラに島根に逃げる前に撮った1枚。

これが委員長が写っている最後の写真だ。

「ほんと、どこにいるんだろうね」

水前寺南野が、そっとテーブルの上の写真に触れた。

「元気にしてるかな。風邪ひいたりしてないかな」

神室友美も同じように写真に触れる。

「大丈夫でしょ。アイツ、そんなにヤワじゃないしさ。きっとふらっといつか、戻ってくるよ」

「うん」

「さあ、プレゼントもチェックしたし!クリパの準備しよ!せっかく戦争で悩まないでいいんだし、パーッといこうよ」

「パーッとってなんかオジサンみたいだよ、ナンノちゃん」

「お、言ったなーふっふっふー」

その日行われたクリスマスパーティは、またもプレゼント交換したものが全員自分に戻ってくるというハプニングもありながら、大いに盛り上がった。

そして、その時の写真も追加されたアルバムは生徒会室の棚に大切に保管されることになる。

[神室友美に、『勝利の証と彫り込んだチャプター制覇時のBPチャージャー』『着物』を届けました]

[水前寺南野に、『ギリースーツ』『高級なヘッドセット』『丈夫な手袋(ワンポイントねこ)』『ヤオヨロズの日常の写真が入ったアルバム(会長の写真多め)』を届けました]

司令官たちのクリスマス

2042年12月24日。

突然現れたレーダーに映らないドローンやタンクの群れが3勢力の拠点を破壊するために出現する。

各勢力の一部の人員は、それを察知し対抗策として司令官たちを招集。

司令官たちは、プレゼント片手に現れると旧式機にも関わらず10倍以上の敵部隊を各地で撃破。クリスマスの夜を守った。

なお、本件についての記録は抹消されており、敵勢力の目的や規模は不明である。

また、時空を超えたクリスマスプレゼントは、2042年のあの世界にすべて届けられた。

メリークリスマス&グッドゲーム!

よいお年を

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