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目指せ!サステナブルな教師#4 限界効用逓減の法則を仕事に活かす

1 限界効用逓減の法則とは?ー経済学の基本概念

突然ですが、皆さんは限界効用逓減(ていげん)の法則をご存知ですか?これは、経済学の基本的な概念の一つで、「ある事柄に追加的なコストをかけた時、満足の増え方は、どんどん小さくなっていく」というものの見方です。グラフで考えると、横軸がコスト、縦軸が満足とした時に、右上がりの曲線グラフがあって、傾きが次第に緩やかになっていくというもの。僕は大学時代に経済学を学んだのですが、ずっと忘れずに頭の中にある法則です。

なぜ、この話を持ち出したのかと言うと、この見方は、仕事をする上で結構役立つからです。限界効用逓減の法則を日常生活に応用させると、より生産的な働き方や、ストレスマネジメントができるようになるかも知れません。今回は、限界効用逓減の法則を学校現場に行かす、というテーマでお話しします。

2 演繹的に導くことができるヒント

まずは、もう少し、限界効用逓減の法則について、説明します。追加的なコストをかけた時、満足の増え方は、どんどん小さくなっていく、というのは、直感的には、美味しいケーキを食べるというシーンで考えると分かりやすいです。

甘いものが好きな人にとって、ケーキを食べるのは大きな幸せかも知れませんが、それでも、一個目と二個目、あるいは十個目のケーキから得られる満足は、違いますよね。多分、どんどん小さくなっていく。それは、どんどんお腹がいっぱいになっていくので、当然かも知れませんが、ここで重要なのは、追加的なコストをかけた時(もう一個のケーキを食べたとき)、そこから得られる満足の増え方は、比例的じゃないという現象は、様々なシーンで見られるということです。

例えば、知的活動の領域でも、あるテーマについて洞察を得たい時、情報収集しますよね。この情報収集も、最初のうちは、新しい刺激に満ちているのですが、だんだんと発見が減少していきます。安宅和人さんの『イシューから始めよ』(英治出版)でも、情報収集のコツとして、「集めすぎない、知りすぎない」ということが強調して書かれています。それは、情報収集をずっと続けていると、かけた時間に見合った利益が得られなくなるからです。

さて、この限界効用逓減の法則から導かれる生活上のヒントは、次の2つのことになります。

 ① 完璧主義よりも、7割主義の方がいい。
 ② 一口目を積極的に味わった方がいい。

3 生活の中で応用する


ここから、具体的に生活の中で応用することを考えていきましょう。
まず、「完璧主義よりも7割主義の方がいい」という示唆が限界効用低減の法則から得られるわけですが、ご自身の仕事ぶりを振り返って、完璧主義になってしまっているところはないでしょうか?

例えば、書類整理です。書類整理を7割で行うのと完璧にこなすのとでは、果たして実質的に利益に差が生じるでしょうか。会議資料の作成でも同じことが言えます。多少、雑でも程々に仕上げてしまった方がいいかも知れません。7割から10割の出来に持っていくために費やすコスト(時間・エネルギー)は、他の活動のために費やした方が、得られる利益が大きくなる可能性が高いからです。

一つの仕事に集中して取り組んで、その仕事は完璧にこなせたとしても、他の仕事が回せずに全体としての利益が増えなければ意味がありませんよね。

もちろん、本当に丁寧に、9割10割を狙って仕事をこなすことが重要な場合もあります。研究授業などは、全力投球するからこそ、新しい何かが生まれるものかも知れませんよね。

ただ、ここで注意したいのは、作業をしていることに満足しない、ということです。遅くまで仕事をして、仕事をやっている感覚を味わって、それが利益だと勘違いしない。本当に注目すべきなのは、生徒の成長ですし、本当に満足すべきは、実際に教育成果が観察された時ですよね。

僕は、サッと軽快に生きることを、アファメーションの一つに加えています。初めから7割でいいや、と考えておかないと、身構えてしまって動きが鈍くなる、初動が遅くなるからです。実は、この原稿も、7割でいい、と思って作っています。失礼なことを書いていますが、でも、一つひとつのテーマを完璧に書き上げようとしたら、アウトプットの量は激減します。それよりも、多少粗くても、たくさんのテーマをお届けした方が、読者の皆さんにとっては利益になると思うのです。

ということで、日常生活への応用の一つは、仕事をこなす際、完璧主義をやめて7割で切り上げる、となります。

二つ目に、限界効用逓減の法則からは、一口目を積極的に味わった方がいい、というヒントが、得られる訳ですが、比喩的に言わず、要するに新しいことにチャレンジした方がいい、と書いてしまった方がわかりやすいでしょうか。

実は、僕は34歳なのですが、キャリアプラトーを迎えてしまいました。僕に限らないでしょうが、仕事をして10年が過ぎると、飽きてくる。これ自体、限界効用逓減の法則から言って当然の帰結です。悪いこととは思ってません。30代で転職が多いのもうなづけます。1年目の刺激や発見と10年目の刺激・発見では、当然のことながら後者の方が少なくなってくる。

いや、これはちょっと語弊があって、実は僕の場合、生徒との関係や授業は、どんどん楽しくなっています。毎年、自己ベストを更新しています。毎日、発見の連続なんですね。では、何に飽きてしまったのかと考えたら、職場あるいは学校という組織に飽きてしまったようです。なんとなく、日本の学校でできることに、限界を感じるようになってしまったのだと自己分析します。

では、どうするか。実は、ここから抜け出すヒントも、限界効用逓減の法則にあります。それこそが、「一口目を積極的に味わう」スタンスです。

ケーキの一口目が一番、利益が大きいのと同様、未開拓の領域に踏み込む時が、一番大きな満足や利益が得られます。

学校現場で具体的に考えれば、恐らく多くの〇〇教育は、あまり深堀されていないでしょう。道徳教育、食育、防災教育、国際理解教育、金融教育、情報教育などです。同僚があまり手をつけていないブルーオーシャンですから、そこでチャレンジすれば、学校に変化をもたらしやすいはずです。例えば、情報教育などは、AI社会化が進みデータサイエンスのニーズが高まる現代社会では、益々重要になるはずです。が、実際の学校現場では、ほとんどその中身がアップデートされていないのではないでしょうか。

例えば、ビッグデータで何ができるようになるのか、何が懸念されているのかといった内容は、カリキュラムの中に位置づいていない、あるいは授業実践されていないのが実情でしょう。

そこで、校務分掌を決める際に「情報教育担当」を買って出て、新しい学びを得て、生徒たちに還元していく。それが出来れば、「飽きた状態」から抜け出ることが可能です。というか、そもそも人間が「飽きる」とは、多分、進化心理学的には、その場から離れ、新しい土地を求めることで生存確率を高める戦略のはずです。「一口目を積極的に味わいにいく」スタンスは、それと整合的です。

ちなみに、最近の僕の「一口目のケーキ」は何かというと、GIGAスクール構想で実現した、生徒一人にiPad一台という状況を、最大限活用する道を模索することです。校務分掌に関係なく、自分で勝手にできることですから、どんどん新しい実験・チャレンジを繰り返しています。そうか、こういう活用法もあるな、と発見の連続で、楽しいですね。

ということで、日常生活への応用の二つ目は、特に飽きてしまったなら、一口目を積極的に味わいにいこう、ということになります。

以上、今回は、限界効用逓減の法則を、学校現場に行かす、というテーマでお届けしました。日常の仕事の中で、一口目の仕事と十口目の仕事を、客観視して区別するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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