奥寺大輔

ライターです。主に映画評、書評、コンサート評。小説も書きます。

奥寺大輔

ライターです。主に映画評、書評、コンサート評。小説も書きます。

最近の記事

【書評】「障がい者と健常者を隔てるものとは?〜小説・ハンチバック(市川沙央)」

正直に書くと、芥川賞受賞作には面白いと思えない作品もある。(あくまでも個人的な見解だが) 純文学は癖が強い小説が多く、自分に合わないものってどうしても読み進められない。 しかし、本作は違う。 村田沙耶香さんの「コンビニ人間」以来の衝撃だった。 大変面白く読んだのだ。 何がどう面白かったのだろう? 5つの要素に分けて書くと、 ①読者を惹きつけるタイトル ②どうしてもこの小説を書かなければいけなかった、切実さが伝わる ③作者の教養の深さを感じられる ④クスッと笑ってしまうユ

    • 【映画評】愛と暴力は、表裏一体。〜「ブエノスアイレス」(ウォンカーウァイ監督作品)

      同性愛を扱った映画は数多くあれど、この作品ほど不器用で、残酷な愛の形を描いている映画はないのではないか。 ウィンとファイは、お互いの関係を「やり直す」ために、南米旅行へ出かける。イグアスの滝を目指す途中、意見の食い違いから、喧嘩別れしてしまう。 個人的なことを語ろうと思えば、必然的に性的なことを語らざるを得ない。 この作品では、いきなりウィンとファイの濡場シーンから始まり、観る方としては少し怖気付いてしまう。 それは愛を語っているというよりは、暴力を語っているように見えた

      • 【書評】甘い匂いに誘われたあたしはカブトムシ〜「変身」(フランツカフカ)

        aikoの名曲、「カブトムシ」を初めて聴いたのは確か、桑田佳祐のカバーだった気がする。 一人紅白歌合戦。 桑田佳祐1人で往年の名曲から最近の新曲まで情感豊かに歌い上げる。 「カブトムシ」を歌う桑田佳祐は大変なハマり役で、甘酸っぱく切ない恋心をしゃがれた声で歌う姿に虜になってしまった。 桑田佳祐からaikoへの逆輸入である。 ところが、カフカの描いたムシの世界はそう甘くはない。 販売員をしている主人公のザムザがある朝起きたら、突然醜い虫になっている。ベッドの上で身動きが取れ

        • 【映画評】強い思い込みが歪んだ現実を作る〜「怪物」(是枝裕和監督作品)

          是枝さんが自分で脚本を書かない。 驚きだった。 多くの映画ファンがそうであるように、僕もまた是枝映画のファンだ。デビュー作以外、監督、脚本、編集をすべて手掛けてきた是枝さん。脚本を書かないのは珍しい。異色の映画になるだろう、そう思った。 早速、観に行った。 本当は公開初日に観に行きたかったけれどその日は仕事が長引いて公開から2日経っての鑑賞だった。 テンポよくストーリーが進んでいく。 会話で生じる、数々の違和感を提示し、その違和感は互いに対する無理解の連鎖を生む。 それが

        【書評】「障がい者と健常者を隔てるものとは?〜小説・ハンチバック(市川沙央)」

        • 【映画評】愛と暴力は、表裏一体。〜「ブエノスアイレス」(ウォンカーウァイ監督作品)

        • 【書評】甘い匂いに誘われたあたしはカブトムシ〜「変身」(フランツカフカ)

        • 【映画評】強い思い込みが歪んだ現実を作る〜「怪物」(是枝裕和監督作品)

          短編小説・「光の広場」

          一  心が躍り出すほどの快晴だった。毎週日曜日になると秋葉原では歩行者天国ができる。この日もそうだった。神田明神通りと中央通りの交差する場所は特に通行人が多かった。そこを目がけて十二時二十分ごろ、二トントラックが物凄いスピードでベルサール秋葉原を左手に走ってきて数人を轢いた。二トントラックは後退して方向を変えた後、秋葉原駅の方に向かって走っていった。その時向かってきたタクシーと正面衝突し停止した。交通事故だ。誰もがそう思った。群衆の不安がピークに達するのは皮肉にもその後、狂っ

          短編小説・「光の広場」