Nick Drake 未発表曲解説『Tow the line』
Tow the Line
ニックドレイクの未発表曲を掘り下げる第2弾。
今回は未発表曲集『Made to love magic』の最後の楽曲である。
廃盤となった『Time of no reply』にはPink Moonの発表後に録音された未発表曲4曲が収録されていたが、本作のリリースにあたって新たな未発表曲が明らかになった。
レコーディングされたまま約30年埋もれたままだったこの楽曲は、最期のニックの状況を彷彿とさせる。まさに崖の淵にいるかのような、鬼気迫る演奏とどこか厭世的なニックのヴォーカルが聞ける。
それがこの『Tow the line』であり、恐らくこれがニックの最後の曲、遺作である。
歌詞について
拙い意訳であるが、歌詞について。
Tow the lineは一般的な熟語としては
Toe the lineが正しく、Toesでつま先という意味がある。
Towの場合でも、引っ張っていくという意味があるが、意図してToeをTowにしたのかは分からない。
私はこの最期の曲と、初期の曲に共通点があるように思う。
1st『Five leaves left』の『Cello song』や『Man in a shed』などの歌詞で既に、他者への依存傾向が見られ、ニックの歌詞には誰かに引っ張ってもらいたい意図が多く読み取れる。
『Cello song』では、過酷な世界を忘れて歌を歌って待つから、君は手を差し伸べて僕を助けて欲しい。
『Man in a shed』ではボロ屋に住む自分を、女の子に引き上げてもらうように頼む歌詞が出てくる。
もちろんニックはギターや作曲など、努力を惜しまないアーティストだったが、自分の今置かれている状況を脱するためには、他者の助けが必要だと感じていたのだろう。
何をやってもだめなんだ
死を迎えるまでの間、両親は日ましに弱っていくニックを支え続けていた。
「何をやってもだめなんだ」
母親にそう話し、自分の存在さえ過ちで、何も自分は成し遂げられないのだという思いは強くなっていったという。
鬱病は出口のない(ように思える)苦しみである。
自分が無価値でなんの生産性もない存在のように思え、無為に時間は過ぎていく。
出したアルバムは売れず、半ば音楽は引退状態、実家にこもって仕事もできずに音楽を聴く毎日はニックにとっても両親にとっても地獄の日々だっただろう。
いつ書かれたのかは正確にはわからず、すでに早い段階で存在していたのかもしれないが、絶望的な精神状態の中で作られたこの曲は
まさに今決心をして立ち上がるか、埋もれていくかの精神的な瀬戸際にいたという状況を感じずにはいられない。
音楽的な話
この曲のチューニングは6弦からGGDGBE
全開の記事でも紹介した「Rider on the wheel」と「Black eyed dog」と同様である。
ヴァース部分の演奏は6・5弦は解放したまま、演奏されていて
4・3・2弦はクリシェが使われており、
全体的に暗く陰鬱な低音域と、不安感を増長させる中音域の絡みが恐怖を感じさせる。
コーラス(サビ?)部分では7フレット⇒5⇒3フレットとオープンコードの特徴を活かした演奏が唐突感のある登場をする。
オープンコードでは同フレットの全弦を指一本で抑えることで簡単にコードが鳴らせるようになっている。
この箇所ではD⇒C⇒Bのコード進行が使われているようだ。
まさにここは、崖っぷちの絶体絶命の状況を表しているようだ。
そして曲のラストではだんだんとフェードアウトしていくようにヴォリュームも落ちていき、唐突に終わる。
最後のギターを置く音
演奏が終わった後に
ゴトッとアコースティックギターを置く音がわずかに聞こえる。
この音を聞くたびに、ニックはギターを置いて永遠にこの世から去ってしまったのだと悲しい気持ちになる。
これが最後の曲で、もう置かれたギターは再び音を鳴らすことはない。
もちろん本人は意図してこの音を出したわけではないが
私たちが聞くことのできる
ニックドレイクとギターの永遠の別れの音である。
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