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「生えてくると言ってくれ」

「あれ?ここ円形脱毛症になってますよ?」始まりは、美容師さんからの言葉だった。

人生初の円形脱毛症

2019年の4月、後頭部に円形脱毛症が見つかった。最初は直径2センチ程度のものが一つ。そのうちすぐに治るよね。そんな風に軽く考えていた。1カ月後、脱毛部分は3つに増えていた。後頭部にもう一つと頭頂部の横あたり。その後も、シャワーをする度にひどい抜け毛だったので、さすがに怖くなってきた。

仕事の帰り、子どもを連れて皮膚科へ行った。「お母さん、ハゲてきたから病院行くわ」と言うと、子どもはそりゃ大変だと、珍しく素直についてきた。

絶対に笑ってはいけない診察室

診察室に入ると、椅子に座らされた。先生と看護師が私のハゲを気難しい顔をしながら確認している。看護師はハゲをものさしで計った後、「2センチです」と深刻な顔で医師に伝えた。子どもたちはこのコントのようなシチュエーションを、眉間にしわを寄せて真剣に見守っている。予想外におもしろい空間が誕生しているが、私はここで絶対に笑ってはいけない。できるだけ感情を無にし、深刻な顔をして先生の説明を聞いた。

「個人差がありますからね。1カ月で生える人もいるし、何年通っても治らない人もいますよ、フフッ」と先生。なぜか、最後の下りが半笑いだった。私はちょっとムッとしながら、処方された加齢臭のする毛生え薬と、飲み薬を抱えて帰路についた。

そこから、毛生え薬を朝晩、患部に塗布して飲み薬も続けたが、良くなることはなかった。最初の発見から3カ月ほど経った頃、脱毛部分は6カ所ほどになっていた。後頭部は3つの患部が巨大化してつながり、ほぼほぼ毛がなくなっていた。いつもハーフアップにして、グリップ力の優れたaccaの髪留めで隠していたので、周りには気づかれなかった。

頼もしいハゲSP(Security Police)

私は隠しごとが苦手なタイプなので、職場でもママ友にもオープンにしていた。特に仲の良いママ友には、「万が一ハゲが見えてたら教えて!」とハゲSP(Security Police)になってもらった。何人かのママは、「私もハゲてるよー」と、親切に患部を見せながら教えてくれた。過去に何度も、治ってはハゲ、治ってはハゲを繰り返しているのだと言う。やはり、ストレスと連動して出現するらしい。

4カ月ほどが経過し、ハゲは8カ所くらいになっていたが、相変わらずハーフアップで髪の毛が通る道を微妙に調整してハゲを隠しながら過ごしていた。

いつも同じ髪型をせざるを得なかったので、たまには髪の毛をおろしたい日もあった。でも、もし強い風が吹いたら?その瞬間にハゲが見えてしまうだろう。風に対してこんなに恐怖を抱くのは、私と、三匹の子ブタに登場するワラの家を作った長男の子ブタちゃんくらいだろうか。

懸念事項はもう一つあった。もし、子どもが転んだり、草むらにいる虫を見てと言おうものなら、屈む必要がある。屈んだ瞬間に髪がハラリと重力に持っていかれて、ハゲが見えてしまう。万が一そんな場面に出くわしたら、できるだけ頭を動かさないように、めちゃくちゃお上品に両膝ごと屈んでしまおう。キャラじゃないけど・・・。そんな対策を一人で練っていた。

とある強風の日、美容院で髪をサラサラにしてもらったので、髪の毛をおろして次男を迎えに行った。園庭で子供を遊ばせて、さて帰ろうと出入り口にある門の鍵を背伸びしながら外したとき、ハゲSPのママ友が全力で走ってきた。

「ちょ、ちょ、ちょっとだけ、見えてる!!」とハゲ部分を手で隠し、職務を華麗に全うしてくれた。ハゲSPのとんでもない業務遂行力とその優しさに、私もご臨終の髪の毛たちも救われた。

回復までの道のり

ほどなくして、自律神経のバランスを崩し、しばらく寝込むことになった。髪の毛は生えてこず、このまま全部抜けてしまうのではないか・・・。そんな不安が頭をよぎった。次男が卒園する3月頃には髪の毛がなくなって、ウィッグになるかもしれない。もう、マイナスなことしか考えられなくなっていた。

しかし、寝込んだことが結果的には良かった。あらゆるストレスから解放され、何にも追われることなく、規則正しい生活を送った。コーヒーもアルコールも飲めなくなってしまったので、ひたすら健康な食生活をした。日に日に回復し、体調が戻ると同時に、抜け毛が明らかに減っていることに気づいた。それ以降、髪を鏡でチェックするのは止めた。気にせずに、のんびり過ごすことにした。

初めて円形脱毛症になってから1年3カ月。抜け毛はピタリと止まり、ハゲていた箇所には、産毛がびっちりと生えてきている。美容師さんいわく、ここまできたら早いらしい。抜けまくる髪に毎日毎日悩んでいたあの頃の私。誰かに言って欲しかった言葉を今かけてあげたい。「大丈夫!生えてくるよ!」。

*あとがき*

円形脱毛症に悩んでいた頃の私は、「生えてくるよ」という一言が何よりも欲しかったのを記憶しています。今、円形脱毛症で悩んでいる方に、少しでも参考になれば幸いです。

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