僕の旅日記①

その日は珍しい雨空だった
僕からしか見えない場所で お腹を空かせた小さな子が泣いている 
相当弱っているようだった

僕は優しいからほっとくわけにもいかなくて
持っていたパンをやる
その子は少しだけ警戒していた 
でもどうしようもなくて 恐る恐る空の胃袋に僕のパンを詰め込んだ
僕はまだ荷物のなかにある沢山のパンとミルクを見せてあげて 
そして僕の旅の手伝いをして欲しいと頼む
僕には君が必要だからって 大袈裟に

小さな子は嬉しそうに僕と手を繋いだ

僕はこの瞬間から分かってた 
この子はお腹を空かせたふりをしているだけだってことも
涙は一つも持っていなくて
空からは 雨なんか一滴も降っていなかったことも

でもたしかに相当弱っていた
だから思った 全部本当じゃなかったとしても
旅の途中で変わっていけるだろうと

それからの道のりは楽しくて 孤独も暇もなくなった
旅はまだまだ始まりだけど この道はちゃんと終わりに向かっているんだと思った





ただ問題は
僕の荷物の中には沢山のパンとミルクなんて入っていなかったことを
いつまでたってもこの子が気づかなかったことだ


だいぶずっと先に見える街は 蜃気楼になって大袈裟な形に盛り上がっている





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?