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後輩のお式 Ⅱ

白く光った春色の、秋の花々のラウンドブーケ

この時はまだやり続けていた
お色直しの、ペールピンクのドレスの身頃の刺繍と
まるでハートで繋がっているかのようでした。

お式はデコラティブに刺繍のなされた、サテン衿のオフショルダーで。
ブーケは白紫陽花のキャスケード。写真のブーケは持ってみてただけですね

お式の立ち会いはお義兄さんが。

この頃、仕上げを手伝いに来てくれた後輩が
ずっと黙って一緒に仕上げてくれて..
でも「さきのさん、そろそろ..」と一言いいました。

それもそのはず。

お式は滞りなく無事に終わって、
もう披露宴が始まろうとしていたのです。

薔薇の刺繍をしたさくら色のマリシルクのビスチェと
ふんわりしたチュールスカートのドレスでの披露宴入場でした。

この後輩のドレスたちは
アトリエの皆が秋の花嫁たちのドレスの製作をする、その合間を縫うようにして
マネージャーのマリさんと私でタックを組んで、
縫い子さんたちの手の隙を本当に縫うようにして、全員の手をかけてもらって
アトリエに張り付くようにしてつくりました。

この秋やっと、懐かしいのです。

写真を見返していると、こんなところに写っていたので(何か怪しくですが)
披露宴(前半)への送り出しには間に合って、自分はもう控室にいたのだと思い直しました。

お式の数日前にアトリエから戻って以来
空港で成田エクスプレスの中で残りの作業をし続けて、前夜には会場近くのホテルに缶詰めになって

この日の記憶は曖昧なのです。

身内のお式の時には何故かそうなるようなのでした。
でも駆けつけてくれた無口な後輩の、ホテルの部屋で聞いた声だけははっきり憶えています。
「さきのさん、そろそろ..」

そしてとうとう、お色直しのドレスに着替えるために
中座をして花嫁が戻って来たのです。

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