山口新聞 東流西流 #3「芸術は教えられない」

山口新聞の担当の方から了承をもらい、こちらのノートへ転載していく。

#3 芸術は教えられない

 前回は俳句を例に挙げ、形式を知ることで、作品を楽しめることを示しました。今回は知識に頼らず鑑賞を楽しむメソッド(手法)について紹介します。

 MoMAの名称でも親しまれるニューヨーク近代美術館では、1980年代後半からある鑑賞の手法を研究し始めました。当時のニューヨークはスラム街もあり、優雅にアートを鑑賞する機会に恵まれない子どもたちも多く住んでいました。そこで当時のMoMA教育部部長P・ヤノウィン氏、心理学者A・ハウゼン氏らによって「アートの知識に頼らず作品をよく観察し、見えていることを語りあう」という手法が研究開発されたのです。

 鑑賞者はガイド役ナビゲイターから「何が見える?」「そこからどう思う?」といった質問をされたり、他の鑑賞者にコメントしたりしながら、アートの核心に迫っていきます。興味深いのが、アートというえも言われぬ対象を何とか言葉にしようと努力した結果、この手法で鑑賞した子どもたちの数学や国語のスコアが伸びたという研究結果が出ていることです。さらにハウゼンは、鑑賞には「説明、構築、分類、解釈、再創造」という段階があることを指摘し、鑑賞の創造性についても示唆しています。    

 実はYCAMの展覧会でもこの手法を応用した鑑賞プログラムを実施しています。次回は、画家マネの話。

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