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社会活動の「場」でウェルビーイングの創造が求められる時代に

Listen に掲載されました。

https://listen-web.com/story/okada-daishiro/?fbclid=IwAR1WXl1wfOZysMCc4NHk1nuURD_dEtjwg6cGl8wxsXFezYJGs1SmveN9V6o_aem_AYc6MrSnLax6xBqrYY7dj6g_qGN9-Ie2nJxrLuLDVdXaiL813fWm_TZ9sXd5bUInnvU

人は皆、会社や自治体、学校といった組織や団体に属し、生活や仕事を通じて常に他者と関わり合いながら生きている。さまざまな人と時間を共有する活動の「場」で、いかに幸福だと感じる時間を増やし、わくわくする毎日を送ることができるか――。

この問いに一つの解を出すべく、取り組み続けてきたのが、株式会社HLD Lab代表取締役社長の岡田大士郎だ。

「人生の活動の中で働くことは多くの時間を占めますが、目的は日々の糧を得るためだけではありません。生きているからこそ得られる喜びを感じ、わくわくとした気持ちで仕事をする。そうした『幸福な人生』を楽しむことが、働く意味なのではないでしょうか」

「組織」と「人」の両軸でウェルビーイングを創る「幸福創造経営」を志す企業を支援しようと、岡田は2019年、HLD Labを設立した。HLDはHappy Life Designの頭文字。コンサルティングをベースに、一人ひとりが存分に個性を発揮しながらも、組織として調和している“Happy Working”の「場」づくりを目指す。

「これからのビジネスやマネジメントは、ウェルビーイングの創造にかかっている」と岡田は言う。

2008年のリーマンショックや2015年のSDGs国連採択、ESG投資の広がりをきっかけに、「人」を資本とみなす人的資本経営に注目が集まっている。人の価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値の向上を目指す経営のあり方だ。人的資本経営でも従業員のウェルビーイングを高めることが重要とされるが、それには人の管理を担う経営者をはじめ、経営企画部、人事部、総務部といった部署が、従業員の健康や心理的安全性、公正性、ダイバーシティなどを担保し、個人のモチベーションやエンゲージメントを向上させる必要がある。

岡田は日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行以来、25年間金融業に従事したのち、2005年から13年間、大手ゲームメーカーのスクウェア・エニックスに勤めた異色のキャリアを持つ。米国法人のSQUARE ENIX, INC.の社長(COO)として事業経営に携わり、帰国後は本社総務部長に就任。従業員の創造性を刺激し生産性を高める「場」=「クリエイティブワークプレイス」の構築を行った。

「企業の人事部や総務部は、優秀で意欲的な人たちの育成を常に要求されます。特に数万人単位の従業員が働く大手企業は、大きな課題として感じているところです。人が能動的に考え、動き、価値を生み出す組織となるには、組織開発の視点に加え、場づくりの概念が不可欠なのです」

HLD Labは、人が生き生きと働ける場づくりとともに、経営者らが実務的な視点で学べるサービスも提供している。その名も「WAKUWAKU『場』づくり実装支援サービス」。リアルとデジタルの空間を融合させることで、ウェルビーイングを組織に実装することができるという。


リアルの熱気を生み出すためにデジタルで「場」をつなぐ
岡田は、わくわく働ける「場」は四つの空間によって構成されると定義する。人が集まり働くオフィスなどの「実体空間」、知識やアイデアなどさまざまな人の思念が行き交う「想いの空間」、チャットやメール、メタバースなどのデジタル空間上で人々がコミュニケーションする「仮想空間」、組織の歴史や文化、規範や制度を表す「組織空間」。この四つの空間を有機的に結び付けることによって、そこで働く人のウェルビーイングが生まれるというのだ。

そして、従業員の意欲向上に大きな役割を果たすのが、リアルとデジタルを融合させた形で提供する仕事の「ゲーミフィケーション」だという。

「ウェルビーイング・マネジメントの観点からすると、“やらされ感”を持ちながら仕方なく仕事をするのか、自ら進んでポジティブに活動するのかで、生産性が大きく変わります。おもしろいと感じる仕事ができると潜在能力が引き出され、創造性が高まるんですね。人が自ら行動を起こしたくなる仕掛けとして非常に有効なのが、行動に対するフィードバックや報奨をすぐに得ることができるゲーミフィケーション。大流行した『ポケモン GO』がいい例です」

ゲーミフィケーションを仮想空間に実装するためのコンポーネントとして、ブロックチェーン技術を基盤としたメタバースや、ゲームと金融を組み合わせたGameFi、NFTトークン、DAO(分散型自律組織)といった最新の概念やデジタル技術を活用する。

さらに岡田は、よりわくわくする体験を提供するために重要なのが、見る、聞く、触るなどの五感要素をデジタルで伝えることだと話す。そのためにリアルメタバースの軸となるXR(クロスリアリティ。VR/AR/MRなどの包括的な名称)やデジタルツイン、3Dホログラムといったデジタル技術の応用を提案する。

「わくわくと働ける場づくりの手段としてデジタル技術の活用を提唱していますが、私が最も大切だと考えるのはあくまでもリアルな実体空間です。メールだけのやり取りやバーチャル空間上で仕事を続けることはウェルビーイングではないと、コロナ禍で多くの人が気付きました。人と人が息を合わせ、熱気を生み出すことは、実体空間でしかできないことです。その導線として、デジタルという手段がある。リアルとデジタルの“ウェルバランス”が大切です」

人を変えるには限界がある。だから「場」を変える。心豊かに過ごせるオフィス改革を実行
では、リアルの場はどのようにあるべきなのか。

岡田はスクウェア・エニックス時代、「組織風土改革と働き方改革」というミッションを課せられた。クリエイターたちがヒット創出の重圧に押しつぶされることなく、生き生きと楽しみながら、多くの人に感動と喜びを届ける仕事をするにはどのような支援をすればいいのか。脳科学や心理学をひもとき、人間の研究と観察を重ねた。そして「従業員の意識を、指導やマネジャーとの1on1で変えるには限界がある」と悟った。着目したのは、人を取り巻く実体空間、オフィスを変えることだった。

「会社にはさまざまな個性を持った人が集まりますが、暗く狭い場所より明るく広々とした場所を好み、痛みより心地よさを求め、無味乾燥なものよりおいしい食べ物を求めるという本能的な欲求は同じです。人が心地よいと感じる形や色、音、肌触り、香り、食を用いて、五感を満たし、心も豊かにする空間づくりを行いました」

多くの人が集まるオフィスフロアは、デスク回りにあった仕切りを取り払い、全体を一望できるオープンな空間に変更。空いたスペースをミーティングができる場所にしたことで、活気が感じられるフロアを作り上げた。社員食堂は利用者がリラックスできるよう、空間効率は落ちるが、あえて曲線を多く取り入れるデザインを採用。食後にコミュニケーションを取りながら、eスポーツを楽しめる空間も整えた。

ほかにも靴を脱いでくつろげるスペースや、集中力を高めるための木の香りが漂うワークスペース、瞑想ルームを完備。眺望の良い場所に高級家具ブランドのチェアを置き、上質なものに触れたり、訪れた人と話題にしたりすることで、従業員がそこで働くことに満足感を得られるような工夫も施した。

「その先のパフォーマンスは働く人の気持ちによる部分も大きいですが、前向きな気持ちになる環境を整えることは、まさにウェルビーイング実装の一つの形と言えます」

スクウェア・エニックスの「クリエイティブワークプレイス」は、構築の準備に5年、さらに分析に5年を費やした。その結果、社内には確かな変化が現れた。職場のコミュニケーションと笑顔が増え、クリエイターの行動や意識が変化し、数多くの人気ソーシャルゲームが生み出された。ヒット確率は格段に上昇、ゲームメーカーとしては画期的な変化だという。

社会に生きるすべての人が幸せな人生を創造できる未来へ
今後は、この実体空間に多様なセンサーを組み込み、場の状況を可視化する「場のセンシング」を行うことで、従業員一人ひとりのウェルビーイング・マネジメントに生かす構想を練る。

「センサーで温度、湿度、明るさやCO2濃度を測定して心地よい室内環境を保つように、場のセンシングではセンサーを用いて人の健康状態や意識を可視化します。例えば顔色を判別する顔認証センサーや、声の質でメンタルの状況を推測する音声センサー、活動量を把握する行動センサーなど。監視行為とならないよう配慮は必要ですが、不調や変化の兆しをいち早く把握し、マネジメントに役立てることができます」

血圧や脈拍が測れるApple Watchのようなウェアラブル端末や、組織の「知」をまとめるAIも、ウェルビーイングを実装するテクノロジーとして可能性を見いだしている。

現在、岡田は大手上場企業にサービスを提供するほか、金融各社などが協業で構築するオープン・メタバース構想のアドバイザーや、スタートアップの価値付けとしても場づくりの思想を広めている。2022年2月には、全国の自治体と民間企業によって設立された一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団の専務理事に就任。地方自治体、公共サービスの従事者にも、リアルとデジタルの場の融合によるウェルビーイング創造の考え方を届けている。

「平和に満ちた幸福な社会を創るには、わくわくする気持ちを受け取る『幸福感受性』が多くの人に備わることも大切です。心が幸福感に満たされた状態を表す『ユーフォリック』という言葉がありますが、この心のユーフォリックケアにも、新たに取り組んでいます。コロナ禍を経て、働き方や生き方はさらに多様性を増し、人々はより自律的に価値を創造できる時代になりました。社会で生きる一人ひとりが、自ら幸せな人生をデザインする(Happy Life Design)、そんなお手伝いができればと思っています」公開日:2023年10月26日

Profile

1979年、株式会社日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行、ロンドンなどでの勤務を経験した後に、ドイツ銀行グループでDirector, Head of Taxesとして国際税務統括の業務に従事。2005年にスクウェア・エニックスに入社し、2007年まで米国SQUARE ENIX, INC.の社長(COO)として米国の事業経営に携わった後、「組織風土と働き方改革」をミッションとして本社総務部長に就任。その後、クリエイティブワークプレイスの構築を進め、本社スタジオの全面移転や、大阪事業所の移転プロジェクトに関与。クリエイティブ・ワークプレースダイナミクス、およびコンテンツ制作業務における価値創造支援を行う「場」づくりを実践。2019年1月に株式会社HLD (Happy Life Design)Labを創業。並行して、一般社団法人デジタル田園都市国家構想応援団専務理事、一般社団法人日本ライフシフト協会理事、一般社団法人日本ワーケーション協会特別顧問、一般社団法人ゲームカルチャー協会理事など、国家戦略推進、ソーシャル、ハピネス社会共創活動に取り組んでいる。

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