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90日で電子決済等代行業の登録をした記録

アスタリスト株式会社の代表をしております池上と申します。
弊社は、2020年6月22日付けで電子決済等代行業(登録番号 関東財務局長(電代)第 77 号)の登録・ローンチをさせていただきました。
https://www.asterist.com/uploads/2/4/5/1/24513004/press-release_dendaigyo-fintech_20200622.pdf

登録にあたり、事前にWeb上であれこれ調べたのですが、電子決済等代行業の解説はあるものの「実際何をしたら良いの?」がわかる有益な情報がありませんでした。そのため、今後同登録を目指される企業・個人の方のお役に立てればと思い、経緯や手続きについて書き残したいと思います。


【免責】

本noteは個人の主観に基づいており、非公式なものです。公式の情報は財務省または金融庁のWebサイトをご覧ください。
また、電子決済等代行業者を代表するものでも登録を保証するものでもありませんので、悪しからずご了承ください。

【電子決済等代行業とは】


2018年6月1日から、「電子決済等代行業」に関する新しい制度が開始され、国内で電子決済等代行業を営むには、銀行法等に基づく登録が必要となりました。
簡単に言ってしまうと、銀行APIを利用して顧客の口座から送金をしたり口座情報を参照するには登録が必要というものです。顧客が直接銀行にアクセスするのであれば問題ないのですが、SaaS等を介して利用するとなると、体制やシステム面の不備がそのまま顧客の損害に繋がってしまうことがあるため、これらのチェックを経て認定された業者だけがサービス提供をできるようにしたわけです。
詳しくは、金融庁ページ「電子決済等代行業を営むみなさまへ」をご覧ください。

【経緯】


アスタリストでは、経費精算・請求書処理のSaaSである「SAP Concur」の導入コンサルティングや「ActRecipe」というSaaS間のデータ連携を行うiPaaS(integration Platform-as-a-Service)をご提供しておりまして、主に財務会計領域の自動化をご支援しておりました。年初からの新型コロナウイルスの影響により在宅業務が強制または推奨される一方で、決算や経理財務業務のために出社をしなければならない方もいらっしゃいました。人の手を介さなければいけない業務や、特定の端末でしか操作ができない業務が残ってしまうと在宅勤務はままなりませんし、いつまでも自動化による生産性向上は期待ができません。そのような背景がありまして「自動化するのなら一気通貫であるべき」と思い、まずは経費精算や請求書のデータから銀行送金までを実現すべく電子決済等代行業の取得をしようと考えました。
また、従来はfreeeさんやMoneyForwardさんのようなSaaS事業者が電子決済等代行業の登録をされていましたが、例えば外資系のSaaS事業者や送金・入出金明細参照の機能が「nice to have」である事業者にとっては登録のハードルが高く、それが故にユーザへの利便性が提供できていませんでした。iPaaSはSaaSの機能を補完する役割もあるため、我々が担うべきと思った次第です。

【事前準備等】


電子決済等代行業は、何らかのシステムを用いて銀行APIを利用するため、少なくともそのプロダクトが存在していなければなりません。
財務的な要件としては「純資産額が負ではないこと」が挙げられます。
これは必須ではありませんが、ISMS(ISO27001)を取得していると情報管理体制の構築をゼロから行う必要がないため、可能であれば事前に取得することを推奨します。弊社では2019年にISO27001の取得に向けてLRM株式会社さんにコンサルティングを依頼し、着手から認定までこれまた3ヶ月という短期間で取得をすることができました。ISO27001ならLRMさんへ!
また「餅は餅屋」と思い、電子決済等代行業のコンサルティングをしていただける弁護士の方に連絡をして依頼をしようと思っていましたが、以下の理由で自前で進めることとしました。一部後述しますが、結果としては自前で進めて正解だったと思っています。
・コンサルティング費用が200~300万円かかる(口頭のためうろ覚え)
・スピードが削がれる可能性が高い
・経験は糧となる

【申請のサマリ】


・財務省関東財務局へのファーストコンタクト:2020年3月25日
・同局からの登録の連絡:2020年6月22日
・登録までの期間:90日(55営業日)
・費用総額:10万円弱(登録免許税:90,000円、登記簿謄本や役員の住民票等)


続いて手続きの流れをご説明します。

フェーズ1.所管の財務局への問い合わせ(DAY1~DAY9)


DAY1:財務省関東財務局 東京財務事務所への申請

弊社は本社が東京都港区にあるため、財務省関東財務局 東京財務事務所に「電子決済等代行業の申請をしたい」旨を電話連絡しました。そのやりとりで申し込みに必要な資料をメールで送っていただき、即日返送をしました。
このフェーズでチェックされるのは以下の2点です。
・提供サービスが電子決済等代行業に該当するか
・体制面が十分か

SaaSの場合は「SaaS⇔銀行」というわかりやすい構図になるのですが、ActRecipeはiPaaSなので「SaaS⇔ActRecipe⇔銀行」という構図となり、誰がどこで責任を担保するか等を電話でご説明をしました。
ご担当の方は必ずしもITに明るい方とは限りませんので、一般的にわかりやすい説明が求められます。同じものではありませんが以下のような図を用いてご案内しました。

銀行APIイメージ

ご参考までに、以下はご案内したものではありませんが、我々の事業に当てはめた利用方法です。

SaaS連携イメージ

この1週間後に「電子決済等代行業に該当する」とご返答をいただきました。これで第一フェーズクリアです。

フェーズ2.金融庁での事前審査(DAY12~DAY64)


ここからが申請の本番です。
金融庁のご担当の方より、申請に必要な書類や手続き一式がメールで送られてきます。
以下はDAY12からDAYまでの流れです
(「金融庁より」と付くものは先方からのアクション、主語の無いものはこちらからのアクションです)

DAY12:金融庁よりメール受信(存在確認)
DAY13:金融庁より申請書類を受領
DAY13:全6点のうち4点の資料を送付
DAY14:追加資料1と質問を添えて送付
DAY16:追加資料2と関連資料を送付
DAY26:金融庁より第1回目のレビュー返信あり
DAY26:同 メールにて返信
DAY30:金融庁より追加質問受領
DAY30:同 メールにて返信
DAY43:金融庁より再追加質問受領
DAY43:同 メールにて返信
DAY48:金融庁より再々追加質問受領
DAY48:同メールにて返信。各種登録証書のメール送付。登録免許税も支払済み。
DAY55:金融庁より納税先の修正指摘、住民票の本籍不記載指摘、責任分界点の指摘
DAY55:それぞれ対応する旨を返答
DAY57:金融庁より責任分界点の再指摘
DAY57:関連資料を修正して連絡
DAY62:登録審査完了の連絡あり。引き続き金融庁の審査中。
DAY64:金融庁審査完了の連絡あり

おわかりいただけただろうか?
基本的には金融庁からの連絡が来たら即日対応を完了しています。仕事は時限爆弾の高速キャッチボールですので、持ち続けていたら爆発します。常に相手にプレッシャーを与える勢いで返球することこそが美学です。少し逸れましたが、コンサルティングを受けなかった理由はここにありまして、第三者に対応をしていただいていたらこのスピード感は出せなかったと思います。
実は手続きの中で1点だけ致命的なミスを犯しています。DAY48の登録免許税の納付先を誤って自社の管轄である麻布税務署にしてしまいました。そのご指摘をDAY55で受け、改めて本来納付すべき浦和税務署に変更して対応しました。(執筆時点では麻布税務署から還付されていません...)
DAY26以降の金融庁からのレビューや追加質問は、体制面やサービス規約の不備や明示的に表現していなかった箇所の指摘でして、主に改正銀行法で定められている利用者保護の観点が十分でなかったという内容です。ITのセキュリティや損害賠償について認識はしていたつもりですが、係争にならないためにも明示しておくべきことがあるのは大変勉強になりました。このレビューの過程で、弊社の顧問弁護士でもあるシティライツ法律事務所の伊藤雅浩弁護士には丁寧かつ迅速にご対応いただき、大変感謝をしております。

コロナ禍真っ只中ということもあり、金融庁さん側での対応が若干遅延されていたようにも感じましたが、DAY64で無事審査が完了しました。

フェーズ3.財務省関東財務局 東京財務事務所への本申請(DAY64-DAY90)


財務省→金融庁ときて、最後は財務省に本申請をします。

DAY64:財務省関東財務局 東京財務事務所へ書類一式を持参
DAY64:東京財務事務所のご担当の方よりメールで資料の不備の指摘
DAY64:メールで補足資料の送付
DAY90:登録

DAY64に金融庁から審査完了の連絡を受け、それまで準備してきた書類を全て2部ずつ印刷しました。この印刷物を郵送or持参で提出するのですが、A4の印刷物が5~10cm程あったのでトートバッグに入れて湯島の東京財務事務所に持参しました。その場で印刷物の簡易的なチェックをしていただき問題がなかったため全てを提出し、申請に係る手続きは全て終了しました。
ここからは「果報は寝て待て」なのですが、法律で1ヶ月以内に対応することが定められているようでしたので、ひたすら結果を待ちました。
DAY90の午前に電話で登録完了の旨と登録番号「関東財務局長(電代)第 77 号」をお知らせいただき、90日間におよぶ電子決済等代行業の登録が完了しました。

【雑感】


ISMSで情報セキュリティの管理体制は構築できているものと自負がありましたが、電子決済等代行業の申請の過程で、自社やサービスのセキュリティ、体制、法令順守等を見直す機会となったことは非常に大きなプラスでした。
時として専門家にアウトソースすべき場面もありますが、我々のようなベンチャー企業にとってはコスト削減よりも時間の創出の方が大切なので、本件については自社対応で良かったと思います。

【さいごに】

取り留めもない内容にもかかわらず、さいごまでお読みいただきありがとうございます。電子決済等代行業については、詳しく解説された書籍やWebページがありますので、併せてお読みいただくこととをオススメします。今回の申請に用いた資料を全て公開するわけにはいきませんが、簡易なご質問にはお答えできますので、お気軽にTwitterなどでご連絡ください
iPaaSもFinTechも、DX(デジタルトランスフォーメーション)には欠かせないピースの一つであり、日本の生産性向上にも少子化の解消にも国力の強化にも重要であると確信を持って事業を行っております。本noteが、同じ志で未来に目を向けている方々のお役に立てますと幸いです。

【おまけ】

弊社アスタリストでは、SaaS間のデータ連携をするiPaaS「ActRecipe」の事業を拡大中です。

今回の電子決済等代行業の登録をしたことで、国内で唯一「iPaaS+FinTech」を展開する事業者となりました。SaaSのAPIも銀行APIもキャッシュレスAPIも開発ができるのは非常に刺激的な体験になると思います。ご興味がありましたらお気軽にご連絡ください!


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