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SWOT分析で考える #森敬斗 単独指名の是非【後編】

 こんにちは。だけんさん(inugarashi078)です。 
 前半を見ていただいた方々ありがとうございました!
 前半を見ていないのに辿り着いてしまった貴方は是非見てください。
 5600字ありますので

 さて後半となる今Noteですが、いよいよ”マトリクス表を用いたSWOT分析”と、”森敬斗単独1位指名についての是非”を考えていきますので、皆様どうかよろしくお願いします。


①前半の内容の振り返り

 「内容を忘れちゃったぜ」という方向けに簡単なまとめ画像と共に少し振り返ります。

森 スタッツ

(参考: ドラフト•レポート https://draftrepo.blog.fc2.com/)

・森敬斗 
 
今年DeNAからドラフト1位指名された、身体能力抜群の遊撃手。
 課題はあるものの三振率が低く、コンタクトに優れた打撃面には安定感があります。
 遊撃守備も身体能力を活かしていますが捕球・送球面はやや不安。U18W杯では中堅手として外野を守り、身体能力を遺憾なく発揮するなど適正を感じさせました。

note素材置き場

・SWOT分析
 SWOT分析は「Strength(強み)」「Weekness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」という4つの要素から、企業や組織の現在地を明確にして分析するためのフレームワークです。
 前半ではDeNAベイスターズの現状をマトリクス表(上の画像みたいな表)に落とし込みました。

 しかしこれではまだ「状況」であり、「分析」には至っていません。


②“クロス”SWOT分析

 では分析するにはどうすればいいかというと、マトリクス表に示されている「強み」「弱み」「機会」「脅威」という4要素。
これを互いにかけ合わせます

・「強み×機会」
・「弱み×機会」
・「強み×脅威」
・「弱み×脅威」
 上記のようにそれぞれの要素を組み合わせることで多角的な分析を可能にします。これを”クロスSWOT分析”といいます。
 ここでもマトリクス表を用いると分かりやすいです。

note素材置き場 (2)

  このように内部環境と外部環境を組み合わせることでマトリクス表に新たに4つの領域が生まれました。
 例えば、強み×機会であれば、「自分たちの強みを活かして、機会に上手く乗っていく」。
 弱み×脅威
であれば「弱みを理解し、脅威に備える。または撤退により被害を抑える」。といったようにより細かく分析していきます。
 そしてこれらの分析を戦略や方針に落とし込んでいく。というのがクロスSWOT分析の目的です。


③DeNAでクロスSWOT分析

 という訳でいよいよ前半で作ったマトリクス表を用いてSWOT分析を行なっていきます。
 全て掛け合わせていると日が暮れるので、今回の目的である「森敬斗単独指名の是非」に関連する所だけピックアップして分析しようと思います。

・“強み×機会”の領域
 「チーム全体で打撃改革をしている」
という強みは「野手ドラフトの活発化」と、「FBR普及とホームランテラス」といった「野手に長打が求められている機会」に上手く乗っていけるでしょう。アマチュア時代にパワーツールに不安のある選手も、長打を打つために必要なスイングスピードと適切なスイング軌道をデータで導く“ブラストモーション”を利用しながら長打を志向できる選手になり得ます。ホームランテラスを導入するチームが今後増える可能性を考えても、足りないパワーツールを補う育成が出来る事は近年のトレンドに合った強みと言えます。

・“弱み×機会”の領域
 「右腕スターターは心許ない」という弱みに関して「奥川佐々木森下の3本柱」といった機会は「右腕スターター不足を解消する機会」であると言えます。将来的なエースを確実視される佐々木奥川と、どの球団でも1年目からローテに入るであろう森下暢仁。この3人の誰かを獲得出来れば右腕スターター不足の懸念は解消に近づきそうです。

 一方で、「鈍足&低出塁率が占める一軍打線」という弱みと「トップクラス野手のアスリート化」という機会も「弱みを克服する機会」であると言えます。この機会に乗り、負荷があるポジションを守りながら打撃面・走塁面でバランスよく活躍出来る選手の獲得を進めていくことで、一軍打線の得点力不足の改善を図りたいところです。

・“強み×脅威“の領域
 「2軍コーチ増員」という強みは「補強市場の高騰とマネーゲーム」という脅威に対して「育成環境の底上げでマネーゲームを回避する」事が出来る可能性があります。
 マネーゲームが活発になる中で大型な外部補強が出来る球団は限られてきます。特にレギュラークラスの野手に関しては、さらなる高騰も予想されます。
 DeNAは自前選手の育成・強化に舵を切る事で、この脅威を切り抜けていきたいです。2軍コーチ増員は今年からの施作なのであくまでも可能性にとどまりますが、DeNAの球界内の立ち位置を見据えても今後有効になる可能性の高い戦略でしょう。

・“弱み×脅威“の領域
 「次世代内野手の育成失敗例多数」という弱みは「来年のドラフト市場は大卒内野手豊富」という脅威を踏まえると「今年の高校生内野手の上位指名は回避する」事も選択肢の一つです。
 来年に上位指名クラスの大学生内野手(特に遊撃手)の指名を回す事で、DeNAが弱みとしている内野手の育成コストと機会損失を抑え、余ったリソースでエース・セットアッパー格の投手や、次世代クリーンナップ候補の獲得・育成を進めることが出来ます。


④森敬斗の単独指名の是非 

 では、とうとう本題である森敬斗の単独指名の是非について、DeNAベイスターズのSWOT分析の結果も踏まえて考察していきます。

 誤解の無いよう改めてお伝えさせてもらいますが、森敬斗選手は非常に能力の高い野手です。木製バットにも対応する癖のない打撃フォームに、プロのセンターラインでも通用する高い身体能力。「野手のアスリート化」というトレンドにも合致しており、今年の候補を考えれば1位指名12人の中には確実に入っていたと推測出来ます。 
 一方、今年のドラフト会議では、奥川佐々木森下というエース級の投手、未来の大砲候補の石川といったところに高い評価が集まっていたのも事実です。
 そこで、森選手のDeNAとのマッチングと他の選手を指名した場合について考えてみましょう。

【1】DeNAとのマッチング

(打撃面)

 打撃面でのマッチングは非常に高いです。
 
上位打線に鈍足の選手が並ぶDeNAの一軍打線を考えると、脅威的な脚力を持つ森選手の存在は効果的です。
 順調に打撃面が成長すれば、優れたコンタクト能力と出塁能力を活かした、足で引っ掻き回す1番打者としての起用が望まれます。近年のDeNAでは出塁に優れた1番(2番)打者が固定出来ておらず、出塁に優れたリードオフマンとして定着することで得点力不足の解消が狙えます。データによる打撃指導により打球角度が改善される事で、2番・3番のように打線の中心での起用が出来ればより効果的です。

(守備面)

 守備面のマッチングは一長一短です。
 高校時代のポジションはDeNAの最重要課題とされる遊撃手のポジションを守っていた森選手ですが、遊撃手としての完成度は高くありません。
 身体能力は申し分ない為、プロ入り後の育成が特に重要になりますが、DeNAの”遊撃手“育成実績は芳しくありません。コーチ増員等でサポートする姿勢は見せていますが、新任コーチの田中浩康の手腕も未知数です。
 U18で守ったセンターコンバートへの道も有りますが、現在の中堅手は桑原神里というリーグ指折りの名手が凌ぎを削っています。
 両名とも26歳という年齢もあり、5年後の中堅手候補として備えるという点も悪くはないのですが、既存の若手外野手には楠本・関根をはじめとした一定の選手層があります。中堅手として起用する場合はこれらの選手を押し除けて「“大きな強み”として価値を創出出来るか」というハードルを越える必要性が出てきます。

 まとめると打者としては現状の1軍打線の弱みを解消し得るものの、プロ入り後の守備位置によっては獲得の評価が変わりうる選手です。
 現段階で遊撃手としての可能性を否定するわけでは有りませんが、本人の適正や育成実績を鑑みれば決して楽観視は出来るほど甘くもありません。
 とはいえ、DeNAが初回で指名していなければ、いわゆる「外れ1位」では重複が予想されていた選手です。
 2019年のドラフト会議で2位指名以内で遊撃手•中堅手候補の選手を指名した球団は、DeNAを除いてオリックス•広島•楽天•ソフトバンクの4球団。森下を単独で取った広島や、各球団の戦略がある中で必ず森を指名してきたとは言い切れません。以上から「たられば」にはなってしまいますが、しかし現代野球において高いニーズのあるポジション•役割であった事は伺い知る事ができます。獲得のチャンスはありますが、「外れ1位でも(競合せず)取れた」という選手ではないでしょう。

【2】森敬斗を単独指名しなかった場合

 では、森選手を単独指名しなかった場合はどうなるでしょう。
 最も指名される可能性として高いのは大学JAPANのエース、即戦力右腕として期待された森下暢仁投手です最速154㌔の直球に国際大会でもエースとして君臨した経験豊富な右腕の獲得で、右腕スターター不足の解消を狙います。
 ドラフト本番では初回入札が広島カープのみだった事もあり、仮に入札していれば50:50での獲得が期待出来ました。
 しかしDeNAは即戦力性の高い大学生投手の1位指名・全体的な投手偏重指名をここ数年続けており、右腕が少ないとは言え先発投手全体に高い緊急性を要する訳ではありません。ただしエース投手の獲得は、”先発未満・救援以上“の選手が増える環境を考えると、獲得優先度を高く設定しても良いのかもしれません。
 佐々木•奥川も競合数に違いはありますが指名理由としては似たようなものと捉えてください。

 次に考えられるのは同じ高校生野手、三塁手候補として期待されるスラッガー石川昂弥内野手です。
 高校通算55発・U18代表の4番を務め木製バットにも対応した打撃力に加え、185㌢90㌔、50m6秒2、投手としてMax 144㌔と超高校級の身体と身体能力を持ちます。
 ドラフト本番では3球団が競合、仮に入札していれば1/4とこちらはやや低確率でした。
 DeNAが悩む手薄な内野のプロスペクトとしては、守備位置の違いはあれど、森選手も霞むほどの逸材です。筒香の跡を継ぐ主軸候補として十分ですし、足も遅くないので鈍足打線の解消への一定の効果も有りそうです。
 センターラインとしては疑問符がつくので、森選手と同じ内野手とは言っても主戦場は一、三塁。クリーンナップとしての活躍を期待される選手です。得点力不足の解消に貢献出来るので、DeNAの現状を踏まえても重要度の高い位置づけになりそうです。

【3】森以外の遊撃手の候補

 森下•石川を指名した場合、DeNAの大きな弱点でもある遊撃手はどうするのか。という問題ですが、上記のSWOT分析でも挙げた通り来年のドラフト会議で大卒遊撃手を上位指名する事で一定の改善は見込めそうです。高校生遊撃手をプロ一軍レベルまで鍛え上げる育成コストとリスクを回避し、ある程度適正がハッキリしている大学生遊撃手を指名する事で、ピンポイントに補強箇所を整備します。
 現在の一軍の遊撃手事情も心許ない状況であり、場合によっては即戦力として早期に出場機会を得られるのも、大学生指名のポイントかもしれません。


 ーー【1】【2】【3】を総合して考えてみると、

•定着する守備位置により評価が変わるが、単独指名で確保出来る森。
•緊急性は薄いが、エース候補として希少性があり競合数の少ない森下。
•重要度の高いクリーンナップ候補ではあるが、競合数の多かった石川。
•一方で遊撃手への懸念は来年の大卒遊撃手指名でケアが出来る。

となります。
 森敬斗を確実に獲得出来るのは単独指名のみですが、あくまでも遊撃手として定着する前提での評価であり、森下投手や石川選手などの競合に臨んだのちの、外れ1位でも獲得のチャンスはあります。仮に獲得出来ずとも手薄な遊撃手候補は、来年の大学生遊撃手の指名で間に合ってしまいます。
 以上より、SWOT分析を用いて分析した結果、森敬斗は魅力的な選手ではあるが、チーム状況を見れば、競合を覚悟で他の目玉となる候補を指名する方が妥当だった。と言えます。


⑤おわりに もうひとつの可能性

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
 大学時代に経営学科で学んでいた事がこのNoteの基礎になるのですが、「嘘言っちゃちゃいけねえな…」となりながら途中からめっちゃググって必死で書きました。(合ってるといいな)
 前編後編合わせて1万字超と長々と駄文を綴ってしまいましたが、ドラフト指名とチーム分析という自分の得意分野であれこれ書くのは卒論より楽しかったです。皆様にも満足いただけたようなら幸いです。
 読んでいただきありがとうございました!

 

 最後にもう一つ森敬斗の単独指名の可能性を模索するとすれば、
「DeNAが現在“弱点”である遊撃手のポジションを“強み”へと逆転させる」
事を狙っている場合です。

 というのも森敬斗にしろ、大学生遊撃手にしろ、チームの主力となるような遊撃手候補が1人だけでは、定着出来なかったときに遊撃手のポジションが宙に浮いてしまいます。“弱点”は依然弱点のままですし、リーグの中で遊撃手を“強み”にするには荷が重いでしょう。
 外部補強に頼ろうにも、マネーゲーム化の進む中でそう易々とレギュラークラスの遊撃手が獲得出来るとは限りません。
 だから森敬斗とさらにもう1人。
 つまり、数年以内にもう1人の遊撃手候補をドラフト上位で獲得して、森敬斗とどちらかを遊撃手のレギュラーに定着させる。という戦略です。

 
例えば森敬斗も取り、来年の大学生遊撃手も取る事で、森選手単体での育成失敗のリスクはケアしつつ、成功した際は今後遊撃手を大きな強みとしてチーム編成が出来ます。近年の優勝球団はセンターラインで大きな利得を稼いでいる事からも、遊撃手のクオリティ向上は優勝に大きく近づきます。
 この場合、森敬斗を確実に獲得するには初回で単独指名する以外にあり得ません。外れ1位以降では重複が予想され、そこで外してしまえば2019年のドラフトで森選手以上のポテンシャルを秘めた遊撃手候補の獲得は困難となります。
 また、仮に森が遊撃手として定着し切らずとも、中堅手をはじめとして、高い身体能力を活用出来る事は、一転して大きな長所となり得るかもしれません。

 球団が森敬斗のみを次世代遊撃手の有力候補として、かつそれが失敗してしまったとき、森敬斗の単独指名の価値は大きく揺らいでしまうでしょう。
 しかし、彼の持つ莫大なポテンシャルを最大限追い求めることが出来て、もしもそれが形になったとしたらーー。

 その時にDeNAの森敬斗の単独指名は、一切の批判の余地も無い“大成功”と呼べるものとなるにちがいない。
 と、私にはそう思えて仕方がないのです。

(了)


 (あと、後編をめちゃめちゃ待たせてしまってすいませんでした)

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