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体系的「場」つくり理論シリーズ その59「食育」で企業活力を向上させる方法とは!


少し古い話になりますが、2005年(平成17年)6月10日、食育基本法が成立しました。

「食育」によって国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことを目的としていています。食育基本法では、『「食育」を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている』としています。

食育は、国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことができるようにするために重要なテーマです。

私たちの生活は、ワークライフバランスを意識しつつも、現実は「仕事」中心の生活を余儀なくされているケースが多く『ライフ&ワークハーモナイゼーション』(仕事と暮らしの最適調和)のレベルには達していません。

日本企業で働くハードワーカー(企業戦士)の多くは、残業でまともな夕食をとれずに、ファストフードやカップラーメンなどで済ます人もいっぱいいます。
特に、裁量労働で働く人たちは、概ね一日の大半を会社で過す人も多くいます。独身者の場合、朝、昼、晩全て外食する人もいるようです。
仕事をする為に「食べる」行為は、とりわけ外食ランチにおいては、美味しく、早く、安くを考え、栄養バランスやカロリーを意識せずに、とりあえず腹持ちする食事をする事が多いのではないでしょうか。(一般的に「美味しく」は難しいですが💦)

こうした日々を過している結果、生活習慣病や栄養バランス失調症になってしまうリスクがあります。

そもそも論ではありますが、会社の生産性を上げるには、社員のモティベーション維持が不可欠です。
社員のモティベーション維持には、社員一人ひとりが、心身共に健康であり働く喜びとやりがい感を持てる事が不可欠です。社員の健康維持には、バランスの取れた食生活の習慣化と健全な精神衛生の管理が不可欠です。
然しながら、バランスのとれた食生活は、本人の自覚と強い意識、更には家族やパートナーの協力無くして実行する事は簡単ではありません。

「食育」は会社外で取り組む課題、と思われがちですが、私は、一日の大半を過す会社に於いてこそ「食育」を考えるべきと考えています。
食生活に対する意識改革を企業の責務として実施し、社員意識を変えてゆく取組こそ企業の「食育」なのです。

例えば、社食のある企業において社食で提供される食事は、社員の健康を考慮した栄養バランスを考えてメニューが作られており、社員は無意識のまま健康バランスに配慮された食事を取る事ができます。残業に備え、夜食を提供する社食メニューも同様です。
社員の生活習慣病予防を「食育」により実践する「場」として「社員食堂」の価値を見直し、社員の心身健康支援策を推進する事が、会社活力の向上の一助になります。

ただ、現実的にはコロナ禍により、多くの組織で社食サービスを休止させたり、あるいは廃止したところもあります。徐々に復活させている兆しも見えますが、私としては、今こそ「社食」の在り方を抜本に見直す好機でもあります。

社食空間をウェルネス&ナレッジ空間に変貌させる
空間イノベーションと、わくわく「場」創りへの挑戦を提言してみたいと思います。

先ずは、エンタテイメント手法を取り入れた社食空間のプロデュースにより、社員の元気度が向上し、社食空間が知識創造の場としての新たな空間価値を産み出すことを認識しましょう。

一般的な社食は、社員の昼食を賄う『食事場所』であり、周辺に食べ所が無い事業所や工場では、必須ファシリティです。
一方、都心部など周辺に食べ所が沢山あるので、食事をするだけの目的であれば、社食は必須ではありません。

然し乍ら、最近のトレンドの一つに社食空間を食事目的だけでなく、インナーブランディングの場として戦略的に活用してゆくケースが見られます。

私が組織で活動していた時にも、こうした考え方を取り入れて空間設計を行い、様々なアイデアを織り込んだ運営スタイルを導入していました。

社食空間設計にあたって気を配った点をご紹介します。それは、
社員のモティベーションを高め、企業業績の向上に貢献出来る価値のある空間「場」とすること。
空間価値を最大化してゆくためには、社食空間の「場」が、社員に無意識のうちに心地良さとわくわく感を感じてもらいながら、社員の健康維持増進に役立ち、社員が担っている業務の円滑化と推進に役立つ知識・アイデア創造の場所と体感してもらうこと。

そして、プロデュースポイントを次の5点にこだわりました。

1.「場」の雰囲気へのこだわり
2. 食と味へのこだわり
3. 運営キャストへのこだわり
4. 社食空間価値の効果測定と運営収支
5. 社内営業とイベント企画

1.「場」の雰囲気へのこだわり
社食空間は、人間の五感(見る、聞く、触る、嗅ぐ、味わう)に心地良さを与えられる空気感、雰囲気造りへのこだわりが大切です。

人は、自分自身が体感する空気感や雰囲気で、その場の心地良さや違和感を感じます。第一印象で「いいね」と感じてもらえる演出が必要です。
具体的には、
・気持ちの良い空間の広がり 
・窓越しの景観
・お洒落で機能美を兼ね備えたテーブルや椅子、ソファなどの家具類のデザインと上質なマテリアル感 
・空間の色彩バランス(壁面、家具、床、調度品等の色合いと調和)
・照明方式とライティング技法(直接、間接、照度、光色や演色性など)
・リラックスできるBGMと空間の香り
・美味しい食べ物
・運営キャスト
といったものです。
人間の感性に訴え、快適で心和む雰囲気を醸しだす仕掛けを創りだすことが不可欠です。

2. 食と味へのこだわり
美味しい食べ物は誰もが喜ぶアイテムです。
社食の利用時間は、一般的にはランチ時間が多いと思われますが、社員のシフト労働時間に合わせて、朝から夜まで運営するところもあります。

運営時間だけの問題ではなく、ランチ時や夜の会には、懐石料理やフレンチが食べられる社食、寿司カウンターで本格的な握り寿司が食べられる社食、一流ブランドシェフの料理や行列のできる人気店の料理が楽しめる社食など、常識的には考えられないコンセプトで食の場をプロデュースする挑戦も社員の喜びやわくわくを醸成してゆけます。

もちろん、通常はカレー、ラーメン、丼や定食といった手軽で安く食べれる定番メニューを揃えながらの事ではありますが。

また、ランチ時以外の時間帯には、香り高いコーヒーや軽食を提供し、あたかもスターバックスでリラックスしているような気分で仕事が捗る 場創りをしています。

3.運営キャストのこだわり
ラウンジ内の厨房やカウンターで給食サービスを提供している方たちは、社食空間演出上大切なキャストです。

良い事例があります。ディズニーリゾートで働くスタッフはキャストと呼ばれ、どのような職務であれ(例えば清掃係りとか)お客様へのホスピタリティマインドを持ったエンターテイナーです。彼らは、おもてなしの心でお客様を夢の世界にお招きするパフォーマーなのです。

社食で給食サービスを提供してくれる方たちには、社食という場で利用者である社員を楽しませてくれ、また元気を与えてくれるホスピタリアンとしての役割を担っています。

彼らの笑顔とさりげない声かけは、利用者にとって気持ち良く食事を楽しめる雰囲気作りに効果的です。
キャストのチーム構成は、給食業務を委託会社の専管事項ですが、委託する側からの要望を伝えながらチームメンバーを選定してもらう事は可能です。

4. 社食空間価値の効果測定と運営収支
社食は、社員間のコミュニケーションハブとして有用ですが、一方、経営(会社)側からの視点では、設置コストや運営コストが組織活性化や社員のモティベーション向上により会社業績の貢献に見合うのかを計測する必要があります。

然し乍ら、このような計測は可視化が難しく、投資・運営効果を経営側に理解してもらう為には仮説設定したベンチマーキング比較や利用者からの評価を考慮した評価基準を作らねばなりません。

通常、社食運営は委託会社に、フルターンキー方式でオペレーションを任せます。つまり、厨房設備、機器類の初期投資並びにメンテナンス費用と場所コストは会社側が負担し、給食サービスの運営を委託会社が担う方式です。

委託会社にとっては、社員の社食利用率が高くなれば、売上も伸び利益を上げることができます。委託会社に適正利潤を確保してもらい、安定した採算の見込める事業にしてゆくことが重要です。

安定した採算性運営ができてくると、初期投資した設備費や運営費用の圧縮や回収機会も生まれてきます。
社食運営を所管している総務人事部門は、委託会社と一体的に事業運営に深く関わる事が求められます。言わば、総務人事部門は「社内社食事業の経営者」なのです。

5. 社内営業とイベント企画
社食の利用率を上げる為には「社内営業」が欠かせません。
ランチ時の利用だけでなく、朝食時や夜のイベント、また週末の社外イベントや社員家族を招待するファミリーイベント、プロジェクトの打ち上げ慰労会、チーム懇親親睦会、ネットワーキングイベントなどの情報を集めながら、関係者に企画提案し、イベント等の開催につなげてゆく企画営業力も必要でしょう。

こうした活動は、委託会社の収益貢献に資することにくわえ、何よりも社員間の親睦やコミュニケーション促進、更には社員の会社への愛着を意識させるインナーブランディングにもつなげられます。

こうした取組を行なってみると、社食が「食場」ではなく「意識交流場」に変貌し社員、会社にとって有益な空間となりました。
社食空間を「ナレッジ空間」へ変貌させる事で、社員が元気になり、ナレッジワーカー&アーチスト達が、クリエイティブワークに邁進出来る環境創りは、総務FM部門の重要ミッションなのです。

コロナとの共存を念頭に置きながら、未来型の「社員食(職)堂」をデザインしてゆくことは、組織と人々の元気つくりにとても有用と思います。

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