見出し画像

あの日交わした約束の新しい景色 富士葵 生誕記念 2ndソロライブ「シンビジウム」 レポート

2021年6月18日、Zepp Tokyoで富士葵生誕記念2ndソロライブ「シンビジウム」が開催された。その模様はオンラインでも配信され、7月4日までアーカイブが販売されている。今回は富士葵 1st ソロライブ「OVERTURE – 序曲 –」から約1年半ぶりに開催された2ndライブの模様を振り返っていく。

懐かしい実家のような開演前

開場時間の18時になりZepp Tokyo内に入ると「シンビジウム」のロゴがスクリーンに映しだされており、会場内ではいつも配信で流れている聞き慣れたBGMが流れていた。またBGMはこれまで動画内で流れた数々の音源にも変わっていき、懐かしい動画を思い出して実家のような安心感を覚えた。会場内に続々と葵歌劇団が入場し、久しぶりの富士葵のソロライブがいよいよ始まるのだという実感が湧いてくる。

圧倒的な歌と演出で始まるライブ

開演を知らせるOPムービーは「愛という名の「花」を咲かせて」というタイポグラフィと富士葵のナレーションから始まる。ポエトリーリーディングとともに流れていくこれまでの活動の映像たちは、いやがおうにも思い出たちを脳裏によみがえらせる。「どうか、沈まないように」で締めとともに、最初の曲「シンビジウム」が始まった。

2ndアルバムの表題曲である「シンビジウム」を新衣装をまとった姿で歌い上げていく。富士葵の伸びやかな歌唱力を存分に発揮した歌と、深海を思わせるVJ、舞うように表示されるタイポグラフィは完成された映像作品のようだった。何よりその音楽をZepp Tokyoの音響設備で全身で感じて鳥肌が立った。この腹に響くような音が、ライブ現場に立つ醍醐味だ。

次は同じく2ndアルバムから「Eidos」。「シンビジウム」を座って聴き入っていた会場の歌劇団も疾走感のある「Eidos」のイントロが始まった瞬間一斉に立ち上がり腕をステージに向かって突き上げ始める。富士葵もそれに応えるように「アオイままでいるよー!」と叫ぶように歌う。

「今日のZepp Tokyoが葵にとって、そしてみんなにとって、また新しい「はじまりの音」になりますように!よっしゃいくぞー!」という掛け声とともに始まる3曲目は富士葵の記念すべきメジャーデビュー曲「はじまりの音」。背景は曲に合わせるように青空に変わり、爽やかに歌詞と歌声が流れていく。富士葵の「聞かせて 奏でて」という声は、背負った青空へ抜けていくように心地よく伸びていった。アルバムのリード曲やデビュー曲など、最初の3曲からクライマックスなセットリストにも、富士葵と天界魔界チームの本気が感じられる。

画像1

画像2

画像3

もうクソダサダンスなんて言わせない可愛いダンス

最初のMCでは昨日まで雨模様だった天気が見事ライブ当日晴れたことに触れ、これまでのイベント(Fight!、生誕祭、1stソロライブ)もことごとく晴れだった実績もあり、晴れ女っぷりをアピールしていた。

続けてライブの2ndソロライブのためにMCの勉強をした時「てきどにせいりすべし」という言葉に出会ったことを語る。調味料の「さしすせそ」のように、それらは「て・・・天気」「き・・・気候」のように雑談で使える話題を意味しており、まんまと今日の最初のMCで天気の話をしてしまった、と盛大に笑い、会場も拍手でそれに応える。(ちなみに筆者が知る限り「て」は「テレビ」を意味していたはず。諸説ある)

そしてみんなと心を一つにするために、いつもの合言葉を(心の中で)唱和する。

あ:愛するー!こころー!
お:思いやるー!気持ちー!
い:一期ー!一会ー!
よっしゃいくぞー!

そして民族音楽を思わせる「コヨーテ」が始まった。曲の雰囲気に合わせて舞踊のような振り付けで歌い踊る。照明の角度もステージの富士葵の陰影が大きく背景のスクリーンに映るように下から上へ見上げるように変わる。彼女の動きに合わせて大きく伸びた影が揺れる様子は、遊牧民が夜にたき火の周りで舞っているようだった。

続く「Anitya」ではこれまでの演出から大きく変わり、会場後方にステージが表れ、その上で富士葵が歌い始めた。オンラインで配信されている映像がステージ上のスクリーンにも写されていた。思わず筆者も背後を振り返ったが、もちろん会場後方に彼女はいない。映像が映されている前のステージに向かってサイリウムを振りながら、たまに確認するように背後を振り返るという、なんとも倒錯した体験だった。富士葵の歌に合わせて舞う蝶たちと、歌劇団のきらめくサイリウムの光が混ざり合い、一種幻想的な世界を創りだしていた。

画像4

画像5

画像6

3つの歌と演出が1つの物語なセットリスト

正面ステージに戻ってきて歌うのは「Q.E.D.」。退廃的などこか治安の悪さを感じさせる歌を、先ほどまでの優しい歌声と対照的なチョイワルで格好いい歌声で歌い上げていく。それに合わせるように、背景もネオンサインが明滅する夜の街に変わる。

背景の街の夜が明け、1stアルバムに収録されている「まだ希望に名前はない」が始まる。会場には雨が降り、街には虹がかかる。この曲を聴いて唐突に「嗚呼、僕たちはきっと大丈夫だ」と思った。世界は今も大変で、まだ集まったり声を上げて盛り上がることはできないけれど、明けない夜が無いように、止まない雨が無いように、希望はきっとあると不思議と根拠もなく思えた。

「葵にとってのみんなのように、大切な人を思い浮かべながら聴いて欲しいです」という言葉とともに「ヨスガノカケラ」が始まる。街の様子は急速に時間が経過し、木が芽吹き大樹へと成長していく。萌ゆる緑を背負い力強く歌う富士葵の姿は一種の神々しさすら感じた。歌い終わりの「いつも葵のそばにいてくれてありがとう」に会場は拍手で応える。富士葵にとってのヨスガが歌劇団のように、歌劇団のヨスガも富士葵であるという気持ちは、言葉がなくても伝わったはずだ。

画像7

画像8

画像9

5曲連続で歌いきった後、MCでは「コヨーテとAnityaのダンスどうだった!?かわいかったー!ありがとう!みんなの声脳内再生余裕だから!」と一人で質問と回答を完結させていく。そして自身が作曲を担当した「Q.E.D.」の締め切りに追われた裏話や、初めての本格的な作曲で苦労した裏話が明かされる。

富士葵といえばカバー曲も外せない

「ドンチョウカモーン!」の声とともに、ステージに真っ赤などん帳が下りてくる。どん帳の裏では早着替えが行われ、シンビジウム衣装から制服に着替えてカバー曲ゾーンが始まった。衣装は制服に変わったが、お化粧はシンビジウム衣装のままで、普段の愛嬌のある顔と比較してシュッとした大人びた顔になっている。

画像10

制服姿で最初に歌うカバー曲は「UNISON SQUARE GARDEN」の「シュガーソングとビターステップ」。コミカルにステップを踏んだり、首を前後にカクカク動かしたりと、ノリノリで楽しそうに歌う富士葵の姿に、こちらの口角も上がってしまう。間奏では「3年半前の葵が、今ここで歌っている姿を見たらなんていうかなぁ。葵にとっての夢の時間はまだまだ始まったばかりですが、ここにいるみんなも、おうちにいるみんなも、今葵と過ごしているこの時間を最大限に楽しんでいっていただけるとうれしいです!」と叫び、後半戦も最高に楽しいライブが続くという確信に胸が躍った。

次のカバー曲は「DECO*27」の「ゴーストルール」。富士葵が 「ニコニコ超パーティー2018」でも歌った曲だ。背景のスクリーンにはその当時の「ゴーストルール」を歌っている映像が流されていく。当時の力強い歌声と会場の熱狂を思い出しながら、今の富士葵の成長した歌唱力に酔いしれる。全力で歌いきった後に聞こえた乱れた吐息すら愛おしく感じた。

カバー曲ゾーンラストは「amazarashi」の「空に歌えば」。空を背に背負いマイク片手に歌いながら、腕を天に突き上げる姿はさながらヒーローのよう。歌だけでなく語りパートも凛々しい。映像も文字を切り裂いたりとしびれる演出が目を引く。そして元気いっぱいな「ありがとう!」という言葉でこのパートは締めくくられた。

画像12

画像12

画像13

会場のみんなで盛り上がっていくライブ

カバー曲が終わり、先ほど歌った懐かしい曲や曲作りの裏話が語られる。曲を作る際ゼロから作る場合もあれば、既存曲の要素をスタートに創り始めることもあり、実は「空に歌えば」は「Anitya」のスタート地点の一つだったことが明かされた。これらはあまりに違う2曲だったため、会場からも驚愕のどよめきが起こった。

次の曲はTwitterに投稿されたリハーサル映像で匂わされていたあの曲。その準備のため会場を海チームと月チームに分け、337拍子の練習をした。富士葵は歌劇団の団結した手拍子を見て満足した様子。そして「エールアンドエール」が始まる。声で合いの手は入れられないが、会場にいる全員が手拍子とサイリウムで全力でライブを楽しみ盛り上げていく。この歌の最後はもちろん応援団長からの優しい「やればできる」。

突如映像は控え室の前に切り替わる。富士葵が次はステージ衣装に早着替えをしている模様。そのままZepp Tokyoの廊下を走り、会場の後ろのドアから入ってきて次の曲「秘密を聞いてよ」が始まる。「Anitya」の時のように会場後方に現れた富士葵は、「君と離れたくない ずっとずっと!」と想いを歌に乗せながらら花道を進むように会場中央へと進んでいく。花道の下へ手を振る様子はアイドルコンサートのようだった。

前方のステージに戻り歌うのは「8分19秒」。この曲は2ndアルバムの中でも富士葵が自身で作詞作曲している。「答えはいつも人基準で足りないことに怯えて」や「誰もが正解(コピー)を生きているんだ」など現代人を痛烈に風刺する歌を突き刺すように歌ってくる。彼女の中からこういう言葉が湧き出たことが意外に感じる曲だ。ライブの間奏では「誰にも周りの人がうらやましくなる時があると思います。それでも葵は自分の気持ちに正直にありたい。そんな姿がみんなの道しるべになると良いなと思って歌います。」と「キミ君の心の応援団長」らしい宣誓をした。

画像14

画像15

画像16

MCで「エールアンドエール」の振り付けが楽しかったことや、初めて聴いた時から「秘密を聞いてよ」をライブで歌いたいと思っていたことが語られる。そして1stアルバム「有機的パレットシンドローム」は「七色の声」をコンセプトに自己紹介の代わりにもなるよう製作したのに対して、2ndアルバム「シンビジウム」では伝えたいメッセージを絞って制作したとのこと。

「葵にたくさんの夢を見せてくれるみんなへ、愛を込めて歌います」という言葉が歌劇団に贈られ、ラストの曲は「紫陽花が泣いた」。情感が込められたバラードに一瞬で引き込まれた。後からオンライン配信を確認したところ、会場に提灯が舞うオンライン配信のみの演出があった。それは歌劇団みんなの想いが空に登っていくようにも見えた。

今日ずっと夢に見てきたことの1つが叶いました。
葵のことを応援してくれるみんなの前で叶えることができました。
「キミの心の応援団長」として活動を始めてもうすぐ4年。
楽しかったことがたくさんありました。
でも壁にぶつかったこともたくさんありました。
そんな時、気づけばみんな1人1人に応援されて今日まで歩んできました。
だから、葵もみんなに恩返しをしたいから、ずーっとずっと1年後も10年後も、葵の歌と一緒にまだまだ新しい景色見に行こうね。
本日は本当にありがとうございました。

画像17

まだまだ夢の時間は終わらないアンコール

ライブTシャツを着て帰ってきた富士葵が座るのは大きなピアノ。弾き語りで始まる「チョコレート」。チョコのように甘い歌と優しいピアノの音で脳が蕩けそうになる。弾き語りが終わると、ピアノコンサートが終わった時のように礼をして袖にはけていった。

ステージ上からピアノが消え始まるのは「MY ONLY GRADATION」。一転してバリバリのロックで会場を燃え上がらせてくる。ライブ終盤とは思えない叩きつけるような歌声、激しいギターとドラム、立ち上る炎柱の演出、色とりどりの照明と会場を埋め尽くすサイリウムの多種多様な色、色、色。これほど情報量の多い音と映像でアガらない人間がいるだろうか?会場の盛り上がりも最高潮でZepp Tokyoが揺れているかのようだった。

画像18

画像19

歌い終わった後「アンコールありがとう!」とお礼を述べ、久しぶりに弾き語りをしたことや、「MY ONLY GRADATION」を1stソロライブで初披露した時のこと、みんなからもらった誕生日メッセージやプレゼントのことを話していく。富士葵が「ライブ終わりたくないなー!」と惜しみながら、発表へ移ろうとする・・・と、ここでサプライズ。告知画像ではなく誕生日ケーキがスクリーンに写される。富士葵の「しこまれてたー!」と絶叫が響き渡る。「泣かないって決めたの今日は!」と強がりつつ「ありがとうございます!やったー!」とサプライズを仕込んだ天界魔界チームにお礼を言った。

画像20

画像21

重大告知!!!

あらためて発表するのは「富士葵オフィシャルファンブック」の発売決定。特製音楽CDには2ndソロライブのライブ音源と録り卸し新曲が付く。これでお値段なんと3500円(税抜)。やすい。

次の発表は新音楽レーベル「Acro(アクロ)」の第一弾所属アーティストとして所属するとのこと。さらに新曲を絶賛製作中。今後の情報にも期待が高まる。

画像22

せーの、よっしゃいくぞー!

いよいよライブも本当に終わりが近づいてきた。最後のMCでは「葵とみんな」ではなく「葵とキミ」であること、1人1人の心にチビ葵を住まわせて欲しいこと、1人1人を応援していることをあらためて述べた。1対多数の関係とみられがちなタレント活動だが、富士葵は歌劇団と1対1であることは以前も配信の中で強調していた。

そして続いた「1stライブで約束した新しい景色をみんなで見れて良かったです。本当にありがとう」という言葉で1年半以上前にした約束を思い出した。1stライブの最後「みんなは新しい景色を見たいですか!?新しい景色を見せてくれますか!?」という言葉にVeats SHIBUYAに集った全員でYESと答えた。その約束を覚えていて、この日実現してくれたことが、ただただうれしかった。

「これからもついてきてね!」という言葉とともに最後の曲「ユメ⇒キミ」が披露される。「ユメ⇒キミ」の振り付けは公式で練習動画が投稿されているだけあり、会場の動きの統一感も群を抜いていた。ライブが終わるのを惜しむようにサイリウムの波が揺れる。「ユメ⇒キミ」の終奏でライブを締めくくる言葉が紡がれる。

今日こうして一緒に過ごした時間が、葵とみんなの思い出に、葵とみんなの糧に、葵とみんなの羅針盤に、そして葵とみんなのこれからも続く終わらない物語の1ページになればうれしいです。
最後はあえてこの言葉で締めたいと思います。
せーの、よっしゃいくぞー!ありがとうございました!

アーティスト富士葵の2ndソロライブ

1stソロライブと比較して、この日の2ndソロライブは富士葵のアーティストとしての一面が強調された、ライブらしいライブだったと思う。1stソロライブは構成がストーリー仕立てなところや、ゲストが特徴的なところもあり、富士葵の歌だけでなく彼女の内面や芸人的な一面が知れる「富士葵欲張りセット」のようなライブだった。対して2ndソロライブはひたすら音楽を聴かせる構成になっており、映像演出も1stよりレベルアップしたことで、非常に濃いライブ体験だった。

セットリストにも意図と物語性があり、どのように曲順を決めたかなどをいつか聞いてみたいと思った。懐かしい思い出の曲もあったと感じるのは、3年以上活動してきた富士葵だからこそだろう。

なにより「1年後も10年後も」と言ってくれたことがうれしかった。1年経てば大きく様変わりしてしまうこの界隈で、10年後の夢を語れる人がどれだけいるか。もちろん10年後の未来なんてわからないが、口にし続ければで実現するかもしれない。今日富士葵が示した道しるべを目指して一緒に歩いていきたい、そう思えるライブだった。

富士葵 生誕記念 2ndソロライブ「シンビジウム」セットリスト
1.シンビジウム
2.Eidos
3.はじまりの音
4.コヨーテ
5.Anitya
6.Q.E.D.
7.まだ希望に名前はない
8.ヨスガノカケラ
9.シュガーソングとビターステップ
10.ゴーストルール
11.空に歌えば
12.エールアンドエール
13.秘密を聞いてよ
14.8分19秒
15.紫陽花が泣いた
EN1.チョコレート
EN2.MY ONLY GRADATION
EN3.ユメ⇒キミ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?